『ヒートアップ! 第3戦』−7

 

無我夢中で飛んだ。
ボールだけを見つめて伸ばした手の先に、信長の顔があった。
その鋭い眼を正面に見据えたまま、直江は息が触れるほど間近でボールを叩き落とした。
「ほぅ…」
信長の眼光が、すうっと不穏な色を帯びた。

次の瞬間、直江の体に青いプラズマが散った。
「直江!」
衝撃に思わず胸を押さえた直江の耳に、心配そうな高耶の声が聞こえた。
「大丈夫です。…あなたに力を使わせてしまいましたね…」
守るはずが、また守られてしまった。
苦い笑みを浮かべた直江を見て、ホッとした表情を浮かべると、高耶は信長を睨みつけた。
「試合中に力は使わない。それがルールだ。守れないなら帰ってもらおう。」
高耶の強い視線を見返して、信長は心地良さそうに唇の端を上げた。
「帰らせる? 大きな口を叩くものだ。ふふ。おまえたちにそんな事ができるとでも?」
問いかけながら、ふと心の隅に小さな疑問が生まれた。

今のプラズマ。もちろん大きな力は使っていない。ちょっとした遊びのようなものだ。
だが直撃すれば昏倒している。その程度には威力があったはずだった。
それを景虎は、指も上げずに打ち消したのだ。
そう、視線さえ向けなかった。
この男はそれだけの力を持ちながら、なぜわざわざ息を切らせて駆け回り、汗を滴らせて球を取り合うのだろう。
蘭丸もそうだ。キャンキャン吼えまわる頼竜はともかく、あの蘭丸まで顔色を変えて球を追っている。
なぜだ。なぜそんなに夢中になれる。
たかが球遊びに、それほどの価値があるとでもいうのか?

「力か。ルールなどと…無駄に枷をはめるのが好きな者どもだ。ふはは。そう睨むな景虎。
そんな瞳を向けられると、ますます泣かせたくなる。」
更に強く反発した瞳を見つめ、楽しげな笑い声をあげた信長は、転がったボールを追った千秋と、後を追って走る蘭丸に目をやった。
この遊びをもう少し本気でやってみるのも、面白いかもしれない。
まず手始めに、あの男の鼻先で球を獲ってやろうか。
信長の瞳に宿ったほのかな光は、蘭丸でさえ知らなかった色を含んで、小さく瞬いていた。

信長にとって、身体能力を上げることは簡単だ。
人の体には、脳によって生命維持の為に、限界が設けられている。
それを外してやればいい。体が壊れない程度まで、限界を引き上げればいいのだ。
だが…それでは簡単過ぎて面白くない…か。
ゴール下に立って、そんなことを考えていると、後ろから声が掛けられた。
全く、ここの連中は礼儀を知らぬ。と思った信長だったが、不思議と不快ではなかった。
この四国に満ちる濃い霊気のせいだろうか。
いつもとは違う、どこかこの状況を楽しんでいる自分がいる。
まあ良い。どうせ近いうちに世界の全てが我が足元にひれ伏すのだ。

何も言わずちらりと視線だけ向けた信長に、語りかけたのは嶺次郎だった。
「信長。おんしは無駄な枷と言ったが、『すぽーつ』っちゅうのんは、そん枷があるから、
 戦とは違うんじゃち、わしは思う。なんでも戦じゃつまらん。
 枷を嵌めたまんまで、どんだけやれるかっちゅうのんも、案外面白い。
 力を一切使わん自分の力、知ってみたいとは思わんか?」
嶺次郎の言葉に、信長はわずかに目を細めた。
「思わぬ。知ったところで意味は無い。」
そうバッサリと切り捨て歩き出すと、ふいに肩越しに振り返った。
「心配せずとも力は使わぬ。アレは後でゆっくり味わう方が、更に旨味が増しそうじゃ。」
倣岸な瞳に危険な輝きを満たして笑う信長は、背筋が凍るようなオーラを放っていた。

お待たせしました。と言いながら、試合はあまり進んでない…(^^;
やっと本気になった(?)殿は、これから活躍するのかしら??
次回を乞うご期待(笑)

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