『ヒートアップ! 第3戦』−5


「てめえ! いいかげんにしろよっ!」
執拗に食い下がる頼竜に、千秋の怒号が飛んだ。
頼竜のたくましい腕が、ボールを持つ手に触れそうなほど近い。
それを左手で遮りながら、できる限り体勢を低くしたドリブルで一気に抜けると、
今度は目の前に蘭丸が立ちはだかった。

「チィッ…てめえら、ホンットしつこいぜ…」
睨みつけた千秋の視線をうけて、
「ありがとう。褒め言葉と受け取らせてもらうよ。」
蘭丸は滴る汗を煌かせながら、余裕の笑みを浮かべた。

一方的な勝ち試合だと思っていた観客とは違い、千秋は信長を甘くみていなかった。
バスケのテクニックはどうあれ、彼らは勝つことに貪欲だ。
だから簡単に勝てるとは思わなかったし、むしろそうなることを望んでいた。

何の気遣いもなく本気で戦える、本物の敵。

もちろん赤鯨衆が相手でも、手加減する気などなかったが、やはり気構えが違う。
胸の奥から、闘争心が湧き上がるのを感じた。
だが…。こんなのは違う!
「くっそぉ! ちまちま戦いやがって。 んな試合で満足かよ!」
吐き捨てるように叫ぶと、千秋は追いすがる蘭丸を振り切って前に出た。

信長がルールを知らなくても、蘭丸と頼竜は知っている。
どこで習ったのか、頼竜のドリブルは滑らかで安定したものだ。
パスもシュートも上手い。
それなのに…。

あからさまなチャージングを仕掛けてくるのが許せない。
ガードというには、行き過ぎた密着。
体当たりや肘打ちまで、当たり前のように平然と行う。
それも高耶相手だと特に激しいので、今や直江は敵よりも高耶のガードに張り付いていた。

「どけ、直江! これじゃゲームにならない。」
「いいえ。退きません! 彼らはあなたを狙っている。これはもうゲームじゃない。」
振り向きもせず、体全体で高耶を庇って立つ直江の後ろから、
「違う! ゲームだ!」
高耶の凛とした声が響き渡った。

「ゲームじゃなきゃならない。俺たちは今、バスケの試合をしてるんだ。」

振り返った直江の目に映ったのは、炎のような瞳だった。

―変わらない…と思った。

この瞳をずっと見てきた。
戦いに身を投じるとき、彼はいつもこの瞳をしていた。
自分を守ることなど考えもしないで、大切な何かを守るために戦う。
それが上杉景虎だった。

そして、それが仰木高耶だ。

彼が守りたいのは、己の身ではない。
どんなときでも、それは変わらなかった。
今も、彼が守られたいのは己の身ではない。
そんなことは、わかっている。
でも…

そんな人だから、俺は守りたいのだ。
あなたを…あなたひとりを…

「やらせてやれよ、直江。お前が守らなきゃなんねえのは、景虎の体じゃねえだろ?」
しっかりとボールをキープしたまま、千秋の目が笑った。

大丈夫。
俺たちは負けない。
こんな試合のまま終わらせない。

直江は一瞬だけ祈るように目を閉じると、黙って高耶の傍から離れた。

 

なんとか続きをUPできました(^^)
待って下さってた方に、心から感謝してます。
完結まで頑張るからね〜 よろしくお願いします!


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