「下間…頼竜。 信長を恨んでいた一向宗のおまえがどうして?」
思わず叫んだ高耶を、頼竜はギラギラした目で見つめ、口の端を歪めた。
「昔のことなどどうでも良いわ! 景虎。おまえを倒すのはこの私だ。」
戦うことしか頭にない。
こんな男と、まともな試合ができるのか?
不安を代弁するかのように、千秋が口を開いた。
「水をさして悪りいけど、頼竜…これはバスケの試合なんだぞ?
それでやる気か?」
まじまじと見られて、頼竜は改めて自分の格好を見直した。
菅笠に草鞋。
僧侶が荒行をする服装だが、どうみてもバスケには向かない。
「こ、こうすればいいだろう!」
顔を赤らめて菅笠と草鞋を脱ぎ捨てた頼竜に、蘭丸がバッグからシューズを出して渡した。
「サイズは合うはずです。備えあれば憂い無しってね。」
屈託の無い微笑を浮かべた蘭丸は、さすが怪物を上手くなだめる術を知っている。
全員が用意できたところで、試合開始のボールが上がった。
同時にジャンプした直江と信長の競り合いで、最初に勝ったのは直江だった。
「直江! こっちだ!」
パンッと高耶が手を叩く。
だがボールは高耶の頭上を超えて、千秋に渡っていた。
あっというまの速攻で、素晴らしい跳躍を見せて千秋の放ったジャンピングシュートが、
ボードを叩いてゴールに吸込まれた。
「やった! 一点先取だ。千秋、上手いぞ〜!」
譲が喜んで手を振る。
「ほお〜言うただけあって、なかなかやるもんじゃのう。」
腕を組んだ嶺次郎は、素直に感心して声を掛けると、
「まだまだ、そんくらいで本物のシュートとは言えんがな。」
小さく呟いてにんまり笑った。
「ふふん。喜んでいられるのも今のうちだぞ。さあ、見せてやれ、信長!」
ゴールから落ちたボールを掴んで、頼竜が痛烈なパスを放った。
スピードの乗った重いパスを軽々と受けとめた信長は、ディフェンスに入った高耶を体で押しのけてゴール下まで走ると、垂直ジャンプでひょいっとボールを落とし込んだ。
「と、殿っ?」
「信長!」
「ばっかやろう! てめえ、バスケのルール、知らねえのか!」
一斉に叫んだ敵と味方を見まわして、信長は平然と腰に手を当てた。
「何を慌てている。球入れのルールなど、わしが知るか。
ん? 何? 球を持ったまま歩いてはいかんのか。
ふむ…ならば次からはそうしよう。」
楽しそうに笑う信長に、怒りで顔を真っ赤にした頼竜が、言葉も出ないで肩を震わせた。
飛んでいってルールを耳打ちする蘭丸を見ながら、
「あん人も大変じゃのう。」
「けんど、あれ、あの高さまで良ぅ飛べたもんじゃ。」
口々に言う観客たちは、最初の緊張など忘れてのんびり笑い合っている。
これが嵐の前の静けさだったのだと、彼らは後で嫌というほど思い知らされるのだった。