『ヒートアップ! 第3戦』−3


「申すまでも無い。戯言をいいに来るほど暇ではないわ。」
言い放った信長の目は、奥底で暗い炎が燃えている。
「仰木。おんし、やるのか?」
問いかけた嶺次郎に答えるかわりに、高耶はまっすぐ信長を見つめて立ち上がった。
「いかんです! 仰木さん、試合なんて無茶だ!」
中川が止めるのも聞かず、コートの中央へ向かった高耶を、横から伸びた譲の手が遮った。

「待ってよ、高耶。あいつとやるならこれを飲まなきゃ。」
体に生えたツタをブチッと引きちぎり、譲は高耶の腕をしっかり掴んだまま前に立った。
「はい。口を開けて。……高耶。開けないと無理にでも飲ませるよ?」
顔は笑っていても、有無を言わせない雰囲気が漂っている。
(怖ぇえ…)
しかたなく開いた口に、譲は手で揉んだ葉を、ギュッと絞って汁を垂らした。

みるみる体に力が満ちてくるのがわかる。
「あんまり嬉しくない草だけど、ま、せっかく生えたんだし。使えるものは使わないとね。」
冗談めかして肩をすくめ、高耶の腕をゆっくり離した。
「勝てよな。見てるからさ。高耶と千秋と直江さんで、勝ってみせてよ。」
敵わないと思った絆を。その強さを、見せてくれ!

今でも胸の奥で軋む痛みがある。
オレよりも、もっと深い絆で繋がっている存在が、お前にはあるんだと知ったあの痛みは、今でもこの胸に消えずに残ってる。
だからってお前を思う気持ちで負けてるなんて、今はもう思っちゃいないけど。
それでも3人で戦うんなら、やっぱりお前達が一番だと思う。だから…。

「ああ。見てろよ、譲。必ず勝つから!」
力強く頷いて、高耶は前を見据えた。
コートの真ん中に、信長と蘭丸が立っている。
すっと高耶を守るように脇に立った直江は、その二人に向かって冷ややかに声をかけた。

「わかっていると思うが、この試合は1チーム3人で行っている。
そちらはあとの1人をどうするつもりだ? 二人だけなら試合は断わる。」

「ふ。それくらいわかっておるわ。3人目なら、もうそこに来ている。」
信長の視線の先には、千秋がボールを抱えて立っていた。
「長秀! まさかお前…?」
愕然とする直江に、
「はん。やめてくれよ。ンなことしたら、後で成田になんて言われっか。
俺じゃねえよ。」
千秋は心外だと言わんばかりに顔をしかめた。

「その通り。戦うのはこの私だ。久しぶりだな、景虎。
この試合、負けるのはお前だ。」
観衆を掻き分けて現れたのは、菅笠を深く被った長身の男だ。
高耶と戦う為だけに、この四国までやって来ていた下間頼竜であった。

 


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