「血の気の多い連中だな。いいぜ。本物のシュートってもんを見せてやるよ。」
火に油を注ぐとはこのことだろうか。
ニッと笑った千秋に、彼らの闘気が一気に膨れ上がった。
「あ〜あ。もう…こんなに煽ってどうするんだよ。高耶が困るじゃないか。
「いいんだよ。どうせやるなら、きっちり対決しねえと面白くねえ。」
目を輝かせる千秋を見上げて、譲は呆れたように首を振った。
「しょうがない奴だ。1試合だけにしろよ。譲さん、私と一緒にお願いできますか?」
直江が嘆息しながら立ち上がる。
「そういうことだから、景虎。ちょっと直江借りるぜ。」
ぽんと肩を叩いてウィンクすると、千秋は楽しげにゴール下へと歩きだした。
「千秋、甘くみてると負けるぞ。」
後姿に声をかけた高耶は、どちらの勝利を望んでいるのか、自分でもわからなかった。
「さあ。誰が出るんだ?」
腰に手を当て、挑戦的に見廻した千秋に向かって、それぞれが一歩踏み出そうとした時、
高耶の表情がサッと変わった。
燃えるような瞳で、空の一点を見つめたその先に、黒いものが近づいて来る。
やがてバラバラという大きな音と共に、強い風が吹きつけた。
「なんじゃあ、おんしらは! 何者じゃ!」
真っ先に嶺次郎が叫んだ。
空中に静止したヘリコプターから、縄梯子を伝って地上に降りてきたのは、
優しく微笑む若者と、恐ろしいほどのオーラを放つ青年だった。
「信長! 蘭丸! 何をしに来た!!」
力を溜めて低く身構えた直江が叫ぶ。
「この男が信長…」
ゾクリと背筋に冷たいものが走る。
ざわめきが水を打ったようにシンと静まった。
「おんしが信長か。この四国は、われら赤鯨衆が守っちょる。
おんしがここに来た理由によっては、足を踏み入れさせるわけにいかんぜよ。」
嶺次郎が一歩も退かずに睨みつける。
その瞳を平然と見つめて、蘭丸がにこやかに微笑んだ。
「理由ですか。ふふふ。そんなに身構えなくても、ぼくらはバスケを見に来ただけですよ。なかなか面白い試合をしてると聞いたのでね。」
「な、そんな理由で? おまえら…俺達をバカにしてんのか!」
潮が思わず声を荒げた。
「バカになんてしてませんよ。たまにはそういうのも面白いかと思っただけで。
それとも今ここで戦いたいんですか? いいですよ、それでも。
あなた方が死に急ぎたいならね。」
蘭丸の余裕たっぷりの微笑みが、神経を逆撫でする。
一触即発ムードが漂う中、信長が声を上げた。
「いいかげんにしろ、お蘭。無駄話などさっさとやめて、早く試合をしないと日が暮れる。
景虎、嫌とは言わさぬ。やろう。果てるまでな。」
「えっ! 殿? ご自分がなさるのですか?」
驚く蘭丸に悠然と頷くと、信長は高耶の瞳をじっと見つめた。
こちらの都合など、おかまいなしだ。
嶺次郎も高耶も、こんな振る舞いを黙って許す気はなかった。
だが信長がどんなバスケをするのか、興味はある。
「信長。本当にやる気なのか?」
高耶の真紅の瞳が、きらりと光った。
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