雪の女王は、手に持った銀のスティックで、千秋の方を指しながら、
「ふふふ。元気がいいわね。でもこれ、仮面だけの仮装じゃないのよ。」
見ててご覧なさい。と言う女王に、
「ったく先に言うなよ、綾子。せっかくこいつらを驚かそうと、楽しみにしてたんだからさ。」
そういうと、千秋はマジシャンのような手つきで、スッと仮面を外して顔を上げた。
瞳が灰色に変わっている。
見る見るうちに、顔が変わり髪が銀色に変わって、千秋はスーツを着た狼に変身していた。
「どうだ。クールな狼男だろう?」
スチャッと仮面を顔に戻し、千秋は狼になった手で、クイッと仮面の位置を整えた。
「う〜ん…クールっつか、カッコイイのは認めるけど…これって仮装なのか?」
高耶の正直な感想に、直江と綾子が同時に千秋の顔を見る。
千秋は両手を上に向け、小さくうめいて眉を顰めた。
「てめえはぁぁ〜ッ!なんでソコなんだよ! もっと他に言う事があんだろ〜」
「しょうがねえだろう? それが一番気になったんだよ。っつか、あれって変身じゃねえの?」
「うるせぇ! 俺は狼男じゃねえんだから、あれは仮装でいいんだ。間違いなく仮装だ!」
無茶な理論だと思うが、魔法使いの間では変身も仮装のひとつなのだろうか?
ハリボテの頭が、直江の方を向いて、尋ねるように少し傾いだ。
「そうですね…まあ、仮装と言ってもいいんじゃないでしょうか。」
直江が苦笑しながらそう言うと、高耶はフウンと頷いて、千秋のふさふさした毛皮のうなじをそっと撫でた。
「すげえ。気持ちいいな。中身はそのままで、体だけ狼になるなんて、信じられねえ。」
気持ち良さそうに何度も撫でる高耶に、千秋は思わず鼻をこすりつけたくなってしまった。
違う! ダメだ! 俺は狼じゃない。
ブンと頭を振って、千秋は元の姿に戻った。
色々話をしてみると、綾子も直江の昔からの友人で、今日は来ていない色部と4人でチームを組んで戦ったりもしたらしい。
昔の話や共通の友人の話を始めた3人に、高耶はトイレに行くと言って傍から離れた。
綾子の隣で楽しそうに笑う直江を見ていると、なんだか苦しくて、そんな自分が情けなかった。
だから一人になりたかったのだが、こんな時に限って大勢の人々に囲まれてしまった。
「どこから来たの?」
「あのバンパイアとは、どんな関係?」
「千秋と仲がいいんだね。どうやって知り合ったの?」
口々に言う知らない人達の質問攻めにあって、高耶は困り果ててしまった。
こんなところで喧嘩はしたくない。
でも、このままだとキツイ言葉を言ってしまいそうだった。
消えたい。
誰もいないところに行きたい!
そう強く願ったとたん、高耶の姿が掻き消すように見えなくなった。
それだけではなく、一瞬のうちに数メートル移動していたのだ。
高耶はブーツの力だと思っていたが、ブーツだけでは瞬間移動の力はない。
ブーツの魔法と、高耶の持つ魔導士の加護が、複雑に絡みあった偶然の産物だったのだ。
不安定な力は、時に思いも寄らない結果を招く。
「ねえ待ってよ! いいじゃない、ちょっとだけでも一緒に飲もうよ。」
知らない誰かの手が、ハリボテの頭を外そうと、グッと持ち上げた瞬間、高耶はまるで本物の幽霊のように、装束だけを残して消えた。
高耶は、なぜか体長10センチほどの、小さなコウモリに変身してしまったのだ。
雪の女王には、銀色の狼。だったらバンパイアにはコウモリが似合う。
深層心理で、そんなことを考えたのか、どうなのか。
とにかく高耶は、気が付いた時には、真っ黒なコウモリになって、直江のもとに飛んでいた。
あとひとつ。どうぞおつきあい下さいまし(^^;
拍手ログに戻る
小説のコーナーに戻る
TOPに戻る