『魔法使いのハロウィン−3』

 

「トリック オア トリート。 良い夜ですね。」
「おお、これはこれは。ようこそ、バンパイア殿。ずいぶん久しぶりじゃないか。」

美しい宮殿のホールに立った雷神は、合言葉に目を細め、嬉しそうに笑って二人を出迎えた。
大きな体を揺らす度に、背中の太鼓がポポンと鳴る。
でも雨雲は来ないから、これも仮装だ。

直江の知り合いらしい雷神は、高耶の手を握ると、いいねえ、シュールだ。を連発して、
「ようこそ、ベリーナイスなオバケさん。楽しんでってくれよ。」
手を離せと睨む直江を笑いとばして、わざわざパーティーのテーブルまで案内してくれた。

それだけでも1名が高耶を気に入ったのは確実なのに、そのうえ皆の視線が、妙に自分たちに集まっている気がする。
思わず目が行く見惚れるようなバンパイアと、手作り感いっぱいのハリボテ幽霊の組み合わせは、
ミスマッチがとても新鮮に見えて、かえって注目の的になってしまったのだ。
直江は心の中で悲鳴を上げた。

それでも最初の頃は、話しかけたくても話しかけられなくて、遠巻きに見ている程度だった。
直江のガードが堅いせいもあるが、なにより高耶自身が初めてのパーティーに緊張して、
ギンギン睨んでいるのでは、よほどの者でなければ近寄れない。
そんな高耶に、なにげなく寄り添っているバンパイアが、あのギルドの凄腕『ナオエ』であることを
知っている者は、尚更このハリボテ幽霊の正体を知りたがっていたが、それを聞く勇気のある者は無かった。
…この時には、まだ来ていなかったのだ。

 

「トリック オア トリート! なんだよ。 お菓子は貰えないのか?」
「そうさ。お菓子を渡したら帰っちまうだろ?」
エントリーホールから、よく知っている声が聞こえた。
明るい笑い声が響く。
「千秋だ! 千秋が来たぞ!」
「まあぁ久しぶりねぇ」
あちこちで千秋の名前が囁かれている。

大賢者というのは、本当だったのかもしれないと、高耶が少し見直しかけた時、
「よお、直江。相変わらずキザが似合ってるぜ。
 チビ虎は…なんだそりゃ? 幽霊って聞いてたが、雪だるまのオバケか?
 なんか不器用もここまで見事だと芸術だな。」
千秋は周りのざわめきをものともせず、いつもの飄々とした態度で片手を上げた。

本当に、いつもと変わらない。
仮面をつけて洒落たスーツでバッチリ決めていても、やはり千秋は千秋だ。

「うるせえ! 不器用で悪かったな。おまえこそなんだよ、それ。
 仮面つけりゃ仮装ってもんじゃねえだろ」
いつもの調子で高耶が言い返すと、場内の空気がホオオ〜とどよめく。

「失礼なことを言うな。雪だるまに似て素晴らしく可愛い幽霊じゃないか!」
直江の更に失礼なフォローは、千秋の後ろから現れた雪の女王のインパクトに押されて、高耶の耳には入らなかった。

 

あと少し続きます。雪の女王は誰かな?(←わかるよね?/笑)

背景の壁紙は、こちらからお借りしました。→

  拍手ログに戻る

小説のコーナーに戻る

TOPに戻る