「え? 幽霊が消えた? そんなバカな!」
床に残された白い頭と布を抱えて、直江は呆然とその場に立ち尽くした。
「有り得ねえ…あいつに渡したブーツは、ほんの数秒だけ姿が消えればいいとこだぜ?」
驚いて呟いた千秋に、直江がハッと顔を上げた。
「無い。ここにはブーツが落ちてない。ここにあるのは、幽霊の扮装だけだ。
高耶さんは、消えたんじゃない。もしかしたら、小さくなってしまったのかも!」
いきなり床に這いつくばって、高耶を探しまわる直江の上を、コウモリがパタパタと飛び回る。
『直江! 直江! 俺はここだ。』
一生懸命に叫んでも、キイキイとしか聞こえない。
目を凝らして床を探している直江には、小さなコウモリの鳴き声など、耳に入らなかった。
「どうしたの? 何が言いたいの?」
高耶に気付いて、優しく手に包み込んだのは、雪の女王。
綾子だった。
普通のコウモリとは、明らかに違う大きさ。
せっせと直江に向かって何かを訴えている姿に、綾子はマジマジとコウモリを見つめた。
きらきら光る綺麗な瞳。
手から逃れようと暴れながら、生意気に睨みつける感じが、さっきの雪だるまモドキに重なる。
「ねえ、直江。高耶さんって、この子なんじゃないの?」
高耶を捕まえたまま、綾子は直江にくっつくようにして呼びかけた。
『ちくしょう! 直江に近づくんじゃねえ! 直江のバカ。お前も何とか言えよ!』
キイキイ喚きながら激しく暴れるコウモリに、やっと気付いた直江は、大きく目を見開くと、
綾子の手から奪うようにして抱きしめた。
「高耶さん…良かった… あなたが無事で良かった…」
ちっとも良くない。
こんな姿のままで、ずっといなきゃならなかったら、お前はどうするんだ。
これじゃお前に何もしてやれない。
お前が好きだって言うことも、抱きしめることもできない。
高耶の目から、涙がポロポロこぼれた。
押し当てた頬が濡れて、高耶の涙に気付いた直江の目からも、綺麗な涙がひとつぶ落ちた。
その瞬間、高耶は直江の腕の中で、元の姿に戻っていた。
「何だ。いるじゃねえか。どうなってんだよ? チビ虎の奴、どっから湧き出たんだ?」
汗だくで戻ってきた千秋が、呆気にとられて綾子に尋ねる。
「さあね。あたしにもわかんないけど、いいじゃない。
ハロウィンなんだし、まだお菓子を貰ってない魔法使いが、なんか悪戯したんでしょ。
ほらほら、とっておきのご馳走が出てきたわよ!
さあ、食べよう。食べよう。」
綾子が元気よく声を上げて、美味しそうな料理が並んだテーブルに、千秋や皆を追い立てる。
そのあと幽霊から人間になった高耶が、バンパイアの獲物になったのは、言うまでも無い。
ハロウィンの夜は、こうして賑やかに更けていった。
2007年10月4日
こうしてタグ打ちしてると、猛烈に直したくなりますね〜(苦笑)
でも直さない。…のは、直すとキリが無くてUPする気がなくなるから…(^^;
おつきあい下さってありがとう! 感謝です
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