『魔法使いのハロウィン−2』

 

ハロウィンの当日、高耶は部屋に入ったまま、なかなか出て来なかった。

「高耶さん、大丈夫ですか?」
トントンと扉を叩いて、声を掛けても返事がない。
心配で部屋に入った直江を迎えたのは、白い幽霊…(?)の扮装に、悪戦苦闘中の高耶だった。

「何をやってるんです。どこからそんなものを!」
高耶には、バンパイアの獲物として、仮面とタキシードを用意していたはずだ。
それが何故こんな雪だるまモドキに変わったのだろう?

いや、もちろん高耶が作ったらしい装束を、
「そんな」や「こんな」と言っては失礼だと思うが。
だがしかしこれは…

直江は小さく溜息をつくと、明後日の方向を向いているハリボテ幽霊の頭を両手で持ち上げ、
かぼちゃのランタンみたいな顔を、高耶の目鼻の位置に合わせてやった。

「ハア〜助かった。息が出来なくて死ぬかと思ったぜ。」
ペタンと床に座りこんだ高耶は、体に纏った白い布をたくし上げて、足に黒いブーツを履いた。
「よし、これで完璧っと。どうだ? これなら中身は全然わからないだろ?」
得意そうな声に、直江は頷いてから辛そうに言葉を継いだ。
「ええ、とても素敵です。でもこのスタイルでは、せっかくの御馳走が食べられないんじゃ…」

頭の中でガーンと音がした。
言われるまで気付かなかった自分が恨めしい。
でもバンパイアの獲物だなんて、あんなこと人前でされるわけないと思っていても、
なんだか意識してしまって落ちつかないのだ。
衣装まで用意してくれた直江には悪いが、あれは困る。

千秋にそれとなく仮装の相談をしたら、
『いいんじゃねえの? だったら、このブーツ貸してやるよ。
 新作アイテムで、消えたいって念じれば姿が消える。
 魔法のマントと違って効力は数秒だが、幽霊っぽさ倍増だぜ。』
と笑っていたから安心していたが、こんな落とし穴があったとは…

しょんぼり項垂れた肩に、そっと直江の手が置かれた。
「嘘ですよ、高耶さん。食べる時には仮装を解けばいいんです。さあ、顔を上げて。
 もうすぐパーティーの時間だ。 知ってますか? ハロウィンは幽霊が主役なんですよ。」
ハリボテの目の穴を、覗き込んで直江が微笑む。

今夜の直江は、フロックコートにシルクハット。手袋は真っ白で滑らかなシルクだ。
姿も物腰も紳士そのものなのに、口元の大きな2本の牙が野性の獣を思わせる。
バンパイアに捕われる獲物は、こんな気分なのだろうか。
うるさく鳴る心臓の音を振りきるように、高耶は勢い良く立ち上がった。

とたんに大き過ぎるハリボテの頭が、グラリと揺れた。
バランスを崩して足がふらつく。
その体を、直江は手を伸ばして、さりげなく支えた。

これは思ったより良いかもしれない。
獲物の扮装を口実に、高耶をずっと傍に引きとめようとした計画は、
あっさり消えてしまったが、転びそうになるのを支えるなら、文句を言われる心配は無い。
それにこの姿なら、また誰かに気に入られてしまう心配もないだろう。

だがそんな直江の考えは、またもあっさり裏切られることになる。

 

まだ続きます。長くてごめんなさい〜(><)

背景の壁紙は、こちらからお借りしました。→

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