ゲームセンターの店内は、割れたガラスや転がった椅子が床に散乱し、台風でも来たのかという惨状になっていた。
入り口の自動ドアを開けようとしない店員に焦れた直江が、 楢崎と二人でドアを割って押し入ったのだ。
驚愕した店員たちは、ビビって奥へ駆け込む途中、1人が椅子を蹴り散らかし、もう1人がその椅子に躓き転んでひっくり返る有様で、 おかげで抵抗されずに済んだものの、照明の消えた店内は、奥に行くほど薄暗いうえに、ゲーム台が邪魔で見通せない。
呼びかけてみても仰木の返事は無い。
仕方なく中央のカウンターを境に、右と左の二手に分かれようかと考えた矢先、左側の奥から男達が襲いかかってきた。
「こっちか!」
殴りかかった一人を交わし、直江が奥に走った。
後を引き受けた楢崎は、一人目に当て身を喰わせ、二人目で少々手間取っている。
「仰木刑事!」
ゲーム台の間に蹲る黒い影を見つけて直江が叫ぶ。
だが声に応えて現れたのは、頭をツルツルに剃りあげた海坊主のような大男だった。
一瞬、気付くのが遅れた。
直江の頬を、男の拳が掠める。裂けた皮膚から血が滲んだ。
「そこを退け。」
地を這う声に、
「ああん?誰に言ってるつもりだ?」
せせら笑いが被さる。
「貴様にだ!」
直江の拳が男の腹を抉った。
ビシッと硬い手応えに、直江はチッと舌打ちを漏らして身構えた。
この男…腹に何かを巻いている。
「残念だったな。腹には効かねえのよ。」
睨む直江を嘲笑い、男が再び拳を繰り出す。
直江は顔面を狙ってくるパンチを右腕で受け、男の向こうずねに痛烈な蹴りを入れた。
「イッ…ツゥゥ…」
男は忽ち膝を抱えてうずくまった。
だが通路を塞ぐ大きな体が、邪魔なことには変わりない。
「迷惑な…」
直江は眉間に皺を寄せ、男とゲーム機の狭い隙間をすり抜けた。
仰木らしい影が見えたのは、このすぐ先だ。
「仰木刑事!」
手を伸ばした直江の背後から、もうひとりの男が襲いかかった。
ハッと直江が振り向く。と同時に、男が目を剥いて後ろに下がった。
「う…ッ…」
呻いたのは仰木だった。
男は股間を押さえて悶絶している。
仰木の渾身の蹴りが、たまたま急所を直撃したのだ。
その反動で、仰木は胸を押さえて喘いでいた。
「なんて人だ! 無茶にも程があるだろう! 仰木刑事!」
抱きかかえて、直江は思わず声を荒げた。
玉のような汗が、仰木の額に浮かんでいる。
見るからに重傷だ。内臓を損傷しているかもしれない。
「刑事…刑事って…うる…せーよ…俺には…高耶って名前が…」
半ば譫言のように呟いて、仰木は意識を手放した。
ふぁんふぁんと、サイレンの音が聞こえていた。
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