目が覚めて最初に見えたのは、見慣れない男の顔だった。
『ハンサムなインテリ』をそのまま形にしたような端正な顔に、なんだか見覚えがあるような気がして、
「…どこかで会った…か?」
呟いたとたん、男の目にホッとしたような呆れたような色が浮かんだ。
「その言葉、二度目なんだが…
私は直江信綱。昨日から城北署の捜査1課勤務になった警部補だ。」
声を聞いて、高耶はガバッと身を起こし…かけてベッドに突っ伏した。
「いッ…」
痛いなんてもんじゃない。
マジで息が止まる痛みに声も出ず、高耶は無言で直江を見上げた。
ちょっと涙目になってはいても、その瞳は初めて会った時と同じ、いや、あの時よりもっと強い光を宿している。
吸い寄せられるように瞳を見つめ、直江は高耶の肩まで毛布を引き上げた。
「動かない方がいい。肋骨2本と胸骨の骨折に心挫傷が加わって、もう少しで緊急手術になるところだったんだ。安静にしないと…」
そう言って立ち上がった直江の手を、高耶は思わず掴んでいた。
聞きたいことが、山ほどあった。
ゲームセンターで、男達と乱闘になったことまでは憶えている。
でもそこから先の記憶は曖昧で、ここが病院だということはわかっても、
あれから何がどうしてどうなったのか、何も知らない状態で大人しく寝てなどいられない。
どうしても、気になることがあるのだ。
全部が無理なら、ひとつだけ…それだけでいいから…
「待…てよ…。あん…た、なんで来た…? なんで俺の…」
声が掠れて喋れない。
もどかしさに、高耶は直江の腕に縋るようにして、体を起こしかけた。
「寝ていなさいと言ったつもりだが?」
直江は小さく溜息を吐くと、高耶の背中を支えてベッドに戻し、再び傍らの椅子に腰掛けた。
「どこにも行きはしない。千秋に…千秋課長に、君が目を覚ました事を伝えようとしただけだ。」
不安なのかと思ったらしい直江の態度に、高耶は眉を顰めて首を振った。
「ひとつ…聞きたかっ…だけ…だ。 どうして…あの店に俺がいると…?」
ようやく出るようになった声で、たどたどしく話す高耶に、直江は訝しげに目を細めた。
聞きたい事が、ひとつだけ?
他にも知りたいことがあるはずなのに、何故そんなことを知りたがる?
その理由に辿りついた時、直江は高耶の瞳を見つめなおしていた。
瞳の奥にあるものを、探し出そうとするように…
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