『ディア・ディテクティブ』−7

署に連絡を入れて、少年課から情報を仕入れた楢崎と直江は、
溜まり場になりそうな場所を幾つか教えてもらい、
現場から少し離れたゲームセンターに向かっていた。

「何事も無ければ良いが…」

硬い表情で呟く直江の横顔を見て、楢崎が少し表情を和らげた。

「仰木さんのことだから、大丈夫とは思うんですけどね。
 …俺、ちょっと安心しました。 直江警部補、案外いい人なんだ。」

へへッと笑って前に出た楢崎は、
「早く、早く!」
と直江を急かして走り出す。

案外って…

いい人などと男に言われたのは初めてだ。
しかも微妙に誉めてない。

それでも、肩を竦めた直江の顔から、眉間の皺が消えていた。

 
目指すゲームセンターは、書店や様々なショップが立ち並ぶ、賑やかな繁華街の奥にある。
平日の午前中で、この時間帯はまだ人通りも少なく、美しいカラータイルで舗装された道に、アーケードを叩く激しい雨が、大きな音で反響していた。

傘を畳み早足で急いだ2人は、ビルの陰から出たり入ったりしている1人の少年を見て、同時に速度を緩めた。

「うた…?」

楢崎が目をみはって呟いた。

「知り合いか?」

小声で尋ねた直江にコクンと頷いた楢崎は、次の瞬間ハッとした顔でブンブン首を振った。

「違う!そんな…卯太郎は…あいつは万引きなんかする奴じゃない…」

青いチェックのシャツとジーンズ、年頃も印象もコンビニの店員が言った姿と一致する。

直江は楢崎を置いて、卯太郎に近づいた。

スタスタ歩いてゆく直江に息を呑み、楢崎は慌てて背中に追い縋った。

「俺が行きます!」

動揺を隠せない瞳で訴える楢崎を見つめ、

「私情で動くなら、やめた方がいい。」

突き放すように言った直江は、

「不安なのは、無関係だと思えないからだろう?
 だったら考えることだ。
 君は何の為に、ここにいる?
 今、何をしようとしているんだ?」

言いながら卯太郎に視線を戻し、足を早めた。

グズグズしては、いられない。
この少年が万引き犯ならば、なぜ仰木刑事が一緒にいないのか…
答えは、きっと少年が知っている。

声を掛けようとした時、商店街の奥を見ていた少年が、突然アッと小さな叫びを漏らして後退った。

 

 

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