署に連絡を入れて、少年課から情報を仕入れた楢崎と直江は、
溜まり場になりそうな場所を幾つか教えてもらい、
現場から少し離れたゲームセンターに向かっていた。
「何事も無ければ良いが…」
硬い表情で呟く直江の横顔を見て、楢崎が少し表情を和らげた。
「仰木さんのことだから、大丈夫とは思うんですけどね。
…俺、ちょっと安心しました。 直江警部補、案外いい人なんだ。」
へへッと笑って前に出た楢崎は、
「早く、早く!」
と直江を急かして走り出す。
案外って…
いい人などと男に言われたのは初めてだ。
しかも微妙に誉めてない。
それでも、肩を竦めた直江の顔から、眉間の皺が消えていた。
目指すゲームセンターは、書店や様々なショップが立ち並ぶ、賑やかな繁華街の奥にある。
平日の午前中で、この時間帯はまだ人通りも少なく、美しいカラータイルで舗装された道に、アーケードを叩く激しい雨が、大きな音で反響していた。
傘を畳み早足で急いだ2人は、ビルの陰から出たり入ったりしている1人の少年を見て、同時に速度を緩めた。
「うた…?」
楢崎が目をみはって呟いた。
「知り合いか?」
小声で尋ねた直江にコクンと頷いた楢崎は、次の瞬間ハッとした顔でブンブン首を振った。
「違う!そんな…卯太郎は…あいつは万引きなんかする奴じゃない…」
青いチェックのシャツとジーンズ、年頃も印象もコンビニの店員が言った姿と一致する。
直江は楢崎を置いて、卯太郎に近づいた。
スタスタ歩いてゆく直江に息を呑み、楢崎は慌てて背中に追い縋った。
「俺が行きます!」
動揺を隠せない瞳で訴える楢崎を見つめ、
「私情で動くなら、やめた方がいい。」
突き放すように言った直江は、
「不安なのは、無関係だと思えないからだろう?
だったら考えることだ。
君は何の為に、ここにいる?
今、何をしようとしているんだ?」
言いながら卯太郎に視線を戻し、足を早めた。
グズグズしては、いられない。
この少年が万引き犯ならば、なぜ仰木刑事が一緒にいないのか…
答えは、きっと少年が知っている。
声を掛けようとした時、商店街の奥を見ていた少年が、突然アッと小さな叫びを漏らして後退った。
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