「い、痛い…くそぉ…放せよ…腕が折れる」
腕を掴まれたままの男から泣きが入る。
体を捻って羽交い絞めを逃れた仰木が、脇を締めて腕に力を込めたのだ。
多勢に無勢でも、こんな奴らに負けはしない。
だが、仰木は知らなかった。
この事件の陰に、おとなしい学生を脅して万引きさせ、それをネタに恐喝しようと企む連中がいることを…
掴んだ腕を捻り上げ、上体を沈めながら後ろに足を蹴り出した仰木は、
正面から殴りかかってきた男の腹に、強烈な右パンチを決めると、
顔を上げて店の中央に目を向けた。
中央にあるカウンターには、確か店員が2人いたはずだ。
いくら隅の目立たない場所とはいえ、これだけ派手に騒いでいれば、
止めに入るか様子を見に来るのが普通だろう。
だが店員は2人とも、どこに行ったのか姿も見えない。
「…ったく、どうなってんだ!」
憤然と呟きながら、床に転がって呻く3人を見下ろし、仰木は少し困った顔になった。
「やっぱ署に連絡するっきゃねえか…」
さすがに1人で3人の面倒は見きれない。
店員が無理なら客に電話を頼もうと周りを見回した時、向こうから近付いてくる数人の人影が見えた。
声を掛けようとした仰木の前に現れたのは、どうみてもヤクザな雰囲気の男たちだ。
「やってくれるじゃねえか。どこの組のモンか知らねえが、
人が先に目ェ付けてた金ヅルを、横取りされちゃあ困るんでね。」
「覚悟しな!」
凄む連中に恐れをなして、チラホラいた客が一斉に外へ走る。
反対に外から入った店員が、入り口を塞ぐように立つのが見えた。
「なるほどな…店員もグルだったわけだ。もしかして店もか?」
鋭い目で睨んだ仰木に、
「だったら、どうだってんだ!」
気の荒い男が叫んで殴りかかった。
小説に戻る
TOPに戻る