『ディア・ディテクティブ』−5

万引きは犯罪である。
にも関わらず、生活に困って悪いと知りつつ盗った…というケースは少ない。

特に中学生や高校生などでは、数人がグループになって遊び感覚で万引きするケースもあり、
捕まえたら泣き出されて、
「うるせえ!泣くなら万引きなんかするんじゃねえ!」
と一喝したら、もっと泣かれた事もあった。

だが、こいつは違う。
少年を追った時、振り向いた顔に感じた違和感は、間違いではなかったのだ。

ゲームセンターの隅に身を潜め、仰木は少年を囲むように現れた3人の男に目を凝らした。

(やっぱりな…コンビニの前で見てた奴らだ。)

3人は少年より少し年上に見えるが、同級生かもしれない。

(ここで騒ぐとマズイな…)

本来なら、これは少年課か防犯課の仕事だ。
あまり騒ぎを大きくすると、また煩く言われることになる。

でも…

おずおずと手提げ袋を差し出す少年の手から、1人が当然のような顔で取り上げた瞬間、仰木は前に飛び出し、その腕を掴んでいた。

「てめえら、卑怯な事すんじゃねえよ。万引きするなら、自分でやれ!」

凛とした声に、4人が一斉に顔を向ける。

「てめ…っ!ずっと後を付けてやがったのか!」

「バカが…たった一人で俺らに勝てるとでも思ってんのか?」

3対1。数で優位に立った彼らは、上から目線で凄んでくる。

平然と見返した仰木は、掴んだ腕から手提げ袋を取り上げると、

「持ってけ! 店に返して謝るんだ。そんくらい、出来るだろ?」

万引きした少年の前に突き出した。

少年は、目を大きく見開いて、恐る恐る手を伸ばしてくる。

「トットと行け!」

「はいぃっ!」

焦れて怒鳴った仰木の剣幕に押し出され、少年は転がるようにして表に走った。

「やってくれるじゃねえか」

「タダで済むと思わねえよな?」

雨に濡れたTシャツの襟首を掴まれ、もうひとりに後ろから羽交い締めされそうになる。

仰木の瞳が、キラリと光った。

2008年11月8日

 

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