万引きは犯罪である。
にも関わらず、生活に困って悪いと知りつつ盗った…というケースは少ない。
特に中学生や高校生などでは、数人がグループになって遊び感覚で万引きするケースもあり、
捕まえたら泣き出されて、
「うるせえ!泣くなら万引きなんかするんじゃねえ!」
と一喝したら、もっと泣かれた事もあった。
だが、こいつは違う。
少年を追った時、振り向いた顔に感じた違和感は、間違いではなかったのだ。
ゲームセンターの隅に身を潜め、仰木は少年を囲むように現れた3人の男に目を凝らした。
(やっぱりな…コンビニの前で見てた奴らだ。)
3人は少年より少し年上に見えるが、同級生かもしれない。
(ここで騒ぐとマズイな…)
本来なら、これは少年課か防犯課の仕事だ。
あまり騒ぎを大きくすると、また煩く言われることになる。
でも…
おずおずと手提げ袋を差し出す少年の手から、1人が当然のような顔で取り上げた瞬間、仰木は前に飛び出し、その腕を掴んでいた。
「てめえら、卑怯な事すんじゃねえよ。万引きするなら、自分でやれ!」
凛とした声に、4人が一斉に顔を向ける。
「てめ…っ!ずっと後を付けてやがったのか!」
「バカが…たった一人で俺らに勝てるとでも思ってんのか?」
3対1。数で優位に立った彼らは、上から目線で凄んでくる。
平然と見返した仰木は、掴んだ腕から手提げ袋を取り上げると、
「持ってけ! 店に返して謝るんだ。そんくらい、出来るだろ?」
万引きした少年の前に突き出した。
少年は、目を大きく見開いて、恐る恐る手を伸ばしてくる。
「トットと行け!」
「はいぃっ!」
焦れて怒鳴った仰木の剣幕に押し出され、少年は転がるようにして表に走った。
「やってくれるじゃねえか」
「タダで済むと思わねえよな?」
雨に濡れたTシャツの襟首を掴まれ、もうひとりに後ろから羽交い締めされそうになる。
仰木の瞳が、キラリと光った。
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