仰木を追うのは、思った以上に大変だった。
窓から垣間見た姿を思い出し、見当をつけて探してみたが、
そんな曖昧な情報だけでは、何の足しにもならない。
「携帯は? 持ってないのか? 単独行動は、しないのが原則だろう!
緊急に連絡を取りたい場合、どうするんだ!」
思わず叱責口調になって、直江はキュッと唇を噛んだ。
「すまない…」
また眉間に皺を寄せた直江に、楢崎は屈託のない顔で、ちょっと肩を竦めてみせた。
「それ、そのまんま仰木さんに言ってやって下さいよ。
どんな顔するか見てみたいし…って、これは内緒にしといて下さいね。」
あの時、あんな態度を取らずに彼と話をしていれば、こんなことにならなかったのだ。
なのに楢崎は一言も直江を責めず、それどころか気を遣ってくれている。
直江は、もう一度「すまない」と詫びて、雨に煙る街路を見渡した。
「彼は…仰木刑事は、傘を差さずに走っていたが、あれは誰かを追って…?」
それなら、何か手掛かりが残っていないだろうか?
もし事件なら、被害者か目撃者が付近にいるかもしれない。
冷静さを失って、ただ闇雲に走り廻っていた自分を呪いながら、
直江は半ば独り言のように、声に出して呟いた。
「あ…そういえば、向かいの通りのコンビニ、店員が表に出てましたよね?」
「いや、だが警告灯は回っていなかったが…」
「「万引き!」」
二人の声が重なった。
急いでコンビニに走る。
店員に話を聞くと、予想通り万引き事件が発生していた。
盗られた物は、金額にして数千円。
たまたま通りかかった仰木が、店員の声を聞きつけ、犯人を追って走ったらしい。
「高校生くらいの男の子で、普通の感じだったけどねえ…
追いかけるの早かったから、捕まえてくれたかな?って思って、
何度か外に出て見てたんだけど、あれっきり戻って来ないんだよね。
…やっぱ逃げられたのかなあ?」
残念そうに首を捻る店員に、仰木が戻ったら署に知らせて欲しいと、伝言を頼んで店を出た。
もうかなり時間が経っている。
彼は少年を捕まえたのだろうか?
「高校生の万引き犯か…本当に一人だったのか?」
もちろん一人の場合もある。
だが、それなら捕まえて戻っているのではないだろうか?
疑問を口にした直江に、楢崎は顔色を変えて頷いた。
なんだか危ない目に遭ってそうな高耶さん…どこで何をしてるんでしょうか?
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