『朝顔』-5

 

「さあ、どうぞ奥へ。」
促されて玄関に足を踏み入れたとたん、目に飛び込んだのは、
色とりどりの花、花、花。
リビングに続く廊下にも小さな花が飾られて、
側を通り過ぎる高耶を歓迎するように、ふわりと花びらを揺らす。

「すげえ…壮観だな。家ン中なのに、花畑にいるみたいだ。」

目をみはって、嬉しそうに花を見回す高耶に、グラスを2つとシャンパンを手にした直江が、
「まずは乾杯しませんか?あなたの好きなドライアイスも有りますよ。」
にっこり微笑んで、軽くグラスを持ち上げる。

テーブルの上には美味しそうなケーキとオードブル。
ドライアイス用の、水と深めの器まで用意して…

高耶の瞳に、なんともいえない複雑な色が浮かんだ。

「やりすぎだ、などと言わないで下さいね。あなたの誕生日を祝えるんです。
 せめてこれくらいは、させてくれても良いでしょう?」

これでも控え目にしたのだと言う直江を見つめて、高耶は小さく肩を竦めて笑った。

直江がシャンパンの栓を抜く。
豊かな香りが広がった。

 

 
「おかわり」
突き出されたグラスを取り上げて、空のままテーブルに置いた直江は、
「もうダメですよ、高耶さん。」
と笑って肩を抱き寄せた。

「おまえが飲めって言ったんだぞ。こんな美味いの出すから悪いんだ。」
少しトロンとした瞳が、上目遣いに直江を睨んで、ふてくされたように下を向く。
被さった前髪を、そっと指で梳いてやると、高耶は直江の胸に半分だけ体を預けて、顔を上げずに呟いた。

「大体なぁ。俺は朝顔だけで充分だったんだ。それをこんな…」

抱えきれないほどの幸せを、俺はおまえに貰っている。
なのに俺は…

「貰ってばっかで、おまえに何もやれてない…」
囁きに満たないほどの声を聴きとって、直江は高耶の髪に顔を埋めた。

2008年9月30日

 

だんだん…だんだん…佳境(←こうれんさん談/笑)に近づいてる…かな?(^^;

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