『朝顔』-4

 

聞かなくても、理由は明白だった。

「違う。違うんだ、直江!」

嫌なんじゃない。
おまえと一緒に過ごしたい。
でも、泊まるんだと思って行くのと、帰りたくなくて泊まるのとは、なんだか感じが違って…

妙な緊張と不安と、それから変な期待みたいなものが、頭の中をぐるぐる廻って、
おまえの顔がまともに見れなくて…

恥ずかしくて居たたまれない。
ただそれだけだったのに…

「なんでこうなっちまうんだよ! 俺は…嫌だなんて言ってねえだろ!」
力いっぱい叫んで、高耶は真っ赤になって横を向いた。
「高耶さん…!」
伸ばされた直江の手が、高耶の手を探し当てて、そっと重なる。
その指を、指先でキュッと握り返した。
ユーターンした車は、今度こそ一直線に直江のマンションを目指して、飛ぶように走り出した。

 

マンションに着く頃には、高耶はすっかりいつもの自分を取り戻したようで、
もう手を伸ばしても握り返してくれないばかりか、
「ちゃんとハンドル握ってろ。事故っても知らねえからな。」
と憎まれ口を叩いて、名残惜しげに見つめた視線を、ムッと睨んで跳ね返してくる。

そんな仕草が可愛くて、直江は自然とこぼれそうになる笑みを抑えるのに苦労しながら、
驚異的なスピードで駐車場に滑り込んだ。
車を降りてからも、高耶はジーンズのポケットに手を突っ込み、直江より少し遅れてついて来る。
部屋の鍵を開けて振り返った直江は、悪戯っぽい目で微笑んでドアノブに手を掛けると、
映画に出て来る執事のように、恭しく高耶を招き入れた。

2008年9月27日

 

どういうわけか、まだ甘い夜に至ってないという…(^^: ああ…じれったい(笑)

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