旧制第一高等学校寮歌解説
御空に映ゆる |
大正10年第31回紀念祭寄贈歌 東北大
スタートボタンを押してください。ピアノによる原譜のMIDI演奏がスタートします。 | スタートボタンを押してください。現在の歌い方のMIDI演奏がスタートします。 |
1、御空に 春の光はおほどかに 北の旅路に行く水の うす紫にうつろへば 若きこゝろのおどるこそ 祭ことほぐ 2、彼方の空や丘の上 八寮の窓訪ひゆけば 大空高く歌ひ入る 自治の調はひヾくらん。 3、君が しづかに暮るゝその 三十路にあまる 今し滿ち來る歡に 甦り來し春の宴。 *「灯」は昭和50年寮歌集で「燈」に変更。 |
|
昭和10年寮歌集で、6箇所にタイ・スラーが付けられたのみで、他は全く変更はない。スラー・タイの箇所は次のとおり。 「はーゆる」(1段2小節)、「はーるの」(2段1小節)、「きーたの」(3段1小節)、「さーきに」(4段2小節)、「わーかき」(5段1小節)、「とーほぐ」(6段2小節)。 |
語句の説明・解釈
語句 | 箇所 | 説明・解釈 |
御空に |
1番歌詞 | 柔らかくてのんびりとした春の陽射しが宮城野の野に注いで、陽炎が大気中にゆらゆらと立っている。遊学先の仙台に流れる広瀬川の水の色が、冬の鎖された暗い色から、陽春の陽射しを浴びて明るいうす紫色に変わった。今日は、若い一高生の胸が高鳴る紀念祭の日である。 「御空に映ゆるかぎろひの」 「かぎろひ」は、揺れて光る意。陽炎。 万葉48 「東の野にかぎろひの立つ見えて かへり見すれば月傾きぬ」 「春の光はおほどかに」 春の光は柔らかくのんびりしている。「おほどか」は、おっとりしているさま。のんびりしているさま。 「北の旅路に行く水の うす紫にうつろへば」 遊学中の仙台に流れる広瀬川の流れが冬の暗い色から、春の陽射しに映えてうす紫色に変わったので。陽炎の立つ宮城野、水温む広瀬川でもって、北国にも春が来たこと、それはすなわち紀念祭が間近であることを告げる。 「北の旅路」は、東北大学のある仙台。「旅路」は、道中・旅の雅語的表現。「うす紫」は、川の澄んだ青い色が春の光に映えた色をうす紫と表現。川の流れは、雪に鎖された冬の暗い色から、春になると澄んだ青い色になる。「うつろふ」は、色が変わること。「行く水」は、仙台・青葉山を流れる広瀬川。 「若きこゝろのおどるこそ 祭ことほぐ朝なれ」 「祭」は、一高寄宿寮の紀念祭。遠く仙台にいても、紀念祭が来ると胸が騒ぐのである。 |
彼方の空や丘の上 八寮の窓訪ひゆけば |
2番歌詞 | 南の空の彼方、向ヶ丘の八寮を訪ねれば、才能に恵まれた一高生が、寄宿寮をめぐって一日中、大空高く響かんばかりに寮歌を大きな声で歌っていることであろう。 「彼方の空や丘の上 八寮の窓訪ひゆけば」 「丘」は向ヶ丘。「八寮」は、一高寄宿寮(東・西・南・北・中・朶・和・明の八棟)。「訪ひゆけば」は実際に訪れるのではなく、思いを向ヶ丘に馳せている。 「館めぐりて日もすがら」 「館」は、寄宿寮。「日もすがら」は、終日。ひねもす。 「希望に足らふ若人は」 望むもの全てが備わった若人が。才能に恵まれた一高生が。「足らふ」は、いろんな条件がすべてそろう、欠けることなくそろうの意。 「自治の調はひゞくらん」 「自治の調」は寮歌。 |
君が |
3番歌詞 | 君らは、静かに暮れて行く向ヶ丘の桜の木の下で、楽しそうに微笑んでいる。第31回紀念祭の喜びに、祭の灯も揺れているのか。今、我が胸に喜びが満ち溢れて来て、向ヶ丘にいた時の懐かしい紀念祭の宴の様子がはっきりと目に浮かんできた。 「君が笑の花の蔭」 桜の花の下で、君が微笑む。「君」は、後輩の一高生。 「三十路にあまる一年の」 30+1=31年。 「榮に揺ぐか丘の灯よ」 「灯」は、昭和50年寮歌集で「燈」に変更された。 「甦り來し春の宴」 向ヶ丘にいた時の紀念祭の宴の様子がはっきりと目に浮んできた。「し」は、回想の助動詞「き」の連体形。 |