旧制第一高等学校寮歌解説
淡靑春に |
大正7年第28回紀念祭寄贈歌 東北大
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1、 駒の嘶きはるけくも 2、 溢るゝ光身に 4、 眺めやらずや空の |
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現譜は、この原譜と同じ、変更はない。 |
語句の説明・解釈
語句 | 箇所 | 説明・解釈 |
1番歌詞 | 春の野に、若草の色に染まったうす緑色の霞がたちこめている。北の故郷に帰る雁がしきりに鳴くのを見るにつけ、故郷・向ヶ丘が偲ばれて、遙か遠くから聞こえる馬の嘶きも向ヶ丘の一高生の声かと思ってしまう。春の紀念祭が近づくと、向ヶ丘への郷愁が深まっていくばかりで、心が落ち着かない。 「淡靑春に霞して」 うす緑色の霞が春の野にたちこめて。「淡靑」は、淡い緑色。「靑」には、銅に生じる緑色のさび、緑青の意味がある。春芽吹いた草木の薄い緑色に霞が染まったさまをいうものであろう。 「歸雁の聲のしげきとき」 北へ帰る雁がしきりに鳴く時。「歸雁」は、春になって北へ帰る雁(春の季語)。「しげき」は繁しで、絶え間がないこと。故郷へ帰る雁をみて向陵への郷愁が一層深くなる。 「駒の嘶きはるけくも」 馬の嘶く声ははるか遠くから聞こえるが。「駒」は、一高生を喩える。遙か遠くから聞こえる馬の嘶きも向ヶ丘の一高生の声かと思ってしまう。 「男の兒の心そゝるかな」 向ヶ丘への郷愁が深まって、心が落ち着かない。 |
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2番歌詞 | 真理を追究する道は、果てしなく遠く、かつ真理は非常に深淵で奥深い。高い才能に恵まれ、前途有為の一高生が真理追求に挑む姿に思いを馳せる。 「道永劫の野につゞき」 真理を追究する道は、果てしなく遠く。「永劫」は非常に長い年月。野に出ても、また迷うのである。 「空千尋の深みあり」 空はどこまでも高く、すなわち真理は非常に奥深く深淵である。「尋」は長さの単位。「千尋」は、山などの非常に高いこと、また谷などの非常に深いことをいう。「千尋」の谷などという。 「溢るゝ光身に享けて」 多くの才能に恵まれた。「光」は才能、能力。 「若きを誇る人思ふ」 前途有為の一高生。「人」は一高生。 |
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3番歌詞 | 夜が明ける時、太陽は、恰も陣太鼓を空に鳴り響かせるようにして、静まり返った暗黒の闇の帳を打ち破って東の空に輝き出す。韓愈の詩に「雪は藍關を擁して馬 「静謐に懸る暁の 空に金鼓の響あり」 静まり返った暗黒の闇の帳を蹴破って、夜明けに太陽が東の空に輝き出すとき、空に陣太鼓が鳴り響くようだ。「金鼓」は 「雪藍關をとざすとも 碎け蹄の音高く」 「藍關」は、藍關は藍田関。陝西省の藍田県の南にある関所。 韓愈の詩に「雪は藍關を擁して馬 韓愈 『左遷せられて 藍關に至りて 姪孫・湘に示す』 「敢て衰朽を将て残年を惜しまんや。 雲は秦嶺に横たはりて 家何くにか在る、 雪は藍關を擁して 馬は前まず。 知る汝の遠來するは 應に意有るべしと、 好し吾が骨を收めよ 瘴江の邊に。」 |
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4番歌詞 | 長閑に明け始めた春の朝、富士山は朝日に映えて晴れやかに聳え立つ。空を眺めて見ないか。あの太陽は、わが故郷・向ヶ丘をも照らしているのだ。すなわち、自分たちは、遠く仙台の地に遊学しているといっても、故郷・向ヶ丘と同じ太陽の下にいるのだ。あるいは、南の空の上を眺めて見てみよう。わが故郷の自治の光が輝いている。 「駘蕩春の曙を」 のんびりと明け始めた春の朝。「駘蕩」は、のどかなさま。のんびりしたさま。「曙」は夜がほのかに明けようとして、次第に物の見分けられるようになる頃、暁の次の段階。 「芙蓉の姿はれやかに」 「芙蓉」は「芙蓉峰」のことで富士山の雅称。。 「空の上に 吾がふるさとの光あり」 空には、わが故郷・向ヶ丘の光がある。すなわち、わが故郷・向ヶ丘を照らしているのと同じ太陽が輝いている。同じ太陽の下にいるのだの意であろう。「光」を太陽ではなく自治と解した場合は、南の空に輝く自治の光を眺めやらずやの意となる。 「高く輝く自治燈を 東はるか望み見て 今宵の宴祝はなん」(大正7年「暗雲西に」5番) 「『芙蓉の姿はれやかに』は、第4句の『吾がふるさとの光あり』からして、ここの『芙蓉』は、仙台からではなく、東京から見た富士山を指すと見られる。」(一高同窓会「一高寮歌解説書」) |