第3回:何故?そこまで?(「メシアの処方箋」 機本伸司 )

本日のお題:「メシアの処方箋」
著者:機本 伸司
版元:角川ハルキ事務所(2004年)

【あらすじ】
ヒマラヤ発生した氷河湖決壊。下流のダム湖に浮かんだのは古代の方舟。
方舟からみつかる蓮華模様の大量の木簡?
これはいったい何なのか?
だれが?何を?伝えようと言うのか?

太古からのメッセージ。人は「救世主」を生み出せるのか?


上様(以下:上) 「今日はメシアについて語るぞよ」

豊後守(以下:豊)「はぁ、定食でございますか?」

上「そういう、スタンダードなボケはおいといてちゃっちゃと進めるぞ。」

豊「はいはい」

上「今日取り上げるのは「メシアの処方箋」。古代の方舟から出てきた木簡の情報を読み取って救世主を創造する話じゃ。」

豊「拙者も読みましたがなかなか面白い話でありましなぁ。前作の宇宙を作るに比べればスケールは小さいですが、蓮華模様からDNAの塩基配列を読み解く過程などはぐいぐいと読まされました。」

上「左様、謎解きは面白い。しかしのぉ、余は不満じゃ。救世主が何を救うのかが今ひとつ分からぬゆえ、最後は尻切れトンボになってしまったようじゃ。豊後守、あの話の救世主っていったいなんだったのじゃろうのぉ」

豊「あんまり深い意味はなかったのではないんですか。宇宙を旅してきた存在が私たちを試すための試金石、それで十分なような気がしますが。」

上「それじゃ何を救うんじゃい。」

豊「救われるかどうかは地球人側の考え方でしょう。ラストで救世主は私たちの気持ちのあり方を変える触媒と言われていますから。」

上「気持ちが変わらんかったらどうなるのじゃ。」

豊「ハズレってことでしょうなぁ」

上「かろうじて人類はあたりだったということか。でも救世主を送った存在は何でそんなことをしたんだろうなぁ」

豊「きっと自分が出した謎を解き、気持ちを変えられる知性がこの宇宙にいることを信じる、そのロマンが彼らにとっての救いだったのでしょう。」

上「ずいぶんと抽象的な救いだな。」

豊「この物語は結果ではなくプロセスが重要なのですよ、上様。」

上「結果よりもプロセスじゃと。」

豊「救いよりも、”救い”が何かを知ろうとするプロセスがこの物語のテーマだと拙者は考えます。」

上「確かにロータスの「知りたくはないか?」の一言でずいぶんと登場人物は無理なことをしているからなぁ」

豊「DNAレベルでのヒトの改造、代理母出産、篭城すべて”救い”が何か知りたいという猛烈な好奇心のなせる業なのです。」

上「で、その”救い”が”気持ちの変化”か?ちょっとあんまりだなぁ。」

豊「ふぅ〜、やはり上様は俗物なんですね?」

上「なぁに〜、余が俗物だと。高木豊後守。無礼であるぞ!!控えおろう!!」

豊「ははぁ〜っ!」


【まとめ:ネタバレ有り】
今回取り上げたのは「メシアの処方箋」です。
古代に誰かが残したメッセージ(DNAの塩基配列データ)をもとに救世主を作り上げると言うお話です。
登場人物は救世主=不空を作るため、ヒトのDNAを改造したり、それを代理母出産させるという、通常の倫理では許されない行為を次々犯します。こう書くと登場人物が悪人の集まりみたいですが、登場人物は一人称で語る「ぼく」を除けば変人の集まりですが
悪人と言うわけではないです。当然、生命倫理に関する議論も出ますが、リーダー格のロータスの「知りたくはないか」の一言の前に救世主作りが進められていくという感じです。

この物語は救世主や”救い”が何かと言うより、ヒトがどうしても知りたいと言うことに出会ってしまったら?ということをテーマにした物語として読むのが正しい読み方ではないでしょうか。

で、ここで疑問をひとつ?救世主=不空はホモサピエンスのDNAをベースに作られてましたが、
それが孔雀ベースだったら「火の鳥」ってことになっていたんでしょうか?


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