日本恐竜紀行第二回:恐竜王国中里〜神流町恐竜センター その2〜ベロキラプトル“情けない動物”説

ものごと何事にも目的がある。
今回の旅の目的、それはヴェロキラプトル、あのジュラシックパークの敵役に出会うためのものだ。

ヴェロキラプトルの化石として有名なものとして、「闘争化石」がある。
これがこの恐竜センターの目玉である。
プロトケラトプスヴェロキラプトルが格闘している状態のままで化石になったものだ。プロトケラトプスはヴェロキラプトルの腕をがっちり咥え、ヴェロキラプトルは脚の鉤爪をプロトケラトプスののどに突き立てている。ドラマチックな瞬間がそのまま化石になった、奇跡的な化石である。
二頭は戦っている最中に砂嵐か鉄砲水に遭ってそのまま生き埋めになったとのことだ。
それでは化石を見てみよう。
【闘争化石】
 
(闘争化石を正面から撮影)                    (闘争化石アップ;鉤爪が首につきたてられている。)
 
(ベロキラプトルの保存状態が恐ろしくいい。一方プロトケラトプスのほうは上が欠けている。)

実際に化石を見た印象は、ヴェロキラプトルって以外と小さいってことだ。全長2メートルと言うことだが、半分が尻尾なのでそんなにおおきく感じない。全体的に鳥という印象が強いが、頭骨を見れば犬のイメージが強い。

                                     

左がヴェロキラプトルの頭骨である。
闘争化石のものに比べ押しつぶされた感じはあるものの、細長顔
鋭い牙の様子がよくわかる。
頭骨の形は鳥に近いが、牙があるせいか全体的な印象は犬や狼といった感じを受ける。

化石をみた感じの印象ではヴェロキラプトルは狼や犬のような生態の生き物だったのではないだろうか。
ジュラシックパークに出てくるような凶暴な怪物というイメージはない。





【ヴェロキラプトルについて】
                   
これがジュラッシクパーク(映画版)のヴェロキラプトル。化石のもの比べると大きさはかなり大きい。
それはなぜかというと実はこれはヴェロキラプトルではないのだ。
おそらくこれのモデルになったのは同じドロマエオサウルス科のディノニクスだと思われる。
 
(左は国立科学博物館のディノニクスの骨格、右はダイノソアファクトリーの復元模型)
                      
                       (上は羽毛が生えたヴァージョンの復元)

上の写真がディノニクスである。闘争化石のヴェロキラプトルよりもジュラシックパークのラプトルに姿かたち、大きさもほぼ同じである。ではデイノニクスがヴェロキラプトルに成ったのはグレゴリー・ポールと言う人が書いた「肉食恐竜事典」と言う本の影響だと思われる。この本ではディノニクスもベロキラプトルとして書かれているのだ。どうやらスピルバーグはその本を鵜呑みにしてしまったようだ。ちなみに小説版のジュラシックパークではベロキラプトルは恐竜版の狼のような感じで描かれている。

ヴェロキラプトルとディノニクスが所属しているドロマエオサウルス類は、体長7メートルという大型のユタラプトルもいるが総じて、小型の恐竜が多い。ディノニクスもどちらかと言うと大型の部類に入るほうだ。系統としては恐竜の中ではトロエドンと並んで鳥にもっとも近いマニラプトル類に属し、外見も鳥に近く羽毛が生えている復元も多い。一部の説として樹上性生物という説もある。

一般には地上性の生物で、後ろ足の鉤爪を使って群れで狩をしていたと言われている。
群れで狩をしていたと言う根拠は複数のディノニクスと、獲物と思われる草食恐竜が一緒に見つかったためであり、鉤爪を使って狩をした根拠が”闘争化石”であるという。

しかし、本当にベロキラプトルは凶暴な生き物だったのだろうか?
そのように従来のヴェロキラプトル=凶暴な生物というイメージに対する疑問を示す説もある。

【ヴェロキラプト情けない動物説】
ヴェロキラプトルが生きていた時代のモンゴルはどんな環境だったかを考えてみよう。
前にも述べたが、気象条件では高温で乾燥し、厳しい乾季がある砂漠に近い環境だったという。
恐竜達はオアシスや砂漠を縫う川のほとりの緑地に群生していた。
厳しい環境のため大型の恐竜よりも小ぶり恐竜が多かった。特に、プロトケラトプスはこの時代大繁栄していた代表的な恐竜である。植物については化石記録があまり残ってなく詳細はわかっていない。
恐竜以外の生物に目を向けるとトカゲや下の写真のような哺乳類などの小動物が以外と多く見つかっている。また鳥類の化石も見つかっている。大型恐竜は少ないものの小動物とプロトケラトプスを中心に結構豊かな生態系があったと思われる。
ここが、問題である。つまりヴェロキラプトルが生きていた時代、映画のようなアグレッシブな狩をしなくともその辺でつまめる小動物がかなりいたということである。危険な狩をする必要性があまりなかったかもしれないのだ。
それはヴェロキラプトルが世間一般に考えられているような凶暴な生物ではなかった可能性を示している。
ヴェロキラプトルはトカゲや哺乳類などを主食にしていた生物で、プロトケラトプス他、他の恐竜を滅多に襲うことはなかったのかも知れない。もっとも卵から孵化したばかりの赤ん坊や、病気や怪我で群れから脱落した恐竜にとどめをさす
ということはあったかも知れないが・・・・・・・・・


週刊モーニングに連載されているDINO2の第7話「伝説」では少々極端な形でこの説を物語化している。
物語は武闘派を自称する(言っているのは"お頭”と呼ばれる群れのリーダーだけなのだが)ヴェロキラプトルの群れが主人公。彼らは普段、トカゲや哺乳類、たまにオビラプトルの巣を襲って
卵を盗んだりと小物ばかりを狙う生活をしていた。しかし、お頭には”武闘派”として大いなる野望をもっていた。そう、それは普段手が出せない相手”大頭”、プロトケラトプスに挑むこと・・・。
結局、彼らはプロトケラトプスに歯が、というより鉤爪が立たずコテンパに返り討ちにされてしまい、また普段の小動物を餌とする生活戻っていくのであった。
この物語ではお頭のハートに火をつける小道具として闘争化石が出てくるのだが、これの生成過程が驚愕のオチになっているのである。

闘争化石はドザエモンになったプロトケラトプスを漁っているうちにヴェロキラプトルが事故に巻き込まれてしまっただけだったと・・・・・。
この物語に出てくるヴェロキラプトルは凶暴というより情けない生き物である。

作者の所十三氏はこの恐竜センターの闘争化石をみてこの物語を考えたという。きっかけはプロトケラトプスとヴェロキラプトルの保存状態の差だという。ヴェロキラプトルはすべての関節がつながった完璧な保存状態なのだが、プロトケラトプスは頭骨の半分が欠けているように保存状態が悪い。これは2匹が同時に死んだのではなくヴェロキラプトルのほうが後で死んだからではという疑問がこの物語をつくったという。

恐竜センターではライブシアターで、この闘争化石についてやはり戦いの最中に天変地異(砂嵐、鉄砲水)で化石化したものという解釈をしている。
しかし、この場合でもプロトケラトプスが巣を荒らしたヴェロキラプトルを返り討ちにした戦いということになっている。
ここでもヴェロキラプトルは映画と違い非常に情けない生き物である

【ヴェロキラプトルの托卵】


ここ恐竜センターではヴェロキラプトルの興味深い生態についての仮説を紹介している。
ヴェロキラプトルがオビラプトルの巣に托卵をしたというのだ。
托卵という行為はカッコウが有名であるが、他の生物の巣に自分の卵を産み、子育ても相手の動物に任せてしまうという行為だ。
この仮説の根拠については、オビラプトルの巣の中で生まれたばかりのヴェロキラプトルの幼体が発見されたことによる。これについての解釈がいくつかある。

@ヴェロキラプトルの幼体が餌を求めオビラプトルの巣に侵入した
(卵か孵った赤ん坊にそれは可能だろうか?)
Aオビラプトルがヴェロキラプトルの幼体を自分の子供の餌として持ってきた。
(合理性はあるが、生まれたばかりの赤ん坊がヴェロキラプトルの幼体を餌にできるだろうか?そもそも歯のないオビラプトルが肉食かどうかもわからない。)
Bヴェロキラプトルの幼体はこの巣で生まれた。つまりこの巣にヴェロキラプトルの卵があった。
(信じがたいがこれが一番突っ込みが少ない。)


見ていただいたようにBの説が一番矛盾が少ない。またヴェロキラプトルは系統上、鳥に非常に近い関係にある。
ならば、鳥類がもつ托卵という習性が恐竜であってもおかしくないという考えで恐竜センターではこの説を採用している。
従来のヴェロキラプトルのイメージからは大きくかけ離れた仮説だが、説得力はある仮説だと思う。


次はその他のモンゴルの恐竜達を見ていこう。


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2.日本恐竜紀行第1回:恐竜王国中里〜神流町恐竜センター その1〜山中地溝帯の恐竜とライブシアター〜

3.日本恐竜紀行第3回:恐竜王国中里〜神流町恐竜センター その3〜モンゴルの恐竜達〜

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