VS遠坂
第6話
「んんっ! ひぁっ! あ、ああぁ……ふあぁ……くぅんっ!!」
絶え間なく続く腰の律動。
そして、途切れることなく響く遠坂の鳴き声。
それを聞きながら、どろどろに溶けきった遠坂の中を、後ろからただひたすらに突きまくる俺。
「ひゃんっ! んっ、んあぁ……はぁ……あ、あっ、士郎っ! わたし、また……あああぁぁ――っ!!」
泣きながら、キュンッ、と締め付けてくるのはこれでいったい何度目だろうか。
ゆっくりと脱力していく遠坂の体を俺は後ろから抱きしめた。
熱く、柔らかい。
「はぁ……ん、ん……あ、士郎……」
「……遠坂」
遠坂は苦しげな呼吸を繰り返しながら、それでもなんとか後ろを振り向き俺を見た。
悩ましげに開く薄いピンク色の唇を、俺はためらうことなく自分の唇で塞いだ。
「んんんっ……んん、はぁ……んっ」
遠坂の唇と吐息と唾液、そのすべてを取り込むかのように吸う。
そのあいだも俺の腰はとどまる事を知らず、グチュグチュ、と卑猥な音を吐き出し続けている。
「ああぁあぁぁ……士郎ぉ……」
今、イッたばかりだというのに、俺の動きにすぐさま応えてくれる遠坂。
膣内をかき回すように腰を動かすと、彼女はたやすくのぼりつめていく。
ぬかるんだ内部が息を吹き返したようにざわめき、まとわりつくようにしながら俺の物を締めつけてきた。
「くっ、出すぞ、遠坂!」
「ふあぁぁぁ……あ、ぁぁ……う、ん……士郎……っっ」
「――っ!」
鋭い快感が俺の身を切り裂く。
その瞬間、中に入り込んでいる己のものを抜き出した。
どくんっ――と、勢いよく飛び散る精液。
「あ、あぁぁ……あつい……士郎、の……」
一気に噴き出された粘液が遠坂の背中を汚していった。
それを敏感に感じ取って、遠坂がまた体を震わせる。
熱く煙る部屋の中で、俺と遠坂の声だけがゆるやかに漂っていた。
「はあ……はあ……」
崩れるように倒れふした遠坂を組み敷きながら、俺は乱れた呼吸をその背にぶつける。
遠坂は動かない。
両腕を縛られうつ伏せのまま絨毯に沈み、俺に捧げるかのようにお尻だけ突き出した格好のまま、荒い息を吐き続けている。
四つん這い以上にかなりアレな格好だ。
しかも俺の精液がその背中にべっとりと貼りついているし。
後背位での交わりは、俺と遠坂にとてつもなく甘美な時間を与えてくれた。
俺は狂ったように遠坂を貫き続け、遠坂はそれを、やはり狂ったように受け止め続けた。
今までの交わりとは比べ物にならないほどの快感。
俺と遠坂はその仲で狂い続けた。
その時間が一段落し、少しずつ冷静になりつつある頭で考える。
おかしい。
とにかく何もかもが、なんかおかしい。
お互い、性交渉にはまだそう慣れてはいないはずなのに、これほど息の合ったセックスがおこなえたのもおかしいし、ベッドの上では結構うたれ弱いはずの遠坂が驚くほどに俺の責めを受け止めたのもおかしい。
なにより、遠坂の背中にたっぷりとその欲望を吐き出したというのに、いまだにその凶悪さを隠そうとしない我が聖剣もおかしい。
力を出し尽くして萎えるどころか、このまますぐに、もう一度遠坂の中へと突きこみたい衝動が込み上げてくるのはなんでだ。
「こんなことは……」
初めてだ――
そう一瞬だけ考え、すぐに止まる。
いや、初めてじゃない。
以前にも一度だけ経験した。
そう……あれは、セイバーとの壮絶な戦いの記憶。
セイバーの可憐さの前になすすべもなく敗北しようとした時、それは起こった。
無限とも思えるほどの力。
どこからか流れ込んでくるそれを持って、圧倒的なまでに不利だった形勢を一気に逆転した夜。
あの時の状況と今の状況はひどく酷似していた。
若干の相違点を探せば、あの時はどこからか流れ込んでくる力を受け止めながらの戦いだったが、今日はあらかじめしっかりと補給を受け、そのストックをもってして戦線を維持している、そんな感じを受けるところ。
「ん――」
俺は内面に向けて意識を集中した。
いったい俺の身に……俺と遠坂の身に、なにが起こっているというのか。
――構造解析――
自らの内に意識の手を伸ばし、そのすべてを探る。
自己解析。
正義の味方になると決めてから今日になるまで、常に己の限界と戦い続けてきた俺にとって、自らの内を探ることなど極めてたやすいこと。
あの土蔵で幾たびも繰り返してきた自己鍛錬、そのイメージを思い出す。
「――――っ」
ゆっくりと、腹のそこから浮かんでくるものがあった。
それは、意識の奥底でゆらゆらと揺れながら、白く、光り輝いている。
ひどく懐かしい感覚、どこかで触れた既視感。
何者をも拒むように、孤独に、だが誇り高く輝くそれは、ある一人の少女を思い起こさせた。
俺の中にセイバーがいる――
なぜか、強烈にそう感じた。
って、待て。
いくらなんでも、今そんなふうに考えるのは、あまりにも遠坂に失礼だろ。
なにしろ、ついさっきまで俺の物が遠坂の中へと突き刺さっていたのだ。
そんな状況で別の女性を思い浮かべるのは……
「最低だよな……」
ああ、最低だ。
振り払うようにそうつぶやくが、心の奥底から感じるその存在は決して無視できるものではない。
それは、かつて俺が無意識の内に投影した一振りの剣、いや、その一振りの剣が正しくおさまるべき鞘、それをかたどっていた。
無意識の底から浮かび上がってくるこの「鞘」がなんであるのか、俺には理解できない。
ただ、その存在が、このおかしな状況を生み出しているのだということは疑いようがない。
そこから止め処もなく溢れ出してくる力。
ひどく優しく感じられるその力が、俺と、そして遠坂に暖かく流れ込んでいる。
あ……まあ、遠坂へは、その「鞘」から流れ込むというよりは、いったん俺を経由して俺が遠坂に流し込んでいるというか、注ぎ込んでいるというか……
「ん――っ、はぁ……」
遠坂の背中がビクッと震え、たまったものを吐き出すように息をつく。
「遠坂」
「……ん、ん……あっ……し、ろう……?」
俺の呼吸を背中で感じたのか、遠坂が俺の名を呼ぶ。
俺は背中から彼女を抱きしめ、両腕が自由にならない彼女の体を抱き起こしてあげた。
「士郎……ん、あっ。士郎の……背中に当たって……」
「…………」
遠坂の言うとおり、俺の物は元気にその身を硬くして彼女の背中に張りついている。
節操がない。
まったく節操がない。
ないが……それでも、どうしようもないほどの衝動が俺の体内で渦巻いている。
毛穴の隅々から溢れ出そうなほどの衝動。
本来なら、男の俺がブレーキをかけ、遠坂の体調を気遣いながらしないといけないんだけど……こう、もうどうにも我慢が効かないというか……
「遠坂……」
「んっ、また……硬くなって……」
すべてにおいて敏感になっている遠坂は、これの硬度すらも背中で感じ取れるらしい。
駄目だ、もう我慢できない。
「遠坂、ベッドに行こう」
この場所でこのまま四つん這い状態の遠坂を責めるのはさすがに申し訳なくなる。
ふかふかの布団の上で、思う存分、遠坂を可愛がってあげたい。
「え、あ……う、うん……」
遠坂も素直にうなずいた。
それを見て、俺は彼女を抱きしめたまま立ち上がる。
俺は遠坂を振り向かせ正面で向き合った。
「あ……やだ……なんか……」
遠坂はなんだか妙に恥ずかしがってる。
まあ、その気持ちはなんとなく俺にもわかるけど。
さっきまではほとんど顔を合わすことなく交わりあっていたわけで、急にお互いの顔を見つめあうと照れくさいというかなんというか。
だから、そのままでいるのに耐えられなくなって、見つめあう必要のないように彼女の唇を自分の唇でふさいだ。
「遠坂……」
「んっ、あっ……んん……士郎……」
唇を吸い、舌を絡めあう。
俺が舌を差し込めば、遠坂はそれを吸う。
遠坂が舌を差し出せば、俺はそれを唇で挟みながら吸う。
ぴちゃぴちゃ、と、水飴を舐めあうような音が響き、少しずつ大きくなっていく。
手を使えない遠坂の体を優しく支えながら、口の中に溜まった唾液を彼女の口に流し込む。
「――っ! んん……んっ、んっく……あ……ん」
驚いたのは一瞬で、分かりきったことのように飲み込んでいく遠坂。
コクコクとのどを鳴らせる音が、部屋の中にゆっくりと浸透していった。
「はぁ……んっ、んん……はぁ……」
温かい、遠坂の唇。
それを十分に堪能して、俺は唇を離した。
唇と唇の間に一筋、唾液の橋が架かる。
遠坂の火照った顔を上から見下ろした。
瞳を閉じ、熱い吐息を吐き続ける遠坂は、今にも崩れ落ちそうになって俺の胸に寄りかかっている。
俺が支えてあげていないと、その体はすぐにもカーペットの上へと沈み込んでしまいそうだ。
これだと自分の脚でベッドまで歩いていくのは無理かな。
そう考え、すっと腰を下ろし、自分の左手を遠坂の両膝の後ろに差し入れる。
「よっ……と」
「きゃっ」
そのまま力を入れて持ち上げると、遠坂が驚いた声を出した。
そんな彼女の背中を右手でしっかりと支え、立ち上がる。
両腕に遠坂の全体重がのしかかってきた。
セイバーより、ちょっと重い。
「やだ……士郎……」
いわゆるお姫様だっこというやつだ。
抱かれる女の子はもちろん、抱く側の男にとっても結構あこがれの格好だったりする。
「うぅ……」
そんな格好で抱き上げられて、恥ずかしそうに顔を染めた遠坂は、俺の顔を見ないようにうつむいてしまった。
その気持ちは俺にもわかる。
自分からしといてなんだが、やってみるとこれが結構照れくさい。
さっきまでは、これよりはるかに恥ずかしい格好で、よりとんでもない事をやっていたというのに、こんな他愛もない触れ合いのほうが恥ずかしいってのも我ながらおかしなことだけど。
「じゃ、ベッドまで行くから、じっとしといてくれよ」
「……ん」
遠坂は俺の言葉に軽くうなずく。
体を小さく丸めながら、ひっそりと俺の胸に顔をうずめた。
くっ。
やばい。
かわいい。
このまま、がぁー、っと襲いたくなる衝動をまたしても抑えつける。
何とかベッドまでは我慢しなければ。
重さを支えていることとは別の理由で震えている両脚を叱りつけ、そのままベッドまで歩いて行く。
こうやって抱いてると遠坂の柔らかな体を存分に堪能でき、やっぱり遠坂も女の子なんだなぁ、とあたり前の事を実感する。
その柔らかな体をふとんの上に横たえた。
当然、俺もその体の上に覆いかぶさり、遠坂を組み敷く。
「脚をひらいて」
自分で無理やりそうさせる事もできるけど、遠坂自身がそうするところを俺は見たいわけで。
それに、今の遠坂ならきっと俺の言う事を聞いてくれると思うし。
「…………」
遠坂は素直にうなずいた。
そして、ゆっくりと広げられていく神秘の領域。
それを俺はじっと見つめる。
ん。
いろんな液体でグショグショになっているけれど、遠坂のソコはやっぱり綺麗だ。
ピンク色の秘唇も、薄めの繊毛も、その中にちょこんと立つ肉芽も、全部が綺麗。
白い液体が混じりあっていることも生クリームによってデコレートされてるようで、それすら美味しそうに見えた。
「あ……ん……」
俺は遠坂の腰に右手をまわし、軽く持ち上げる。
こうしておけば、背中で縛られた彼女の両腕も痛まないはずだ。
後背位なら心配する必要は無かったけど、正常位だとそういうわけにはいかないからな。
「遠坂」
「んっ……んん……あ……士郎……」
その濡れそぼった遠坂の秘唇に、己の物の先端を押し付ける。
くちゅり、と、湿った音が聞こえた。
「はぁ……ぁ……ぁ」
ぴくっと反応する遠坂の体を抱きながら、亀頭の先端で秘唇の表面を撫でる。
ぬるぬるした柔らかい感触が程よく気持ち良い。
強烈な快感ではなく、じわじわと少しずつ込み上げてくる感覚。
しばらくはこの感触を楽しんでいたい気分だ。
「んぁっ、やぁ……士郎……ぅ」
でも、遠坂のほうはなんだかじれったそう。
もどかしげに腰を揺すっている。
うん、遠坂のほうは我慢できなくなってるみたいだ。
「欲しいか、遠坂?」
ちょんちょん、とソレでソコを突きながら、今夜の定番となった意地悪口調でそうたずねる。
「くぅ……んっ、も、う……どこまで……」
どこまでいじめれば気がすむのよ、とでも言いたいのだろうか。
遠坂が悩ましげに眉を顰めながら糾弾してくる。
でも、その口調にはいつもの力がまったく感じられないので、全然怖くない。
むしろ可愛いぐらいだ。
今夜はこういう焦らし方ばかりで遠坂を可愛がっているわけなんだけど、そのたびにいちいち可愛らしい反応を返してきてくれるので、なんだか俺のほうも癖になりそう。
「ほら、どこになにが欲しいか、ちゃんと言ってくれ」
そう言いながら、先端を浅く入れたり出したりを繰り返す。
なんというか、一度、恐怖を振り払うと、人とはどこまでも大胆になれるものなんだな。
「い、入れて……士郎……の……」
「俺の?」
「お……ぅぅ……」
なにかを言おうとして、遠坂はためらう。
ならばと、俺は腰を回し、円を描くように秘唇のふちをなぞり続ける。
言ってくれるまでおあずけ、という意思を込めた責め。
無意識の内だろうか、遠坂の腰が俺の物を迎え入れたがっているように浮き上がった。
が、俺はわざと腰を引いて焦らす。
「んっ……んんっ、ん……」
左手を使い、胸のふくらみを搾り出すように揉む。
ちょこんと突き立ったピンク色の乳首に、ねっとりと舌を這わせた。
「ひぁっ! あぁぁ……んっ……んん」
乳首を歯でかりっと噛み、そして吸う。
汗ばんだ肌が俺の手に吸い付いてくる。
遠坂はよりいっそう腰を淫らに揺するけど、俺はまだ入れてあげない。
焦らせば焦らすほど遠坂は可愛くなる。
今夜、それがはっきりとわかって、なおかつ、そんな遠坂を見るのがどうやら俺は大好きらしい。
遠坂の意外な一面と共に、俺自身、思ってもみなかったような性癖を発見したか?
「さ、遠坂。言って」
俺のほうも結構やばいことになってるけど、それをひた隠しながら言う。
最高に可愛い遠坂を見るためならば、身を焦がす猛りも我慢できるというもの。
俺と遠坂の我慢比べ。
そして今回もやっぱり、先に我慢の限界に達したのは遠坂のほうだった。
「士郎の――お……おち○ちん……」
とんでもない単語が遠坂の口から漏れる。
「士郎のおち○ちんっ、わたしの中に入れてっ。もう……我慢できないの――! はやく、はやく入れてっ。士郎の……士郎のおち○ちん、わ、わたしの、おま○こに……」
う、うわ……っ。
あの遠坂が、そんなことを、しかもこんなに大きな声で――っ!
今日は、遠坂の意外な一面を、いくつも見出す事ができた夜だったけど、その最大のものがこれかもしれない。
で、そんな言葉を聞かされたら……俺のほうも我慢がきかなくなるわけで。
「今あげるよ、遠坂」
極限までに凶悪化した己の凶器を、柔らかなその肉壁に突き立てる。
「ふあぁぁぁ……あぁっ! あ、熱いっ……士郎の……んんんっ! ひぁっ! わたし……んぁ――っ!」
う……っ。
やっぱり……遠坂の中はすごい……
ここは、なんど味わってもそのたびに新しい感動を与えてくれる。
俺の物だけしかまだ受け入れたことのないそこは、どんどんと俺に馴染んでいくようで、絡みつく肉壁がぴったりと張りつき奥へと誘うように蠢動する。
そして、タイミングを見計らったかのように、キュッ、キュッ、と締めつけてくるのだ。
「すごい……遠坂の……くっ!」
「あぁ……士郎……士郎、のも……熱くてっ、あ、あぁっ! 深いっ、んぁっ!」
気持ち良いのは遠坂も同じようで、いや、むしろ彼女のほうがはるかに強烈な快感を感じているようだ。
初めての頃とはだいぶ違う。
慣れ……かな。俺と遠坂、双方の。
後はやっぱり相性だろうな。
たぶん、俺と遠坂は体の相性が抜群に良いのだと思う。
「遠坂……」
「は、あぁ……し、士郎ぅ……んんん」
うっすらと涙を浮かべる遠坂。
それを見下ろしながら、俺は腰を動かす。
「んっ……あっ、あぁ……!」
クチャ、グチュッグチュッ――
腰が遠坂のお尻にぶつかるたびに、あふれ出す粘液が弾ける。
それは俺の物を温かく濡らし、膣内をうがつものをさらに凶悪にさせていく。
俺はその先端を使い、こんこんっ、と、お腹を内側からノックするように小突く。
「きゃぅっ! う、うぅぅ……んんっ!」
驚いたように遠坂が瞳を見開き、頤をのけぞらせる。
「ん? こういうの、遠坂好きか?」
下から突き上げるようにしながら、お腹をこするそれを繰り返す。
「ひんっ! や、そこはっ、あひぃ……んっ、んんぅぅ……」
普段とはちょっと違う感覚に、遠坂が可愛らしい悲鳴をあげる。
奥を思いっきり突かれるのとは、また違った気持ち良さがあるみたいだ。
「きゃんっ、んっ! そこ、や、やめてっ、士郎っ、ひゃんんっ! なんか、変な……きゃぅ……っ」
「その鳴き声、可愛いよ、遠坂」
「や、ば、馬鹿……やめてって、ひぃん――っ!!」
グリンッ、と、天井をこすり上げると、ひときわ甲高い声で叫ぶ遠坂。
自分の物で遠坂を思うがままに鳴かせてあげることができるので、なんか嬉しい。
後ろからがむしゃらに攻めるというのも悪くはないけど、こうやって丹念に彼女の内部を探るというのも良いかもしれない。
まあ、遠坂にとっては不本意なことかもしれないけど。
いずれにしろ、まだまだ俺も遠坂の内部をすべて把握してはいないということだ。
ここのように感じる場所が、彼女の体にはきっとまだあるのだろう。
今後はそれをじっくりと発掘してあげることにしよう、うん。
「やぅ……っ! 士郎、もう……わたしっ! あ、あぁぁ……っ!!」
いろんなところを突っつかれまくって息も絶え絶えな遠坂。
でも、俺としてはもっともっと遠坂の鳴き声が聞きたい。
そんなわけで、そう簡単にはイかせてあげず、ゆるやかに、それでいて丹念に膣内を探索する。
「あ、ぁぁぁ……士郎……もっと、はぁ……ん、んっ」
「どうした、遠坂?」
より強い快感を得ようとする遠坂に、俺は微笑みながらすっとぼける。
「あ、あ、んっ……し、ろう……ぅ……」
「う……くっ――」
奥に引き込むような動きを膣内が見せる。
ざわざわと纏わりつくように蠢き、断続的に締めつけてくる。
俺が少しずつ技術を進歩させているように、もしかしたら遠坂のほうもレベルを上げているのかも。
意識してのことか、それとも無意識のことかはわからないけど、この膣内の動き方はあなどりがたい。
が、それに簡単に屈するような俺ではない。
昔なら……というか、ほんの数日前の俺ならとうてい我慢なんかできなかっただろうけど、ここ数日で積み上げた経験と自信は、このぐらいでは少しも揺らがないのだ。
と、あまり褒められたようなものではない自信をみなぎらせながら、俺は遠坂の中を「適度」に蹂躙する。
イかせないよう、気をつけながら。
「はぁ――っ。あ、あぁ……んっ、おねが……くぅ……し、士郎……」
緩やかで、かなり意地悪で意図的な腰の律動。
普段は決して見せないような寂しげな表情で、遠坂は泣いた。
もう……そろそろ良いかな。
これ以上我慢させるのはさすがにかわいそうだし、俺にとってもこれ以上の我慢は体に毒だ。
「士郎……し、ろう……ぅ……」
ほら。
遠坂も、もう耐え切れないみたいだ。
切なげに俺を見つめる瞳も、
途切れる事のない熱い吐息も、
静かに上下する胸の鼓動も、
俺を掴み取ろうとする細く白い右腕も、
その全部が俺を待ちわびて……
ん?
あれ?
なにか……おかしくないか?
「あれ?」
目の前で揺れ動く綺麗なお手々。
この細い腕はもちろん、俺の物じゃない。
俺のはもっと太くて肌も焼けてるし、ついでに言うと右手は遠坂の腰にそえられ、左手は柔らかい胸を揉みしだいている。
となると、この腕は当然のことながら遠坂の腕となる。
あたりまえだ。
あたりまえだけど、今この時だけは、それはあたりまえじゃなかった。
「な、なんでさ」
だって、遠坂の両腕は縛られて――
とっさに……遠坂の体の脇に目をやる。
そこには、よれよれになった黒いリボン。
いつも彼女が身につけているリボンで、さっきまで彼女の両腕を縛りつけていたはずのリボン。
完璧なる強化が施されていたはずのリボン。
それが、今はよれよれのしおしおになって、シーツの上にぐったりとのびている。
黒いはずのそれが、俺にはなぜか、燃え尽きた灰のごとく真っ白に見えた。
なんでさ。
俺の強化は完璧だった。
あれだけの強化を施したはずのそれが、なんであっさりと外れてるんだ?
いくら遠坂でも、一度魔力を通したものに再度干渉してそれを無効化することは困難なはずだ。
それをできるのは、強化をした本人――つまりはこの俺が、もう一度魔力を通して解除するしかないわけで……
ん? 魔力を、通す……?
「……ちょっと待てよ……」
俺と遠坂が今までしていた事。
性交渉。
普通の恋人同士なら、それは愛情をかわす一つの形であるだけだけど、俺たちのようにお互いが魔術師同士だとちょっと意味合いが違うところも出てくる。
魔力のつながりを示すのに、性交渉というやつは最も簡単な手段の一つである。
もちろん、俺と遠坂がいまやっていることに、そんなつまらない理由なんかあるわけないけど、理由いかんに構わず、現にやってることはやってるわけで。
精は、魔力の塊。
それを通わせることで魔術師としての繋がりも深くなる。
そして、その魔力の塊――ぶっちゃけて言うと精液。
その精液を、俺は遠坂の背中にぶちまけた。
で、遠坂の背中には、俺の魔力によって強化された黒いリボンが彼女の両腕を縛りつけていたわけだ。
当然、その黒いリボンにも白くて粘っこい液体が降りかかったことになる。
……
なるほど。
それだけ濃い精液……いや、魔力を浴びたのだから、強化の効果が薄れたとしても不思議はない……のか?
なにしろこんなことを試したことなど一度もないわけだから、そんな作用が出るかどうかなどわかるはずもない。
むしろ、ありえないだろうっ、と声高に言いたい気分だ、
とはいえ、現に起こっている事実。これを否定することはできない。
そして、もう一つの事実。
今宵、俺が保ち続けた優位性の要因。
遠坂凛の自由を奪い続けていた黒い鎖が、あっさりと、音もなく、物の見事に崩れ去ってしまったということだ。
「む……」
これは……もしかしたらまずいかもしれない。
ここまで完璧な作戦を遂行し、完全なる勝利を目前にしているというのに、封じていた敵方の最強の武器を解き放ってしまった。
「呪い」
それをここで使われたら、積み上げてきた圧倒的優位性があっという間に覆されてしまうことになる。
「いや、でも……」
俺はその弱気を否定する。
大丈夫。
大丈夫なはずだ。
いかにその身を自由にしたとはいえ、今更……遠坂が反撃できるはずもない。
優位性は確かに失われてしまったが、だからといって俺の勝利が覆るようなことは……
「……士郎」
ぞくり、と、背筋が震えた。
なんか……さっきまでの声とは温度が違くないか?
燃え上がっていた熱がしぼんで、凍えるような冷気が漂っているような。
「え……っと……遠坂……?」
恐る恐る……その声の主の表情をうかがう。
そして
俺はそこに
あかいあくまを垣間見る。
「士郎」
声が聞こえた。
思わず生唾を飲み込んでしまいそうになるほど、底冷えのする声。
ゆっくりと、彼女の左腕が上がった。
その左腕は……キラキラと青白い綺麗な光を放っていた。
「げっ……」
それがなんなのか、俺は良く知っている。
というか、普段見慣れたはずのそれよりも、いつもよりなんだか凄い事になってる。
一応、俺も魔術師の端くれ。
そこにどれだけの魔力が集中しているのかぐらいは一目でわかる。
それを浴びせられたら自分がどうなってしまうかも――できればわかりたくはないのだが思いっきりわかってしまう。
まずい。
と、とにかく、いったん退避を――
「……あれ」
即座に戦術的撤退に移ろうとした俺。
だが、きっちりと嵌め込まれた俺の腰は、その場からぴくりとも動こうとしない。
遠坂のソコがきつすぎて抜けない、なんてことはさすがになくて、問題は、俺の背後を塞ぐ鉄壁の防衛陣。
腰の後ろに回された遠坂の細くて長い脚。
それが、捕らえた獲物を逃がさぬようにがっちりと俺の背後で組み合わされていた。
「しまった……」
これでは逃げられない。
って、これと似たようなことを別の場所でも体験したような……
そんなことを考えた瞬間、なにかが俺の左肩をつかむ。
見下ろしたそこには遠坂の右手があった。
恐ろしいほどの力で俺の肩を抑えつけている。
まずい。
退路を絶たれた上、上半身の動きまで封じられ……あっ!
ひ、左手が――青白く光る左手が――っ!!
パチッ、パチッ、と、静電気が帯電しているかのような瞬き。
その先端に輝く、麗しき「呪い」
それがはっきりと見えた。
左手が俺の首筋をめがけて動く。
あっ
駄目だ
この近距離から避けることは不可能。
受け止めるにしても、あの様子では手加減なんかしてくれなさそう。
予想では、俺の限界はたぶん五発まで。
それ以上を食らうときっとあの世へ旅立つことになるだろうけど……うん、間違いなくそれ以上の「呪い」が飛んできそう。
死んだ――
なんの疑問もなく断定する。
そう考えた瞬間、これまでのことが走馬灯のように……
両腕を後ろ手に縛りつける。
そのままプレイ開始、ただしイカせないように焦らしまくる。
お尻に指。
焦らしまくった挙句におねだりさせる。
「おま○こ、可愛がってください」発言。
「イかせて下さい、お願いします」発言。
フェラ特訓。
両手を縛ったままにもかかわらず、四つん這いにさせて後ろから。
「わたしをもっと、いじめて」発言。
「おち○ちん、中に入れて」発言。
……
判決、死刑。
脳内の裁判官はためらうことなくその判決を下した。
被告人である俺も思わず納得してしまう。
って、待て。
納得してどうする。
いやでも、確かにそれ以外になさそう。
なんというか、こう……さすがにやりすぎた。
遠坂の左手がまぶしいほどに輝く。
その輝きと、数瞬後に襲いくるだろう恐怖に俺はつい瞳を閉じてしまう。
「く……!」
最後の、むなしい抵抗。
丹田に気合を込め、その衝撃を迎え撃つ。
たぶん無駄に終わるだろうけど。
「――っ!」
そっと、右の頬に何かが触れた感触。
「呪い」じゃない。
これは……遠坂の手か?
柔らかく暖かいそれは、俺の頬を優しく撫で、ゆっくりと首筋へ。
ええと、あの……なんだ、くすぐったいというか気持ち良いというか。
俺は恐る恐る目を開ける。
「遠坂?」
視線の先にいるあかいあくまは、熱い吐息を吐き出しながら、泣き出しそうな瞳で俺を見つめていた。
……あれ?
「はぁ……んん……士郎……ぅ……」
今度は右手が上がり、俺の反対の頬へ。
確認するように撫でられながら、顔が引かれた。
俺と遠坂の顔が急速に接近する。
「お……お願い……士郎……」
「お願い?」
お願い、って、なにをさ。
俺が「出来心でした、許してください」とお願いするのならわかるけど、遠坂が俺に?
「これ以上、我慢できないの。もう……焦らさないで……」
「……」
あの、もしかして。
さっきの遠坂って、俺がしてきた行為に対して怒ってたんじゃなくて、また焦らされてると勘違いしてただけなのか?
いや待て。
そもそも自分の両手がすでに自由になってるってことも、もしかして気づいてない?
「ええと……」
「士郎……お願いだから……」
遠坂はそう言いながら俺の頭をかき抱くように引き寄せた。
胸のふくらみの中に顔が埋もれる。
やわらかい……
おまけに暖かい……
それに、やっぱり気持ち良い……
「んっ……あぁ……なかで……んんっ!」
萎れ気味になっていた腰の物が、現金なまでに力を取り戻していく。
生命への危機が去ったのを敏感に察知したものらしい。
むくむくと大きく膨張しながら膣内を圧迫していく。
気づいてないのか、それとも気づきながらも我慢できないのか、どっちにせよ、遠坂が俺を求めているという事ははっきりしている。
で、俺のほうも、遠坂の事が欲しくて欲しくてたまらない。
「遠坂……」
「はぁ……はぁ……あ、ん……士郎……」
腰を一つにさせ、体を抱き合わせながら、俺たちは唇を重ねる。
なんだ……結局、こうなるんじゃないか。
まあ、ちょっと考えればわかるような事だよな。
俺は遠坂が好きで、遠坂も俺が好きで、そして、お互いのつながりをより深めようとどちらもが思っている。
なら、最初から行き着くところは決まっているわけだ。
なんかこう、いろいろと紆余曲折はあったものの、やりすぎたところもかなりあったものの、最後にはこういう形になる。
仕返しにびくついていた自分が恥ずかしい。
「遠坂」
そんなお詫びの意思も兼ねて、遠坂の中を思いっきりかき回してあげる。
さっき発見した性感帯の一つも時々突っついてあげる。
「ひあぁ――っ!! あ、あぁぁ……んっ! ふぁ……あんっ!」
両腕で俺の頭を抱きしめ、両脚で俺の腰を抱きしめ、膣内で俺の物を抱きしめる。
彼女は全身を使って俺を抱きしめ、俺は全身でそれを感じる。
お互いの心と体がひとつになったような感覚。
ズチュッ、ズチュッ、グチュッ――
部屋の中に響き渡る音すら一つになる。
「ふぁぁ……んっ……あぁん……くぁあっ!」
「遠坂」
腰を溶け合わせ、抱き合いながら、今度は唇を合わせる。
俺が舌を差し入れると、遠坂はためらうことなく吸った。
唾液を流し込むとそれすらためらうことなく飲み込む。
熱い。
たまらない。
体中が溶けそう。
今までの経験で、最高の快楽。
体と脳が沸騰する。
「あぁぁ……士郎……わたし……わたし……」
「イキそう、なのか?」
「う、ん……っ、あ、はぁっ……わたし……イッ、ちゃ……」
限界を継げる言葉と共に、耐え切れなくなってからだが悲鳴をあげている。
それにつられるように、俺にも……
「士郎……し、ろう……ぅ……」
遠坂のささやきが耳元で聞こえる。
もう何も考えられないだろう状況で、ただ求めるようにして俺の名を呼ぶ遠坂。
たまらなく愛しい。
だから、俺は彼女に告げる。
「好きだよ、遠坂」
万感の思いを込め、彼女の耳元でささやく。
「あ……あ、ぁぁ……士郎、わたし……わたしも…………!」
忘我のふちをさまよいながらもその言葉は理解することできたのか、遠坂が泣くように応じる。
「っ――」
遠坂が俺の背中に爪を立てた。
つ、これは、跡に残るかもしれないな。
まあ、好きな女の子に、こんな状況でつけられた傷なら男の勲章みたいなもんだし、それはそれで良いか、ちょっと痛いけど。
遠坂は、腕だけでなく脚にも力を込め懸命に俺にしがみついてきた。
そして、感極まったように啼く。
「士郎……っ! わ、わたしも……あなたのことが……あぁぁ……す、好き……愛してる……!!」
「くっ――」
めったに聞く事のできない遠坂の告白。
それと同時に強められる下の締めつけ。
絡みつくように蠢くそれが俺の限界を導き出そうとしていた。
「遠坂、俺……もう」
「あ、あぁぁっ……んんっ……わたしも、駄目……んっ、士郎……出して……中に……」
「え? いや、でも……」
「大丈夫……大丈夫だから。あ、ぁっ……お願い……中に、ちょうだい、あなたの……」
そう言いながら、ねだるように腰を揺する遠坂。
そんな事をされると……俺のほうも我慢なんかできるはずないので……
「……んっ、わかった」
いろんな覚悟を決めて、彼女の中を自分の物で埋め尽くそうと律動再開。
限界まで膨張した股間の物は、柔らかな肉壁を貫き続けながら一番奥まで到達する。
亀頭の先が、コツン、と何かに触れた。
瞬間――
「あぁ――っ! イッ……くぅ……んんっ、あ、ふあぁぁ…………っっ!!!」
ビクンッ、ビクンッ、と二度、大きく体を震わせると、ひときわ甲高い鳴き声を上げながら遠坂が達した。
膣内が猛烈に締めつけられる。
俺ももう……限界だ。
「ぐっ……遠坂っ!」
彼女の腰を引き寄せ、奥まで突き入れたところで放出する。
溜まりに溜まった精液が膣内でハジケ飛んだ。
「ひぁっ! あぁっ! あ、ぁ……なかで……出て……士郎……ぅ……んっ!」
白い液体が彼女の中を汚していく。
粘液を浴びせられる感覚を正確に感じ取った遠坂は、よりいっそう膣内を窮屈にさせる事で俺に応えてきた。
きゅぅっ、と、そこだけ真空パックされるみたいに締めつけられる。
う、ぁ……これは、凄い……
「ん、は、ぁぁ……あ、熱い……士郎の……んっ」
なんどもなんども体を痙攣させながら、消え去りそうな小声で遠坂がさえずる。
その声を聞きながら、俺は最後の一滴を出しつくすまで腰を動かす。
いや、というか、もう止まらない。
「あ、まだ、出てる……んん……ひぁんっ!」
ドクンッ、と、最奥に強く浴びせられて、遠坂が再びイッた。
今日、何度目の絶頂か、数えることすら馬鹿らしくなる。
黒髪を乱して快楽に打ち震える遠坂は、このうえなく、贔屓目なしで綺麗だ。
そして、俺の腕の中でそんな遠坂を見る事ができる。
これがなによりも嬉しい。
「可愛いよ、遠坂」
「あ、あぁぁ……士郎……っ」
体中がやたら敏感になってるのか、その言葉すら快楽に変換する遠坂。
暖かな膣内が、欲望の限りを出しつくした俺の物を優しく締めつける。
自分を汚したそれですら優しく包み込み、もう一度、遠坂がイく。
「遠坂……」
「あ、ん……士郎……」
うっすらと瞳を開けた遠坂に、俺は優しくキスを落とした。
「あ……と、ん……あれ……?」
まぶたをうつ光に目を覚ます。
「あぁ……もう朝か」
いや、朝というよりは、もう昼に近いかもしれない。
カーテンの隙間から入り込んでくる日差しは、そのぐらいの強さを持っている。
俺は右手でその日差しをさえぎりながら、一つ、大きくあくびをする。
「んん……っ、ふぅ……」
体の節々がひどく痛む。
首を左右に振ると、小気味いい音が二、三度鳴った。
歪んだ背骨を直すように大きく伸びをする。
なんというか。
明け方まで遠坂と抱き合っていた弊害は、体の隅々にまで浸透しているらしい。
まあ、あれだけ激しい交わりを、あれだけの回数をこなせばそれも当然というところか。
この間のセイバーとの時もかなり激しかったが、昨夜のことはそれをすらはるかに上回る。
正直なところ、あれだけの情事をこなす体力がよくも有ったものだと思う、お互いに。
特に俺の場合、なんど欲望を吐き出してもまったく衰えることを知らず、あとからあとから精力がわいてくる感じだった。
いくらなんでもそりゃ無茶だろう、ってぐらい何度も……その、まあなんだ……遠坂を白くしてしまったわけだ。
うーん。
自分で言うのもなんだが、俺ってそっちのほうに関しては結構淡白なほうだと思っていた。
なのに、ここ数日のあまりの有様に、その認識がころっと変わってしまいそうだ。
もともと体力にはそれなりの自信があったが、体力と精力は全然別なものだし。
だからといってそれが別に困るわけでもなく、むしろ嬉しかったりするわけで、そして嬉しく感じている自分がなんとなく不思議な感じで……
うーん……不思議だ。
「でもまあ、いいか」
俺はあっさりと考える事を放棄した。
なにしろ、遠坂凛という誰もがうらやむような恋人が自分のすぐそばにいて、そんな彼女と思いっきり愛し合えるのだから、困るようなことではないはずだ。
心配することといえば、遠坂のほうが俺の体力についてこれるかという問題だが、昨夜のことを考えてみればそれのほうもどうやら大丈夫そう。
俺がそっちに慣れてきてるのと同じように、きっと彼女も体が慣れてきたのだろう。
その慣れ方があまりに急激なことが少し気にはなるが。
「んん……っ」
俺はもう一度、布団に寝ながら体を伸ばす。
そして、同じ布団の中、自分の横にいる遠坂のほうに体を向けた。
遠坂の柔らかな体。
白くきめの細かい肌は、俺の手にしっとりと吸いつくように……
「……あれ?」
吸いつかない。
柔らかくもない。
どっちかというとザラザラしてる。
それに暖かくもない。
というか……遠坂がいない。
「む……」
手のひらの下にあるのは真っ白なシーツ。
なんだ。
もう、先に起きてたのか。
居間のほうに行ったのかな?
どうせなら俺も起こしてくれればいいのに。
そうすれば、差し込んでくる朝日の中で遠坂と……なんて事も。
ん、まあ、いいか。
いずれそういう機会もあるだろうし。
「よ……っと」
一人寂しく布団に包まっていてもむなしいだけなので、俺はベッドの上で体を起こす。
再び大きく伸びをして、あくびをかみ殺しながら目をこする。
すると……視界の中に不思議なものが入り込んできた。
不思議なもの。
いや、普通に考えれば別に不思議でもなんでもない。
そこに――扉の前に、彼女が立っていたとしても、全然、なんにも不思議じゃない。
遠坂凛。
昨夜、俺の腕の中で鳴いていた少女。
「ようやく起きたのね。衛宮くん」
でも、昨夜とちょっとだけ違うのは――ちょっとだけ……どころじゃないよな、これ。
俺としてはちょっとだけと思いたいところだけど。
とりあえず確かなのは、そこにいるのは昨夜俺のことを好きだと言いながら可愛く泣いていた少女ではなく、静かなる怒りを内包する美しき「あかいあくま」であるということ。
……
…………
ああ……なんというか、ちょっと遅れ気味の死刑執行?
「お、お、おはよう。とととと遠坂」
あくまで平然を装うとした俺の挨拶は思いっきり失敗した。
いやでも、誰も俺のことを臆病だとののしる事はできないはずだ。
だって、なんだか知らないけど遠坂の左腕がキラキラ光ってるし。
「ええ、おはよう。元気そうで安心したわ、衛宮くん」
心底嬉しそうに笑う遠坂だが、その笑顔がむしろ怖い。
「え、うん、まあ……げ、元気というかなんというか」
肉体的にはかなり元気だけど、精神的にはやばくなりつつあるかなぁ、なんて。
「それだけ体調が良さそうなら、遠慮はしなくてもいいわよね」
真っ白な光を放ちつつある遠坂の左腕。
ああ……なんかそれを見つめていると、いっせいに元気が吸われていくような気がするんだが。
「……さて、衛宮くん。もちろん、覚悟はできてるわよね」
そう言う遠坂の左手が俺のほうを向く。
覚悟?
いやまあ、覚悟はすでに済ませたはずなんだけど……
昨夜、遠坂が聞かせてくれたあの最後の告白を思い出せば、俺がやった数々の悪行も全部チャラになってんじゃないかなぁ、とか思ってたんだけど。
どうも錯覚だったみたいだ……
「と、と、遠坂。なんというか、その……まあ、落ち着いてくれ……」
「落ち着け? あら、わたしは落ち着いているわよ」
にっこりと輝くはあかいあくまの微笑み。
「落ち着いて……貴方へのご褒美をなんにしようか考えてていたの」
その答えがこれよ、ってな感じでますます輝きを増す左腕の魔術刻印。
そして、それに反比例するかのように俺の顔色は輝きを失っていく。
「ちょ――っ、待てって、遠坂。あの……昨夜のことは……俺としてもその、反省しているというかなんというか……」
反省せざるをえないことをやってしまった、と、そういう自覚はある。
あるんだけども――
「でもだな。そういう遠坂だって結構……」
「結構……なに?」
結構、よろこんでたんじゃないかなぁ……なんて思ったりはしたけど、口にするのは怖いので止めた。
左手を揺らしながら微笑むあかいあくまが目の前にいるのだから、うかつな真似はできない。
「あ……なんというか、その」
「うん?」
より微笑を深めるあかいあくま。
下手なことを口にしたら即座に俺の命は泡と消えるだろう。
こんな緊張感は聖杯戦争でも味わったことがないかもしれない。
「いや、その……昨夜の遠坂は可愛かったなぁ、って」
「……」
あ、顔真っ赤にしてる。
にもかかわらず平静を装うとしている。
うん。
こういう遠坂ってやっぱ可愛いよな。
「普段はああいう姿なかなか見せてくれないし……それにさ、久しぶりに聞けたし」
「聞けたって……なにをよ?」
「俺のことを好きだって……」
俺にしがみついてきて、泣きながら発した遠坂のその言葉は、俺の脳裏にしっかりと焼きついている。
というか、絶対に忘れることなんかできないぞ、あれは。
それぐらい強烈だった。
「……」
あ、さらに顔を真っ赤に染めてる。
やっぱり遠坂も憶えていたんだ。
そりゃまあ、あんだけ大声でハッキリと言ったんだから、それもあたりまえか。
なんか……こういう遠坂を見ると、ついからかいたくなるな。
「遠坂だって、いつもより感じてただろ?」
「……」
これは間違いないよな。
あんなに乱れた遠坂を見たの、俺も初めてだ。
「何回もイッたみたいだし」
「……」
たぶん、五回や十回じゃきかないだろうな。
「失神したのは二回か?」
「……」
ん、もしかしたら三回?
「ホント……昨夜は凄かったよな」
「……」
今までで一番だったと思う。
遠坂にあんな事やこんな事をしたっていうのももちろん初めてだ。
そういうのに対して、遠坂は意外なほどに……
「――で、他に言いたいことは?」
あ――――
キンッ、と、冷たい声が響き渡った。
遠坂の瞳がすうっと細められる。
部屋の空気が凍りついた。
ついでに俺の背筋も凍りついた。
これは……もしかして調子に乗りすぎましたか?
あかいあくまの尻尾を踏んづけた?
やばい、やばいやばい。
わかってたはずなのに、わかりきってたことなのに。
遠坂があんまりにも可愛い反応をするもんだから、つい。
「あ――う…………」
「あら。もうなにも言うことないの?」
そう言いながら、再びあかいあくまとしての存在を見せつけてくる遠坂。
さっきまでの照れ可愛い遠坂はどっかに行ってしまったみたいだ。
「言いたいことがあれば聞いてあげたのに。どうせ――最後になるんだから」
死ぬ。
今度こそ本当に死ぬ。
というか消される。
「う……その……」
ここは、なんとか彼女の怒りをおさめるようなことを……
「と、遠坂って」
「なあに?」
にこにこしながらたずねてくる遠坂だが、その瞳だけは全然笑ってない。
ボケたこと言ったら殺すぞコラ、的な雰囲気を全身から漂わせている。
だから俺は、口中に広がる唾液を飲み込みながら。
「遠坂って結構いじめられるの好きなんだな」
……
………
…………
……………あれ?
なんか……なんのフォローにもなっていないような気がするぞ。
あ――
遠坂が――
「ふ、ふふふ……」
「あ――ええと、その……遠坂?」
遠坂のこめかみがピクピクと震え、直視するのさえ恐ろしいほどの微笑がひろがる。
左手の矛先が俺の胸を捉える。
そして――
「とりあえず、死んどきなさい。士郎」
その声と共に、彼女の左腕から「呪い」の弾丸が放たれた。
それは吸い込まれるように俺の胸へと着弾。
途端、襲ってくる倦怠感……というより、むしろ肉体的な苦痛。
「呪い」を食らい慣れてる俺も、これほど強烈な奴は初めて。
あ、ああ……意識が…………
――いじめられることだけじゃなくて、いじめることも好きなのかな、遠坂は――
最後に、そんなことをぼんやり思いながら、俺の意識はあっさりと暗闇の中に沈んだ。
「まったく……どうしようもないんだからっ、あの馬鹿は!」
わたしは、居間へと続く廊下を歩きながらひとりごちた。
歩を進めるたびに、板張りの廊下が軽い軋みの音を上げる。
怒りの影響はわたしの足元にまで影響を与えているようだ。
「少しは反省してれば許してあげたのに」
だっていうのにあの馬鹿は!
反省するどころか、あんなことされるのがわたしの好みだなんて言っちゃって。
「そんなことあるはずないでしょうが!」
まったく。
士郎だからあの程度ですませてあげたのだ。
もし他の奴にあんなことされてたら、間違いなく消し炭にしてやっていたはずだ。
このわたしが、いじめられるのが好きだなんてあるはずないじゃない。
そりゃまあ……わたしとしても昨夜はちょっと色々しちゃったけど、なんだか色々と言っちゃったような気がするけど。
それにしたって、その相手が士郎だから……
「…………」
あ――
やばい、ちょっと思い出しちゃった。
考えてみると、ずいぶんとんでもないこと言っちゃったわよね。
もっと○○○○してください、とか、○○○と○○○を―――ください、とか……
やだ……
もしかして、わたしってホントにそういうことが……
「あ、あるはずないわよ……そんなこと」
たぶん……
「ああ、もう! やめやめ!」
パンパン、と熱を持ち始めた両の頬を軽く叩く。
とにかく昨夜のことは忘れましょう。
憶えていたって良いことないし。
むしろ、憶えていると今後のわたしたちに変な影響を与えそうだ、いろんな処で。
ただでさえ夜のほうはわたしの分が悪いというのに、これ以上、差をつけられてたまるもんですか。
そんな――なんとなく後ろ向きな事を考えながら、わたしは居間の戸を開けた。
「おはようございます、凛」
そこにはセイバーがいた。
いつものように、テーブルの前にきちんと正座している。
「あ……うん、おはよう、セイバー」
一応そう返すが、時間的に言えばもうおはようと挨拶を交わすような時間帯でもない。
そろそろお昼になるし。
お昼……あ――
「ごめんなさい、セイバー。朝食……」
すっかり忘れていた。
忘れていた……というよりは、まあ物理的に不可能なだけだったんだけど。
なにしろ明け方まで――
「すぐに用意するわ」
「……はい、感謝します」
「……?」
あれ、怒ってない?
それに……なんかいつもと様子が違う。
表情は普段どおりだけど、目に落ち着きがないというかそわそわしているというか。
それに、頬が妙に赤いような気も。
「ところで、凛」
「え? あ、なに?」
「シロウはどうしたのですか?」
「し、士郎?」
わたしはつい言いよどむ。
わたしと士郎の関係は当然セイバーも知っていることだけど、セイバーと士郎のほうも実は色々と関係があって、それにともなってわたしとセイバーの関係も色々と複雑だったりして。
で、ついさっきまでわたしと士郎は色々としてたわけで……
「ま、まだ寝てるんじゃないかな、うん」
とりあえず当たり障りのないことを答える。
「そうですか……」
それに対して、セイバーもそれだけを答える。
なんか……変な感じね。
ホントは他に聞きたいことがあるんだけど言い出せないような感じというか、セイバーには珍しい。
それっきりセイバーは黙ってしまったので、わたしは朝食の準備のためキッチンへと入った。
シロウが死んだように眠っている。
それこそ、本当に死んでしまっているのではないかと疑ってしまうぐらいに。
「シロウ?」
私が呼びかけても彼は答えない。
たぶん、聞こえていないのだろう。
ぐったりと布団の中に沈みこんだシロウからは生気というものが感じられなかった。
「少し、やりすぎではないですか? 凛」
今、キッチンで食事の用意をしているだろう我がマスターに対する非難のつぶやき。
それすらもシロウの苦しげなうめき声にかき消された。
こういう姿のシロウは見たことがある。
見たことがある、というよりは昨日見た。
過酷なまでの魔術訓練を終えた後のシロウがこんな感じだった。
加害者が凛であるというところまでも同じだ。
あの時は、シロウのあまりの苦しみようを見かねて、かつてあの老人から教えられた秘術をもって彼の治療を試みた。
結果は上手くいった。「いきすぎた」ぐらいに上手くいった。
シロウは生気を取り戻し、そして――
「ふう……」
私は呼吸を整える。
あの時は上手くいった。
だったら、今度も上手くいく。
今、シロウは苦しんでいる。
これは治療だ。
苦しんでいるシロウを救うための治療だ。
そう、治療。
私は立ち上がり、シロウの顔を見下ろす。
「シロウ……」
彼は答えない。
そう、これは治療。
決して、他の理由などない。
一晩中、隣室から聞こえてきた「アレ」の声など関係ない。
そのせいで一睡も出来なかった事など関係ない。
そう――
これは治療だ。
そう何度も自分に言い聞かせ、私は、ゆっくりと身に纏った服を下ろしていった。
いつもよりもちょっと豪勢に。
待たせてしまったお詫びもかねて、普段よりも材料と時間をかけて準備する。
まあ、食材はすべて衛宮家持ちだけど。
「お待たせ」
三十分ほど時間をかけて出来上がった料理を居間へと運ぶ。
でもそこに肝心の人はいなかった。
「セイバー?」
居間の中に彼女はいない。
いつもなら、これから戦場へと向かうかのような面持ちで食事が出来るのを待っているというのに。
それを放っておいて、いったいどこへ行ったのだろうか。
とりあえず食事をテーブルに置く。
並べ……そして、その中のひとり分だけ別のトレイへと移すのも忘れない。
それを終えたところで、すっと戸が開いた。
セイバーだ。
「セイバー、どこへ行ってたの?」
「いえ、ちょっと……」
そう答えたセイバーはなんかおかしい。
いや、さっきもおかしかったけど、今はさらにおかしくなってる。
運動でもしてきた後みたいに頬は上気しているし、髪の毛も少し乱れている。
服もさっきとはなんか着方が変わってるような気がするし、なにより瞳が潤んでいるような……
「どうしたの、なんか変よ?」
「そんなことはありません、凛」
そう答えてセイバーは席に着いた。
明らかにおかしい気がするんだけど……まあ、良いか。
「凛? どこへ?」
一人分の食事をのせたトレイを持って立ち上がると、セイバーが声をかけてきた。
「ん、ちょっと、まだ寝てる馬鹿のところに」
さすがに今朝の「呪い」七連発はやりすぎたかな、って自分でも思うし。
まだしばらくは寝込んでるだろうけど、一応、食事ぐらいは、ね。
「シロウのところに、今すぐ、ですか?」
「……? なに?」
「いえ……なんでもありません」
「そう」
やっぱりなにか変ね、今日のセイバーは。
「これは、美味しそうですね」
なんとなくわざとらしくそう言いながら、いただきます、と頭を下げて食事に取り掛かるセイバー。
気になるところは山ほどあるけど、食事を始めたセイバーの邪魔をするわけにもいかない。
色々と怖いしね。
ま、詳しくは後で聞けばいいかな。
「じゃ、行ってくるわ」
「……はい、お気をつけて」
……
………?
今……なんか変なこと言わなかった?
またしても釈然としない気持ちを抱えながら、わたしは廊下へと出た。
そこでも、わたしは再び妙な感覚を受ける。
「あ、れ……」
なんだろう、これ。
向こうから――わたしが行こうとしてる先から、なにか禍々しい妖気のようなものが……
「気のせい……?」
たぶんそうだろうけど、そうとは思えないような感覚を受けるのも事実。
なにかこう――恐ろしい怪物が口を大きく開いて待ち構えているような――
「な、なによこれ……」
まとわりつくような不快感が廊下の向こうからひしひしと伝わってくる。
この先にはわたしの部屋――つまり、士郎がいる部屋――しかないというのに、この不快感はどう考えてもそこから漏れ出しているとしか考えられない。
わたしは頭を振ってその嫌な感覚を振り払った。
士郎のところへ行くのになんでそんなものを感じなければいけないのか。
あいつは今頃ベッドの上でうんうん唸っているはずだ。
なにしろ、わたしの「呪い」をまともに受けたのだから。
身動きすることすらきついはずだし、ゆえに……そこにいかなる危険もあるはずがない。
なのに。
お気をつけて――
セイバーが言ったその言葉が、わたしの脳裏を駆け巡っている。
魔術師としての勘が、この先には行かないほうがいいと教えてくれている。
「……ふう――」
引き返そうとする脚をなんとか踏みとどめて、一つ深呼吸。
両手で持ったトレイを見下ろせば、湯気をあげているできたての食事。
やっぱり……温かいうちじゃないと美味しくないしね。
わたしは覚悟を決める。
食事を持っていくだけなのに、なんでこんな覚悟を決める必要があるのかはわからないけど、とにかく覚悟を決める。
「んっ、よし。行くわよ」
そしてわたしは士郎の部屋へと歩を進める。
彼への「食事」を手に持って……
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あとがき
そして、遠坂凛は衛宮士郎に『食べられる』ことになるわけで。
さらにこの後、彼女たちの壮絶な戦いの火蓋が気って落とされることになるわけで。
まあそういうことで、ようやく終わりましたVS遠坂。
異常なほどに長くなりましたが、ある程度、書きたいものは書けたので良しとしときます。
だいぶ冗長気味なところもありますが、そこら辺は次への反省材料ということで、はい、修行します。
とはいえ、これでもいくつか切り捨てたシーンがあるわけですが。
全部書いてたらとんでもないことになってた予感。
そういった部分も、いずれ次の機会に生かしたいと……たぶん、凛のエロ話はまた書くと思いますんで。
では、また次のお話で。
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