第七話
 俺たちは寒空の中、お互いを暖めあうように唇を重ねていた。
 ゆっくりと柔らかく、ふれあうだけの交わり。
 遠坂の柔らかい、でも少しだけ冷たい体を抱きしめる。さらさらの黒い髪が指に絡み、それを優しくほどくように撫でる。

 静かな時間が流れていき、俺たちはどちらからともなく唇を離した。
 遠坂が俺の胸に顔をうずめてゆっくりと言葉をつむぐ。



「ねえ、士郎……」

「ん?」

「―――抱いて……」









「う、わっ……」

 部屋に入った俺はまずその広さに驚いた。なんというか、こういうところってのはもっと狭くてけばけばしいものだとばかり思っていた。ちかちかのライトがぶら下がってて、天井にはでっかい鏡が張ってあって、丸いふかふかのベッドがくるくると回ったりして、そんないわゆる典型的なものを想像していた。
 でも目の前の部屋は、それこそ普通のホテルとして通されてもなにも違和感がないような部屋。落ちついた雰囲気の内装に、うすい青系の色の壁紙。ベッドも大きさはともかく形はいたって普通。テレビもあるしカラオケなんかもついていて、さらには冷蔵庫まで備えつけてあった。

「結構……奇麗なもんなんだな、遠坂」
 俺は隣にいる少女にそう呼びかけた。


 あれから俺たちは近くのホテルに来ていた。
 俺自身、ようやく捕まえた遠坂を手放したくなどないし、あらためてもう一度確認しあうことがお互いにとって必要だと思ったし、それになにより、遠坂を抱きたいというなによりも強い気持ちを心の底から感じていた。
 だったら、やっぱりそれなりのちゃんとした場所で……と、そう考えてこのホテルに来たわけだ。
 こういう場所に来たのは初めてだけど、けっこう値段の高いもんなんだなと実感する。とりあえず時間は長いほうがいいと思ったから休憩ではなく宿泊のほうを選んだけど、それで一万五千円ほど取られた。相場とかは知らないけど、数時間の滞在でそれだけ取られるとは正直思わなかった。
 まあお金のほうは、ネコさんから渡されたあの箱に「しっかりやれよっ」なんて激励だかひやかしだか判然としない言葉とともに二万円ほどが入っていたから、そのおかげでなんとかなったわけだが。


「そ、そうね」

 俺の言葉にややどもりながら答える遠坂。
 遠坂は平静を装っているつもりのようだが明らかに緊張していた。いきなり「抱いて」と言うほど大胆になったかと思えば、それを目の前にするととたんに臆病になる。こっちが戸惑ってしまうぐらいのこの変化が、遠坂凛という少女の本質なのかもしれない。
 つないでいる手からかすかな震えが伝わってきて、なんだか俺まで緊張してしまう。別にその、初めてってわけじゃないんだけど、やっぱりこのホテル独特の雰囲気みたいなのがそうさせているんだろうか。だってその、ここはつまり、そういうことをするためにあるような場所なわけで……

 ちらっと横目で遠坂を見る。

「…………」

 なんというか。
 いつもはあえて意識しないようにしてたけど。
 やっぱすごいかわいい。

 学園では男子生徒のあこがれを一身に集めている美少女で、成績優秀、運動神経抜群の完璧超人。いいよる男どもを片っ端からはねつけ、敢然と咲き誇るまさに高嶺の花。
 で、その美しき花を摘み取ることが許されたただ一人の男がこの俺というわけで。なんかいまさらだけど、やっぱり夢みたいだ。

「遠坂……」

 無意識のうちに彼女の名前を呼んでいた。
 すっと腰に手を回し、優しく引き寄せる。

「……あ」

 小さな声。でも逆らうようなことはしない。柔らかい体がすっぽりと俺の腕の中に吸い込まれた。
 上目使いで俺を見る遠坂。
 その瞳がいつもよりなんとなく潤んで見えるのは、気のせいじゃないよな、きっと。

「遠坂……」

 震える唇でまた彼女の名を呼ぶ。なんだって俺はこんなに緊張してるんだ。
 遠坂はなにも言わない。ただじっと俺を見つめてくる。

 引き寄せられるように、俺は遠坂の唇にじぶんのそれをゆっくりと押しつけた。

「……ん」

 甘いキス。甘い唇。
 遠坂の唇は、やっぱりものすごく柔らかかった。

「し、ろう……」

 囁くような声がふさがれた唇から漏れる。
 そんな声を聞かされたらこっちも我慢がきかなくなって、
「んっ……あ、士郎」
 思わず彼女の胸のふくらみに手をおいていた。

「……やわらかい」
「う……ば、か……」

 俺の手のひらにすっぽりとおさまる遠坂の胸。あんまり大きくはないけど、俺だけが触れることの出来る柔らかなそのふくらみ。
 痛くしないように気をつけながら、やんわりと包み込むように揉む。
「ん、ん……」
 唇に感じる吐息が熱くなってきた。遠坂は瞳を閉じて俺に身を任せてきている。
 かわいい。もうとにかく、そのひとこと。
 ふくらみを堪能する手はそのままに、俺はもう片方の腕を下のほうへと移動させた。

「……あっ」
 と言う遠坂の声は無視。
 ひざまであるニーソックスに素肌がむきだしの太股。そしてその上にある短めのスカート。
 いつもは他の男どもに見せつけているみたいであんまり好きじゃないそのスカートも、今だけはちょっと嬉しい。
 手を下からゆっくりと這わせながら、お尻のほうからスカートのなかへと侵入させた。

「やっ、ちょっと、し……んっん」

 抗議の声は唇でふさぐ。
 俺の手はそのあいだに目的地に到達。下着につつまれたふくらみ。遠坂のお尻もやっぱりとても柔らかかった。
 左手は胸のふくらみ、右手はお尻。すこし種類のちがう柔らかさを両の手のひらで十二分に堪能する。

「んっ、あぅっ、士郎、んっ」

 熱く、荒くなってきた遠坂の呼吸。俺の手で感じてくれてると思うとなんだか嬉しくなってくる。だからもっと喜ばせてあげたくて、
「……あっ!」
 俺は下着のなかへと手を入れた。

「やっ、待って!」
「待たない」

 ああ、もう待てない。
 後ろから侵入した俺の右手。お尻の割れめにそって指を下ろしていく。
「んっ、やっ……そんなとこっ」
 いろんなとこにちょっとずつ悪戯しながら、俺の指は遠坂のもっとも熱い部分に到着。

「ん……ぬれてる……」
「ばっ……かぁ、んっ、そんなこと……」

 唇を重ねていることも出来なくなった遠坂が、俺の頬にやけどしそうなぐらい熱い吐息を吹きかけてきた。両手が俺の服をぎゅっとつかむ。
 ちぢこまってる遠坂はいつも以上にかわいい。だからもっと……

「あぅっ、く……しろ……う」
 指が熱いぬかるみのなかに埋没していく。と同時に痛いほど締めつけてくる遠坂の中。

「く……指なのに……すごいきつい」
「やぁ、そういうこと……い、わないでよ……」

 また、きゅっ、と締めつけてきた。
 ひょっとして、遠坂って恥ずかしがらせると感じやすくなるのかな?
 なんとなく遠坂の弱点がわかったような気がして嬉しくなった。かわいい女の子にはやっぱりかわいい声をあげてもらいたい。

「遠坂……奥からどんどん溢れてきてるぞ」
「だ、から……そういうことは、いわないでって、んっ、いってる、でしょ……ばか」

 いままで聞いたなかでもっとも弱々しい「ばか」
 指を蠢かせるたびに、くちゅくちゅ、と小さな水音が聞こえ、音階のちがう遠坂の声が鳴る。自分の手が彼女を少しずつ狂わせているのがはっきりとわかる。

 はあ……はあ……という遠坂の声。
 耳元でそんな熱いささやきを聞かされたら俺も我慢が出来ない。

「遠坂……っ!」
 本格的な行為に移行しようとして、
「あっ! ま、士郎、待って! おねがい……」
 胸と下半身を俺に責められたまま、遠坂が必死で俺の腕をおさえる。
 俺は動きを止めた。

「遠坂?」
「士郎……おねがい、いちど、その、離れて……」

 拒否、というよりも嘆願。
 そんな声で言われたら俺もいうことを聞くしかない。
 遠坂の中に入り込んでいる指を引き抜く。
「んっ……!」
 瞬間、びくっ、と体を震わせる遠坂。
「…………」
 おもわずまた我慢がきかなくなりそうになるがここはぐっとこらえる。どんなに好きあったもの同士でも、無理やり事におよぶような真似はしたくない。

 遠坂の体を解放してちょっとだけ距離をおく。
 顔をほんのりと紅潮させて遠坂は荒い息をついていた。

「遠坂?」
「ん……ごめんなさい、士郎」
「いや、別にいいけど。どうしたんだ?」

 遠坂はちょっと言いづらそうに口ごもったあと、
「士郎……貴方、いま自分がどんな格好してるかわかってる?」
「どんな格好って――あっ」

 自分の体を見下ろしてすぐに気づく。遠坂がなにを言いたいのかがはっきりわかった。
 焦ってて気づかなかったけど、というか忘れていたけど、いまの俺は誰がどう見ても間違いなくひどい格好をしていた。汗と埃にまみれて服もところどころ汚れたり破れたりしている。遠坂を探すのにとにかく必死だったからそれを省みる暇がなかったとはいえ、少なくてもこれから好きな女の子を抱こうとする男の格好ではない。

「あ……わ、悪い」
「いいけど……シャワーはあっちみたいよ」

 右奥にある扉を指し示す遠坂。

「あ、ああ、じゃあちょっと行ってくる、あっ……でも」

 遠坂に目をやる。

「遠坂が先に入れよ」
「わたし?」
「ああ」

 彼女だって寒空のなかひとりでいたのだ。体を暖めたほうが良いだろう。

「わたしは……あとでいいわ」
「え? いや、でも。寒かっただろ? 俺は別に汚れただけだから、あとでもかまわないし、遠坂がさきに入ったほうが……」
「あとでいい」

 遠坂はなぜか頑なだった。

「う、でも……あっ、じゃあなんだったら『一緒に……』」

 入るか? なんて、なんとはなしに言おうとして瞬時に固まってしまう。実際にそうしたときのことを思いうかべて不覚にも顔が真っ赤になる。そして、それは遠坂も同じようだった。

「ば、馬鹿っ! いいからさっさと行きなさいっ!」

 があー、と、怒りと照れでその名のとおり真っ赤になった赤いあくま。その剣幕に押されるように俺は風呂場へと退避した。





「もうっ! あの馬鹿は、ほんっとにどうしようもないんだからっ」

 逃げるようにして去っていった士郎の背中を見送ったわたしは、とりあえずそう毒づいた。
 あいつはときどきほんとに余計な一言が多い。
 一緒に入るか?
 なんて言われて、うん、などと簡単にうなずけるはずなどないではないか。
 わたしたちはそういうことが気軽に出来るほどにはまだ恋人という関係に慣れていない。

「……恋人」

 自分で言った言葉ながらその響きにちょっと戸惑ってしまう。
 恋人……
 わたしと士郎ははたして恋人と呼べる関係になれていたのかどうか。
 体は重ねた。これまでにもなんどか。
 士郎の体温をこれ以上ないぐらい側で感じて、士郎がわたしを好きでいてくれるということを感じて、それと同じくらい、あるいはそれ以上にわたしが士郎に心から惚れているということも知っていて。
 だから普通に考えればわたしたちは一般的な恋人同士ということになるのだけど……


 セイバー

 わたしと士郎とのあいだには常にセイバーがいた。
 かつての士郎のサーヴァントであり、かつてのセイバーのマスター。
 でもそんなものとは別の絆で強く結ばれた二人。

 士郎と肌を重ねるとき、わたしの心のなかには常にセイバーに対する負い目があった。そんなことを感じてもどうしようもないとわかっていながらも、それでもセイバーのことを思わずにはいられなかった。
 なぜなら――セイバーがどれだけ士郎のことを愛しているかを知ってしまっていたから。

 セイバーの心がわかるようになったのはいつごろだっただろうか。
 彼女とサーヴァントの契約を結んだときだっただろうか。それとも、おなじ男を愛してしまったときからだっただろうか。

 知らなければ楽だった。
 知らなければ、士郎に抱かれるたびにセイバーのことを思い浮かべることもなかった。彼女の心を傷つけているのだと思い悩む必要もなかった。
 でもわたしは知ってしまった。そして、それを知っていながら、それに気づかない振りを続けていた。
 だって、それを認めてしまうことは、士郎がわたしのもとから去っていくということを意味していたのだから。

 だからわたしは士郎とともにいた。
 彼に抱かれていた。
 この行為は「セイバーが現界するために必要なのだから」と、士郎と、セイバーと、自分にそう言い聞かせながら。

「……ひどい女ね」

 士郎とセイバーと自分にたいする裏切り。
 だから今回の結末はきっと必然なものだと、そう考え、一度はそれを受け入れた。
 でも遠坂凛にとっての誤算は、士郎とセイバー、この二人がそろいもそろってあまりにもお人よしで、あまりにも優しすぎたということだ。
 あきらめかけたもの。捨て去ろうと決めたこと。
 二人は、それに向かい合うチャンスをもう一度わたしに与えてくれた。

「後悔してももう遅いからね――セイバー」

 たぶんセイバーはそんなことは思わないだろうけど、でも、チャンスを与えてくれた恋敵にそう宣告する。


 扉の向こうからシャワーの音が聞こえてきた。
 それでこの部屋に、このホテルの一室に、わたしと士郎が二人きりでいるということを再確認する。
 胸が、どくん、と飛び跳ねるように鳴る。

 ああもう正直に告白しよう。
 わたしは今、これ以上ないぐらいに緊張していた。それこそ聖杯戦争の時にも味わったことのない緊張感。キャスターやギルガメッシュと対峙したときにも味わったことのない、恐怖にも似た胸のざわめき。

 なぜか。
 それはわたし自身良くわかっている。
 というよりも、士郎を風呂場へと追いやったそもそもの理由がこれだ。別に本気で汗まみれの士郎と抱き合うのがいやだったわけでもない。まあ、奇麗にしてくれるにこしたことはないけど。
 でもそれよりも、まずはこの胸の高鳴りを少しでもおさめないことにはまともに士郎の顔を見れない、と、そう思ったからだ。

 わたしの意識は一点に集中している。
 これからわたしは士郎に抱かれる。士郎と体を重ねる。

 別に初めてのことではない。
 慣れた、とはいかないまでも、お互いのことについて理解しあえるぐらいには体を重ねてきた。

 だけど今日は、今回は、いつもとは決定的に違う部分がひとつある。

 なんのしがらみも負い目もなく、士郎と抱き合える初めての日。
 魔力のパスを通すという理由もなく、セイバーの魔力補給のためという言い訳もない。
 ただただ、好きだから、抱き合いたいから、お互いのぬくもりを感じあいたいから、だから体を――心を重ねる。
 普通の恋人同士ならあたりまえのこと。
 でも、わたしたち二人の間には決して訪れないだろうとあきらめていたこと。

 胸に手をやる。
 どくんっどくんっ、という鼓動がはっきりと伝わってきた。
 自分の初めてを士郎にあげたときよりももしかしたら緊張しているかもしれない。
 一人になったら少しは落ち着いてくれるかと思っていたけど、わたしの心臓は主の思惑に反して鼓動を高め続けていた。

 シャワーの音がやんだ。
 どくんっ、と、また心臓が飛び跳ねる。
 いいかげんにしなさい、そう自分の心臓に言い聞かせたい気分。
 でもそんなことは無駄で、ズボンをはいただけの上半身裸の士郎が視界に入ってきた瞬間、わたしの心臓と思考はショートすんぜんまで暴走していた。







 ベッドに座る遠坂にゆっくりと近づく。
 彼女はなぜかうつむいたまま俺のほうを見ようとはしない。

「遠坂……」

 呼びかけても返事は返ってこない。
 なにかにおびえるように小さく縮こまるだけ。
 もしかして……
「遠坂? その、やっぱり嫌なのか?」

 その俺の問いかけにすっと顔を上げる遠坂。

「そんなわけ――ないでしょう」

 静かだがはっきりとした声音だった。その瞳にはどこか挑むような光がある。
 遠坂の態度はいまいち良くわからないが、拒否するということはないようだ。
 ならば、俺のやることは決まっている。
 そもそもすでに我慢などきかなくなりつつある。
 目の前に愛しい少女がいて、その少女は自分に抱かれるのを待っている。
 俺も彼女を抱きよせたくて、思いっきり抱きしめたくて、だからもう我慢する必要など無いわけで、俺たちは今日三度目の口づけをかわした。



 柔らかなベッドにゆっくりと遠坂を押し倒す。
 華奢な体がベッドに沈み込み、解かれた髪が白いシーツの上にひろがる。

「士郎……」

 かすかに聞こえる遠坂のつぶやき。
 それにうなずき、彼女の体に覆いかぶさる。

「遠坂……」

 名を呼ぶ。
 遠坂の瞳が静かに閉じられた。
 重なりあう唇と唇。

「……ん」

 柔らかな感触。
 甘い吐息。
 俺は遠坂の頬を優しくなでながらキスを交わす。
 唇はそのままに、右手を少しずつ下へと滑らせていく。

「んっ……士郎」

 首筋をくすぐるようになでると、ため息のようなかすかな吐息が遠坂の口元から漏れた。
 右手をそのままさらに移動させる。鎖骨を撫で滑らせ、たどり着くのは胸のふくらみ。服の上からそのふくらみの感触を確かめる。

「……んっ」

 また声が漏れた。服の上からでも感じてくれているらしい。
 でも今度はそれじゃ足りない。やっぱり、直接それを感じたい。

 遠坂の上着を両手でずり上げる。

「あ……っ」

 目の前には白い下着につつまれた二つのふくらみ。すべてをこの目にしたくて、その下着にも手をかけた。

「やっ、士郎っ」

 遠坂が俺の手をつかんだ。

「ん? 遠坂?」
「士郎……その、胸は……あんまり、見ないで……」
「なんでさ?」

 俺は見たい。

「え……だって、その、あんまり自信ないし」

 そう言って両手で胸のふくらみを隠してしまう。
「……む」

 いつもならおとなしく素直に引き下がっているところだが、今日は違う。今日はとにかく遠坂のすべてが見たい。すべてを愛したい。
 だから俺はその提案を却下した。
 胸のまえで組まれた両手をつかんで持ち上げる。

「あっ、ちょっと、士郎!」

 両の手首を左手一本で押さえてベッドに押しつける。

「悪いけど遠坂。今日はおまえの意見は全部却下させてもらうから」

 そう言って胸をおおう下着を残った右手で取り払ってしまう。
 あらわになる二つの果実。こんな奇麗なものを隠しておくなんてやっぱりもったいない。

「やっ、駄目って言ってるで……んっ!」

 抗議の意見を唇でふさぎ、右手でそのままそのふくらみを堪能する。

「んっ、んっ」

 下から持ち上げるように揉みこむ。俺の手の動きによって遠坂の胸がさまざまな形に姿をかえた。
 さらにその先端、ぴんと突き立った胸の頂。

「遠坂……乳首たってる」
「っ……! う、るさい、馬鹿」
 俺の顔のすぐそばで弱々しい文句を言ってくる。
 そんな遠坂にキスの雨をふらせながら桜色のかわいい突起を親指と人差し指でつまむ。そのまま、きゅっきゅっ、とやさしくこすってやった。

「あっ、んっ、んっ」

 両手と唇を俺に支配されながら胸からの感触に体を揺らせる。
 なんだろう。
 遠坂の体、なぜかわからないけど、いつもより敏感になっているような気がする。

「遠坂……なんか、いつもより感じてないか?」

 耳もとで、耳をやさしく噛みながらたずねた。右手はあいかわらず白桃のようなふくらみをもてあそんでいる。

「んっ、ぅ、しらないわよ……そんなこと」

 唇をかみ締めながらそう言うが、それは肯定してるも同然の仕草。頬に朱がさし、唇の隙間からときおり艶やかな声が漏れる。
 前からこういうときの遠坂は異常なくらいの羞恥心を見せるが、今日はいつにもましてその傾向が強い気がする。
 でもまあ、俺としてはそのほうが嬉しいかもしれない。恥ずかしがっている遠坂はとにかくかわいいし、こうやって体を愛撫してやれば、
「あっ、うぅ、んっ、士郎……」
 熱いため息を吐きながら俺の名を呼んでくれる。

 俺はその呼びかけにこたえるべく体を下にずらして行く。そのまま遠坂の下半身を隠すスカートに手をかけた。

「あっ」
 遠坂は一瞬声をあげたが俺の動きをじゃまするようなことはしなかった。

「遠坂、お尻上げて」
 このままじゃ脱がせない。
 遠坂は横をむいて俺の顔を見ないようにしながらほんのちょっとだけうなずいた。

 ゆっくりと遠坂のお尻が上がる。その動きと同時に、俺はスカートと下着を一緒にするすると脱がせていく。

「……ん」

 小さな遠坂の声。彼女の大事な部分があらわになる。
 脱がしたスカートと下着を遠坂のほそい足首から抜き取り、そのままベッドの下に放り捨てた。

「……遠坂」

 俺の体の下に遠坂がいる。
 身につけているのはひざまでのソックスと胸の上で丸まってる赤い服。それと、左手の指で輝く赤い指輪。それだけ。

「…………」

 遠坂は横をむいたままじっとしていた。両手でベッドのシーツを握り締めている。
 俺はそんな彼女の体にのしかかりながら彼女の大事な部分へと手を差し伸べた。

「あっ……士郎、まって!」
「なんだ?」
「ん、その……わたしはもう大丈夫だから、その、このまま……」

 つまり、このまま抱いてくれと、最後までしてくれと、遠坂はそう言った。
 たしか彼女と初めて体を重ねたときもおなじようなことを言われた。
 あのときの俺は遠坂のその言葉にうなずいた。痛みよりも羞恥心のほうを彼女は恐れていたから。
 でも今日は……
「いやだ」
 はっきりとそう言った。

「え……?」

 遠坂から戸惑いの声が上がる。
 でも無視。
 俺は遠坂の秘部に指を滑り込ませ、止めようとする腕を自分の左手で押さえた。
 今日は今までとは違う。
 あのときのようにパスを通すことを考える必要も無いし、セイバーの魔力補給のことを考える必要も無い。
 ただ、遠坂を抱きたい。
 このいとしい少女のすべてを自分のものにしたい。

「さっき言っただろ、遠坂。今夜に限ってはおまえの意見はぜんぶ却下するって」

 顔を寄せる。唇がくっつきそうなほど近くに遠坂がいる。

「今夜は――遠坂のすべてを、俺のすべてで愛したい……」

 普段なら絶対に言えないような赤面ものの台詞も、今はなぜか素直に言葉に出来た。




 右手の指が遠坂の中へと消えていく。
「――っ、んっ、んっ」
 遠坂の体が硬直する。
 俺はかまわず中指をその根元まで埋め込んだ。たちまち締めつけてくる遠坂の肉壁。やっぱりきつい。
 その指を出し入れする。

「んぁっ、んっ、くぅ――!」
 あえぎ声とともに膣のなかが収縮を繰り返す。くちゅくちゅ、という蜜の音が少しずつ大きくなってきた。

「ん……遠坂のここ、もうあふれてきた」
「はぁ、はぁ、ん……っ!」

 上のほうのざらざらした肉壁を中から軽く引っかいてやると、顎をそらして体を震わせる遠坂。それとともにプルプルと動く二つの白桃。そのさまがあまりにかわいらしくて、俺は思わずピンク色の先端に吸いついていた。

「あぅっ! なっ、士郎っ!」
 微妙にちがう感覚に遠坂が驚いたような声をあげた。胸に吸いついている俺の頭をどかそうと両手で押してくる。
 勿論、それで素直に退くような真似はしない。口の中にあるピンク色の突起を舌で舐めまわす。

「んっ! くっ、うぅ……」
 一瞬おおきな声をあげかけ、すぐに唇を閉ざした。声を漏らさないよう唇を閉じながら俺の髪の毛をぎゅうっとつかんでくる。
 その感触を感じながら舌の上で踊っていた乳首をかりっと歯で噛んだ。

「ひぁ――っ!」
 またビクンと体をはねさせる遠坂。

「ば、馬鹿……そんなとこ、か、噛まないでよ……」
「いや、あんまりにもかわいいから」

 言い訳なのかなんなのかわからないような言葉を吐く。
 その間にも乳首を舐めたり噛んだり、遠坂の膣口を攻める指を二本にふやして出し入れしたり、クリトリスを親指でピンっと弾いてやったり、あらゆる手管をもちいて遠坂を可愛がった。

「やぁっ……士郎っ! なんか、おか、しい、いつもより……んっ、んっ!」

 ピクピクと遠坂の体が小刻みに震えた。彼女自身、いつもよりも敏感な自分の体に戸惑っているようだ。

「はぁ……はぁ、し、士郎、士郎……」

 押しのけようとしていた遠坂の手が、いつの間にか俺の頭を抱きかかえるように変わっていた。
 ちゅうっと遠坂の乳首を吸いながら秘部に差し入れた指の動きを激しくする。二本の指を別々に動かし、まとわりついてくる肉壁をかきわけるようにしながら蠢かす。

「ふぁっ、んっ、ん……あぅっ!」
 ぴちゃぴちゃという蜜の音と、しだいに高くなる遠坂の切なげな声。その声がもっと聞きたくて、俺はすうっと体を入れ替えた。

「ん……ん……えっ」

 遠坂が気づいたときには、俺は彼女の両脚の間に体を入り込ませていた。彼女の左足の上にまたがりその動きをふうじる。右足の足首を左手でつかみ、それをゆっくりと持ち上げ、
「――あっ!」

 俺のやろうとしていることに気づいたのか、脚に力をいれ必死に抵抗しようとする遠坂。だが、俺はなんなくその抵抗をねじ伏せる。左足は俺に押さえつけられ、右足は天井にむかって高々とさし上げられた。蜜をあふれさせている彼女のその部分は、必然的に俺の眼前にさらけ出されることになった。

「やっ、ちょっ、士郎っ! は、なしてっ!」

 羞恥に顔をそめながら嘆願してくるが勿論聞かない。今夜は、遠坂を徹底的に可愛がると決めたのだ。

「やだっ、そんなとこ、見ないで」
 そう言って両手で隠そうとする。

「駄目だ、隠すなよ」
「だ、だって……」
「いいから、今夜だけは俺の言うことを聞いてくれ。遠坂」

 そう言ってじっと遠坂の瞳を見つめる。それを見つめ返してくる遠坂の瞳には、普段の強さはかけらもなかった。すぐに瞳を伏せ、しばらく躊躇ったあとあきらめたようにため息をついた。
 遠坂の両手がゆっくりと下ろされていく。自分の大事な場所をあらわにした遠坂は、顔を横にむけ唇をつぐんだ。
 いつもよりもほんの少しだけ素直な遠坂。

 てらてらと濡れひかるそこ。
 俺はその部分をじっと見つめた。
 奇麗なピンク色の肉壁。あまり濃くはない黒い茂み。俺のものを、俺のものだけを受け入れるために蜜をあふれさせている遠坂の秘唇。
 少しずつ、愛液がおくから湧き出してきている。

「見られているだけなのに……感じてるのか、遠坂?」

 遠坂はこたえなかった。無視するように顔を背けている。でも、閉じられた唇から熱い吐息がときおり漏れこぼれていた。
 それでじゅうぶん。それがなによりの答え。

 俺は右手を遠坂の太股に這わせる。
「……ん」
 かすかなつぶやき。
 俺の指はそのまま濡れ光るその部分へと滑り落ちていった。

 しっとりと濡れた蜜口。
 割れ目をなぞるようにゆっくりと上下に動かし、
「んぁっ……」
 つぷつぷと小さな音を残しながら俺の指が吸い込まれていった。

「ん……あいかわらずきつくて」
 なかで円を描くようにまわしながら指を出し入れする。
「それに……あったかい」
 絡みついてくる肉壁が俺の指を暖める。ざわざわと蠢きながらよりおくへと引きずり込もうとしてきていた。

「あ、遠坂。おくからどんどんあふれてきてるぞ」
「やぁっ、言わないでよ……」
「いやでも、ほんとのことだし」

 わざと遠坂の羞恥心をかきたてるような言葉を並べる。こうすれば遠坂が感じてくれるということがわかったから。

「ほら、聞こえるだろ、この音。ぴちゃぴちゃ鳴ってる」
「だ、だまりなさいっ」

 でもその言葉と同時に、痛いほど俺の指を締めつけてくる遠坂。
 遠坂の可愛がり方が少しずつわかってきたような気がする。

 指を引き抜く。ちゅぷっという音が鳴り響いた。その音が恥ずかしかったのか、それとも愛撫がなくなったのがさびしいのか、遠坂がうつむいた。
 俺は体をまえに倒して蜜のあふれているそこに顔を近づける。

「え? やっ、士郎っ! ちょっ、なにをっ!」

 なにかいやな予感を感じたらしい遠坂が制止するが、俺はその行為をやめる気はない。
 顔を近づけ、たっぷりの液体にまみれたそこにキスをする。

「んぁっ……! ば、馬鹿、そんなところ……んっ、やめてよ」

 気にせずにキスを続け、さらには、ずずずっ、と音をたてながらねっとりとした蜜をすすった。

「おいしい……遠坂のここ」
「な、ちょっ、きゃぅっ! ば、やめ、んっくぅ……し、んじられない、んっ!」

 ずるずると蜜を飲み込むたびに遠坂が鳴き声をあげる。絶え間なく体が震えつづけ、脚先がピーンとつっぱる。両手が白いシーツをつかみあげベッドの上をしわくちゃにした。

「ん……」
 俺は舌を温かなその場所へと侵入させた。

「ひあぁ――っ! な、へんな……かんじ、んぁ……っ!」
 ビクンと大きく遠坂の体が跳ねた。俺は気にせずにさらにおくへと舌を差し込む。締めつけようとする肉壁をはねのけながら、ぴちゃぴちゃと音をたてながら舌を躍らせた。
「やっ! し、ろう……、やだっ、んっ、んっ、ふぁっ……あぅっ!」

 俺の舌の動きに素直に反応してくれる遠坂。普段の彼女とはまったく違う艶やかな声で鳴きながら俺に応えてくれる。
 遠坂の鳴き声と甘い蜜を存分にたんのうした俺はゆっくりと顔を離す。蜜壷から引き抜いた舌にはべっとりと遠坂の蜜が滴っていた。すうっと糸を引いている。俺は名残おしげに遠坂の秘唇を最後にひと舐めした。
「ひぁん……っ!」
 意表をつかれたのか、かわいらしい声が遠坂の唇から漏れた。

 遠坂から離れた俺はズボンを脱ぎ捨てる。ズボンのなかで痛いほどに膨張していた俺のそれは、ようやく開放されたのを喜ぶようにそびえたっていた。
 俺にすべてをさらけ出し、荒い息をついている遠坂を見下ろす。
 もう駄目だ。もう我慢できない。
 遠坂の脚の間に自分の体を割り込ませた。

「あ……」
 なにをされるか悟ったのか遠坂がこちらを見た。
「……いいか?」
 彼女の腰に手をやりそう尋ねる。俺の物はすぐにでも遠坂とひとつになりたがっていた。
 遠坂は俺を見つめたまま、静かにこくんとうなずいてくれた。



「あ、あぁあっ……、んっ、あぁ……っ!」
 俺の物が遠坂の中に消えていく。
 熱い。熱い泥濘の中をかき分け進んでいく。
「くっ……!」
 いつもよりはるかにきつく、はるかに気持ち良い。しびれるような快感が俺を襲ってきた。

「し、ろうっ、い、つもより、んっ、あぅっ! ふ、かい……っ!」
 でも、それはどうやら遠坂のほうも一緒だったみたいだ。いや、遠坂のほうがより強い快感を味わっているらしい。体の震えとともに彼女の中が急激な収縮を見せる。
「うっ、遠坂も、いつもより……っ」
 ぐっと歯をかみ締める。言葉を発するとそれと同時に放出してしまいそうだ。絡みついてくる肉壁になんとか対抗しながら最奥まで突きこむ。

「ふあぁぁ――っ!!」

 子宮を突いた感覚。遠坂のあえぎ声が響きわたった。
 遠坂の体で一番深いところ。俺でしかたどり着けない場所。そこに自分の物を押し込んだまま、俺はなんとか呼吸を整える。

「…………ふぅ」
 快感は断続的に襲ってくるものの、うごきを止めているおかげで我慢できる範囲のものですんだ。
 心と体を落ち着けさせて、自分が組みしいている少女を見やる。
 彼女のほうはそれではすまなかったようだ。白い肌を紅潮させて、はぁはぁ、と荒い息をついていた。やっぱり今日の遠坂はひどく敏感になっている。
 瞳がうっすらと涙で濡れ、ときおり体を震わせながら快感を噛みしめている遠坂を見ていると、じっと動かずにいることが我慢できなくなってきた。

「動くぞ、遠坂」
 遠坂の腰をしっかりとつかんで律動しようとすると、
「ま、待って!」
 あわてて遠坂が俺の腕をおさえてきた。

「どうしたんだ?」
「あ、もうちょっと……んっ、も、もうちょっと、待って……」
 途切れ途切れでなんとか言ってくる。

「いま、うごかれたら……お、かしく、んっ、なっちゃいそうで……」
 つまり、いま俺に攻められたらすぐにでも達してしまうのでもうちょっと待ってくれと、そう遠坂はおねがいしているのだ。

 でもごめん、遠坂。
 もう俺のほうが我慢できない。
 それにさっきも言ったとおり、今日だけは遠坂の意見を無視させてもらう。
 だから俺は、
「いやだ」
 そう答えて腰の律動を開始した。


「くぅっあっ! し、士郎っ! や、やめ、んあぁ――っ!」

 腰をまわすように動かしながら遠坂を突き続ける。先端が最奥に突きこまれるたびに遠坂は鳴いた。

「遠坂の感じている声、かわいいよ」
「うっ……ば、ばかぁっ! 駄目だっていってるのに……んっ、んっ、やぁ……もう、イ……っちゃぅ」

 蠢動する肉壁から遠坂の限界が近いことを悟った。でも手を緩めない。だって、
「イッていいぞ。遠坂がイクときの顔、俺に見せてくれ」
「そ、そんなこと……んあっ! やだっ、士郎……も、もう、だめ……んっ、はぁっ、はっ、あ、あぁ……い、やあぁぁあぁ――――っっ!!」

 甲高い叫びとともに遠坂の体が反り返る。のどをさらし、髪を振り乱し、あられもない姿で鳴き叫ぶ。体の先から先までが瞬時に硬直して、俺を搾り取ろうと柔らかな肉壁がざわざわと蠢動する。
「くっ――!」
 背筋から這いのぼってくる快感に俺は耐えた。耐えながら、普段の姿からは想像もつかないような遠坂の痴態に魅入っていた。
 小刻みに震わせ極限まで張りつめた体が、ふっ、と糸の切れた蛸のように力なく落下する。シーツを乱しながら柔らかなベッドに沈み込む遠坂。汗がにじんだその頬を、俺は優しくなでてやった。

「んっあ、し、ろう……」
 中に埋め込まれたものが引き抜かれる。その感覚に、遠坂は静かに俺の名を呼んだ。瞳を開け、俺を見る。

「士郎……」
 また俺の名を呼ぶ。
 それにこたえるように俺は彼女に口づけた。

「ん……」
 唇を合わせ、舌を絡める。いつもより激しい唇の重なり。ぴちゃぴちゃと聞こえる水の音。

「遠坂」
 今度は俺が彼女の名を呼ぶ。

「……ん……なに……?」
 まどろみの中から遠坂が答えた。
「いや、その……」

 自分の下半身を見る。
「俺、まだイッてないんだけど……」
「え?」
 俺の物ははじめと同様、いや、それ以上に凶悪なものとなってそこにそびえ立っていた。

「あ……ごめんなさい」
 そう言ってゆっくりと体を起こした。俺の物にちらっと視線をやってすぐにそらしたあと、
「え、っと……どうしようか? その……このあいだみたいに、口でする?」
「……いや、今日はそれよりも……」

 数日前にやってもらった行為にちょっとだけ誘惑されそうになったものの、なんとかそれを断ち切った。最後は一緒にいきたいから、今夜は。

「……遠坂。後ろを向いて、四つん這いになってくれ」
「え、あ……うん」

 なにをされるかわかったはずだが、遠坂は素直にうなずいた。四つん這いになりお尻を俺のほうに向ける。

「もうすこし、お尻あげて」
「……はい」

 遠坂のお尻がゆっくりと上がり、逆に顔をベッドにうずめる。
 目の前に差し出されたそれに俺は手を這わせた。
「ん……」
 ピクンと小さく体を震わせた遠坂。ひざ立ちになった俺は遠坂のその部分に狙いを定める。くちゅっという音とともにわずかに重なる俺と遠坂。

「いくぞ……」
 俺のその言葉に、遠坂は黙ってうなずいた。



「んあぁぁっ! 士郎っ、士郎っ!」
 俺が腰を突き出すたびに遠坂がくるったように俺の名を呼ぶ。奇麗な黒い髪が空中に舞い、俺はその美しいものを汚すような行為に没頭した。
 腰を突き入れる。遠坂の中の天井部分を亀頭でこすりあげた。

「ひあぁっ!」

 がくんと揺れる遠坂の体。この場所は遠坂の弱点のひとつだ。
 単純な律動をくりかえしながら、ときおり思い出したかのようにそこを攻めてやる。

「ふあっ! んっん、んっ、あぁ……ひあぁ……っ!」

 遠坂はそのたびに淫声をはりあげた。面白いように俺の動きにこたえてくれる。
 だが俺とて余裕があるわけじゃない。ひっきりなしに絡みついてくる柔らかな肉壁、そして耳から入り込んでくる愛しい女の切なげな声、それによって俺の限界も近づいてきていた。

「くっ、遠坂っ!」
「あぁっ、士郎、士郎――っ!!」

 お互いの名をただ馬鹿みたいに呼びあう。
 瞬間。
 遠坂の体が限界まで反りかえり、突き入れている俺の物をぎゅっと締めつけてきた。

「―――っ!」
 俺は遠坂の子宮を押しつぶすぐらいの勢いで自分の物を突き刺した。そしてそこですべてを解き放つ。遠坂のお尻と俺の腰。完全に密着した状態で俺は精を放出した。

「あぁ、熱い、士郎のが……んっ、なかに……」
 体内に注ぎこまれる精液を遠坂はうっとりとした表情で受け入れた。
 俺は崩れ落ちる遠坂の上に覆いかぶさり、顔をこちらに向けさせて唇を奪う。
「ん……士郎……」
「遠坂……」
 満足感と倦怠感に包まれつつ、俺たちはただ静かに口づけを交わしていた。





「はあぁ…………いいお湯だなあ……」
「……なにのんきなこと言ってんのよ、もう」

 あの激しい情事のあと、その疲れとか汗とか他にもいろいろ体にこびりついたものを奇麗に洗い流すべく、俺たちは風呂場に来ていた。
 このホテルにはシャワーだけでなくちょっと大き目のお風呂もついていた。しかもジェットバス。ボタンを押すと泡が出てくるというあれだ。
 でまあ、せっかくジェットバスがあるんだし、高いお金も払っているんだから使わなきゃ損だろうということで入ることにした。
 そのとき別々に入るのもあれだからと説得して、というかぼうっとしていた遠坂を勝手に抱きかかえて、こうやって二人で一緒にお風呂に入ることにしたわけだ。


「あんなにたくさん中に出して。そ、その、妊娠とかしたらどうすんのよ」

 正気に戻った遠坂にまず最初に怒られたことがこれだった。よっぽど中に出されたことが不服なのか、さっきからそればかり繰りかえしている。
 まあたしかに俺も遠坂の意思を確認しなかったから悪いのかもしれないけど、それについて別に一言もなかったのだし、そもそも嫌がっているようにも見えなかったのだからそこまで怒ることもないんじゃないかと思うわけで。
 それに、もしかりに妊娠などをしたら、
「責任取るよ。勿論」
 俺はそうはっきりと答えた。

「―――っ」
 遠坂は頬を紅潮させた。湯船につかりすぎたというからというわけではなさそう。怒っているのか照れているのか判然としない表情で、
「……ばか」
 そうつぶやいて丸くなった。

 ちなみに、いま俺と遠坂はいっしょに湯船につかっているわけなのだが、遠坂は背中を向けた状態で俺のひざの上に座っている。つまり俺に抱きかかえられた状態。そんな状態で怒っていてもちっとも怖くない。それどころか逆に可愛い。
「遠坂」
 俺は背中から彼女を抱きしめる。俺の胸と遠坂の背中がぴったりとくっつく。

「えっ、ちょっと……なに?」
 びっくりしたように俺の腕の中から逃げ出そうとするが、勿論そんなことはさせない。柔らかい体を抱き寄せる。そのままおとなしくなるまで抱きしめていた。
「んっ……士郎……」
 遠坂が俺の腕の中で安らぎにも似た声をあげる。

 俺の心の中にようやくおとずれた安堵の気持ち。失いかけた宝物を再び手元に引き寄せることが出来た。見失わずにすんだ。遠坂を抱きしめながらそう思う。

「なあ、遠坂。また……俺の――俺たちの家に帰ってきてくれるよな」

 確認。
 大事な、大事な確認。

 遠坂は俺の胸にすっと体をもたせかけた。

「……あたりまえでしょ。士郎みたいな半人前、放っておけるわけないじゃない」

 なんというか、遠坂らしい返答。俺と遠坂の関係が変わらずそこにある。それが嬉しかった。

「明日からはこれまで以上に厳しくするわよ。やらなきゃいけないことはそれこそ山のようにあるんだから。覚悟してなさい」
「……ああ」

 わかってるよ。
 これから俺は、自分の決めた「正義の味方」にならなきゃいけない。自分の一番近くにいる人たちを幸せにしなきゃいけない。
 自分のそばにいる人たちを幸せにすること。それはもしかしたら見ず知らずの人たちを幸せにすることよりはるかに難しいことかもしれない。
 相手だけを幸せにすればいいというわけではなく、相手が、自分が、皆が揃って幸せにならなければいけない。なにしろ、俺の周りにいる人たちは揃いも揃って優しすぎる人たちばかりだから。自分を犠牲にしても相手を幸せにしようとする人たちばかりだから。

「大変だよな……」
「そうよ、大変よ」

 俺の何気ない一言に遠坂がすぐさま反応した。

「でも、一度決めたのなら最後までやり遂げなさい。最後まで歩き続けなさい」

 わたしも一緒に行ってあげるから……

 言葉ではなく、俺の腕をつかむ握り締める手から、そんな遠坂の心が伝わってきたような気がした。

「ああ―――わかってる、遠坂」

 だからそう答えて、俺と遠坂はその思いとともに唇を重ねた。




 いろんな思いと、いろんな心と、ひとつの決断を胸にして、今日というこの長い長い一日がようやく終わりを迎えた。



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あとがき

ようやく次が最終話となります。
長かったような短かったような。