東塩尻信号場
中央本線 昭和14年開業:昭和58年本線ルート変更により消滅
岡谷から塩尻に向けて、中央本線が大きく南に迂回していた(辰野回り)時代、
単線区間の輸送力増強のために、サミットの善知鳥トンネルの出口に設置された、
峠の折り返し型信号場。
昭和40年の中央東線電化以降も長く存続したが、
昭和58年7月、約6kmの塩嶺トンネルの完成により、本線ルートが、
みどり湖経由に移行、同区間が支線扱いとなると、
交通量の激減により列車交換・待避の必要性がなくなり、
同年12月に廃止された。
このスイッチバック、発着線・引き上げ線各1本ずつという極シンプルな構造で
あったが、本線に対する位置関係がやや特殊と言えた。
というのは、塩尻から善知鳥峠に向かっていくと考えた場合、
基本的には右側にある山肌に沿って線路は上っていくわけである。
こうした場合、スイッチバックは、本線に対して右上から左下に向かって
敷設されるのが自然。
それが、東塩尻の場合は、全く逆に、左上から右下に向かって構内線が走っている。
付近の地形が、たまたま、そうさせたということだろうが、
通常の構造でも十分、線路を敷けたロケーションを考えるに、
この信号場の設計者の、腕の見せ所だったのかもしれない。
(※上記配線の謎に関して、重要証言あり。後述)。
*上段2枚は、長野県内の新旧鉄道写真が満載された、
Office Nakajimaさんの「信州 鉄道写真の旅」
より転載させていただいた、現役時代のスイッチバックの姿。
115系の各駅停車が発着線で待避する脇を、
国鉄色時代の183系特急「あずさ」が通過する。
なお、山小屋風の木製看板には、「東塩尻駅」と書かれている。
*中段は、平成9年11月撮影。
引き上げ線側の線路は、ほとんど撤去されているが、
発着線側には、ホームの跡と共に、
まだかなりの線路が残っていることが確認された。
*下段は、中段と同日、D51498とEF5861でプッシュプル運転された、
「SL・EL善知鳥号」の、信号場跡通過風景。
架線柱の幅が広くなっているのが、
スイッチバック時代の名残である。
※スイッチバック配線の謎に関する新証言
「東塩尻信号場のイレギュラーな構内配線」に関して、
長野県在住の「XEL」さんから貴重な報告が得られた。
筆者としては、単に地形の問題であろうと判断したが、
それ以上に、当信号場の役割を反映したものであったようだ。
以下、感謝の気持ちと共に、その一部を掲載させていただく。
「さて、貴ページに収録されている中央本線旧東塩尻信号場の変則的なレイアウトについて、
気が付いた点がありますので情報として提供させていただきます。
東塩尻信号場跡地周辺は江戸時代から石灰石の産地として有名で
現在でも採石業者が営業を続けております。
旧塩尻駅構内(現大門)に隣接する昭和電工渇鱒K工場は、
この石灰石を加工し農業用の土壌改良剤を製造していました。
つまり東塩尻信号場の設置は区間輸送力増強という理由の他に、
現地で産出される石灰石を塩尻まで搬出するという目的もあったわけです。
山側発着線が上り方向左側ではなく右側に設置されたのはそのためで、
当時は発着線プラットホーム付近に積み出し用設備があったとのことです。
また、発着線に短い引き込み線が付属しているのも貨物輸送の名残で、
引き込み線には牽引車両が待機し、東京駅のブルトレ運用のように
到着した車両を引き出していたと考えられます。
以上は塩尻客貨車区に勤務していた祖父から生前聞いた話が根拠です」
XEL氏は、「決定的な証拠はないが、概ね、間違いない」としている。
まず、その通りであろう。
これでようやく、引き上げ線と本線を挟んで存在する、“怪しい”引き込み線の謎も、
説明が付く。
それにしても、スイッチバック研究ひとつと言えども、
その地の歴史や産業等を総合的に調査しなくてはならないことを痛感した次第である。
●三十七年前の東塩尻信号場
三重県の西口幸一氏が「中在家」「潮沢」に続いて、
昭和40年4月に撮られた「東塩尻」の写真を提供してくださった。
同年7月1日松本電化を間近に控えて、架線も張り終わった構内に、
中央東線最後のSLのドラフト音が響き渡っていた頃である。
*707Dと410Dの交換風景。
キハ58系の急行編成は、その後も長期間、当区間で見られたが、
電化後の主役は、165系急行型電車、
そして181系特急型電車へと変わっていく。
*貨434レが、塩尻側のトンネルから姿を現したところ。
右上がスイッチバックの引き上げ線である。
*384号機を先頭に、背中合わせのD51重連牽引の貨461レが、
引き上げ線から発着線に向けてバックを開始したところ。
*候補機付きの貨物列車(468レ)が、善知鳥トンネルに向けて発車。
画面左に向けてカーブを描いて延びているのが、発着線である。
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