失敗山日記 T−1
 初めてのビバーク、熊 in 奥多摩 天祖山(99116) 
  ―― 山で非論理的になるのは私だけ? (ブドウ糖の不足?)
by 山へ行っちゃあいけない男(登山不適格者?)
その5

 どのくらい経ったのでしょう。目が覚めました。睡眠剤を飲んですぐに寝入っていたようです。
 寝る前の予想通り、蝋燭の灯も消え、真っ暗闇。
「まだ2時頃かな。夜明けまで長いだろうな。」
と、ヘッドランプを手繰り寄せ、スイッチを入れました。
 ヘッドランプの光で時計を見てびっくり。もう5時です。6時間もぐっすりと眠っていたのです。睡眠剤サマサマです。この時刻なら一安心。のんびりと夜明けを待ちます。

 6時過ぎに少し明るくなりましたが、路を探すのに充分な明るさが来るまで、荷造りをしながら はやる気持ちを抑えます。昨日の声の主(人間のほう)はまだ現れません。昨日の光の方向に声をかけますが、反応はありません。今私が探すよりも、里に出て人に知らせるほうが良さそうです。

 7時、リュックを背負って歩き出しました。少々抱いていた不安とは裏腹に、10歩も進まぬうちに、木に付いた目印のテープが目につきました。結構間違えやすい所なのでしょう、テープは何本もあり、尾根から右への降り口を示しています。
 目印のままに尾根を降り、しばらく歩くうちに、昨日この踏み跡を往復したことがやっと蘇りました。尾根で路を失ったのではなく、尾根に戻ったのだということが思い出されたのです。記憶も正常な順序に戻ってきたようです。
 もう明るいので大丈夫ですが、昨日の暗さだったら間違って谷に向かって行きかねない所もありました。ビバークしたのは正解だったのかも知れません。

 下ること30分で林道に出ました。さらに林道を4、50分。バス停の自動販売機で缶ジュースを2本飲み干し、やっと人心地(ひとごこち)つきました。
 この後すぐ日原の部落に向かい、派出所を覗きましたが無人。一昨日から停めておいた車に乗り、奥多摩駅に急ぎました。

 駅前の山岳遭難を扱う交番に行き、昨夜の光のことを話しました。地図上で私のビバーク場所を示したところ、谷を挟んで向かい側は一般者通行禁止の林道があり、林道工事の仮説事務所のような所もその辺りにあるとのこと。
 確かに色つきの5万分の1でみると、建物の印はないにしても、谷を挟んで昨日の光の方向に林道があるのがはっきり分かります。後で問い合わせてみるとのことでしたが、あの光は事務所の人かトラックのテールランプだったようです。
 昨日使っていた2、5万分の1でも、少し注意して見ていれば林道は見つかるのですから、人声や光にあれほど惑わされずに済んだのかもしれません。
 尤も、惑わされたからこそ、分かり難い路を谷に迷い込む危険を冒さずにすんだわけですし、貴重なビバークも経験できたわけで・・・。
 何よりも安易な計画変更――今でもよくやりますが――と、ブドウ糖のもとになる物をあまり摂取しなかったことを反省すべきでしょう。ポケットに干しブドウとクルミを入れ、一休みするときはなるべく口に物を入れるようになったのはこの頃からでしょうか。

 
*連載の読み物のように、1日1ページずつ読んでいただくのが私の希望です。