わたしも街道をゆく/1993年/北海道へ
わたしも街道をゆく 1993年 北海道へ


1993年7月15日 富良野から釧路へ 本日の走行距離301Km

ああ北の国から

 今朝もまだ風が強い。細かな雨もぱらぱらと降ってきた。ああ、今日もまたカッパを着るのだろうか。

 富良野といえば言わずと知れたラベンダー畑である。Sは「こんな天気で行ったって面白くない」というが、冗談じゃないここまで来たら絶対行くんだと強硬に押し切った上に道案内までさせる。
ラベンダー  ラベンダーブームの発祥の地だというファーム富田のラベンダー園へ。…う〜んなんというか、すごく狭い畑にラベンダー、この時期でもまだ早いのか、満開近いのはその3分の1程度、あとはうっすらと紫のつぼみといった状態だ。雨粒も大きくなってきた。「もういいだろ」というS、え〜こんだけなの、ラベンダー畑って。写真と違う! それにこんなお土産屋だらけのところだなんて。そこへ通りかかった男の人、おはようございまぁすと爽やかに挨拶をしてくれる。ファーム富田の人だった。

 もう少しだけラベンダー畑を探して走るが、Sは機嫌が悪くなってくるしもうどうでもよくなってきた。いいんだ今度富良野にはひとりで来ようっと…。
 丘の上で農作業をする人を見ながらカッパを着る。

 富良野といえばもうひとつ、「北の国から」である。実はあのドラマを私たちは2人とも最新のもの以外は見た事がなかったのだが、北海道に来る前にレンタルビデオを借りて勉強までして、富良野は麓郷に備えているのだ。といっても時間がなくて12話くらいまでしか見られなかったんだけど。
 なんでも富良野の駅前では朝から晩まで「北の国から」のテーマ曲が流れているらしいというので、わざわざ行ってみたが、そんなものは聞こえなかった。

 さてここから麓郷までが大変である。何度も北海道に来ているSも麓郷は初めてだし、私は地図があっても道に迷う人間だ。詳しい地図だってないのである。
 道を訊ね、ダートを越えると、なんとなく「北の国から」っぽくなってきたような気がする。このあたりが麓郷という土地だということは間違いない。ぼろっちい小屋はどれも全部五郎さんの家に見える。小学校の横を通ったけどあれって純と蛍の通っていた小学校じゃないの? でもどこかに麓郷の森というのがあってそこには本物の五郎さんの家があるはずだ。雨の中、走り続ける。
 布部という隣の集落に入り、諦めかけた頃、「麓郷の森」という看板を見つけた。やったぁよかったねと看板に沿って行くと、駐車場に観光バス、そうここも観光地だったのだ。何の下調べもしないからこういう事になるのだ。

 木立の中には点々とログハウス、お土産屋さんもある。その先にはたしかに五郎さんの小屋もあったのだが、ビデオで見たのと違う…。12話以降も見ればよかったのだが、あの最初の小屋は焼けちゃうという設定なのでもうここにはないらしい。そういえば焼けるシーンはよく懐かしのドラマなどの特番で見るなぁ。見回せば回りを歩いているのはきれいな格好の人たちばかり、なんか場違いだよね、と麓郷の森を後にする。
 国道に向かっている途中、反対車線に停車している観光バスのガイドさんがなにかを指してしゃべっているのが見えた。その指の先を見ると、あ! 見たことがあるような気がする、あれがもしや昔の五郎さんの家? そうかこんなところにあったのか。とりあえず、見られてよかった。

 R38を帯広に向かって走っている。狩勝峠に近づくにつれ、風も雨も強くなる。そして霧、視界は20mくらいだろうか。強風に飛ばされそうで真っ直ぐ走れない。ここでもしコケたらどうなるだろう。峠の気温は11度、寒い。寒すぎる。今が7月だなんて信じられない。

 新得町まで降りてきてやっと息がつける。雨は相変わらずだが霧はもう晴れ、風も止んできた。ホクレンのガソリンスタンドがあったので給油をする。
 ホクレンでは夏になるとバイクツーリングをしてる人たちを対象に、いろいろとキャンペーンをしている。スタンプラリーや旗やジュースや地図をくれたりするのだが、ここでは安全運転宣言書というのに名前を書かされた。安全運転ねぇ…たしかにスピードは出さないで走っているが、トロイのと安全とはちょっと違うからなぁと思いつつ、書く。正直者の私は歳までサバ読まず正直に書いてしまい、なんとなく後悔した。
 雨が上がり路面が乾いていたのも束の間、帯広に近づくとまた雨が強くなってきた。帯広といえば六花亭である。あれほど行って食べたかった、とてもおいしいらしい六花亭のアップルパイだが、全然行く気にならない。いつかスカートでもはいて小ぎれいな格好の時に行こうっと。

 帯広を過ぎてしばらくしたあたりで、お昼にする。またもやラーメンである。店の前に小さな駐車場がついているような、どこにでもあるラーメン屋なのだが、もうこれがおいしいのだ。絶対にラーメン横町よりおいしいと思う。だが店の名前を覚えていないのでもう2度と行けないかもしれない。
 私にはアップルパイよりラーメンの方があっているようだ。

 音別町でSが給油のためまたホクレンへ。スタンドの隅の方で待っているとSがカッパを脱ぎ始めた。また休憩するの? 聞くと中でコーヒーを入れてくれるという。私もカッパを脱いで室内に入ると、なんとストーブがついている。あったかい…両手をかざす私たち。しかしなんだって7月にストーブに向かって、しあわせぇ、などとため息をつかなくてはいけないのだろう。
 夏休み、ストーブに熱いコーヒー、本当にシアワセを感じてしまったのだった。

 気がつけば右手に海。まるでオホーツク海のような荒れた海だ。間もなく釧路市に入る。

釧路の夜

 駅からすぐのホテル、S釧路は、ボーリング場の上にあった。駐車場はホテルからほんの少し離れたところだが、屋根もなく夜になると管理人もいなくなるというので、Sはそんなところでもし自分の大事なバイクになにかあったら、と心配そうである。街を歩く高校生が全部ヤンキーに見えるとまで言い出す。たしかに高校生たちは流行なのか、ほとんどみんながだぶだぶのズボンにやけに短い学ランを着ている。かっこいいとは思えないけど…。
 部屋に入ると、なかなか広くていい感じだ。これでツインだなんて、と喜びながら何気なくドアに張ってある非常口の案内を見ると、あれ、この部屋デラックスツインになっている。いったいこれはどういうことなのだ。私は札幌でもシングルがセミダブルになっていてちょっとむっとしたのに、また? でも料金表を見るとツインの料金だったのでひと安心。
 広いのをいい事に部屋の中にテントやカッパを干しまくる

 シャワーを浴びてから夜の釧路に繰り出す。お土産を買いに和商市場に行くがもう閉店の時間、明日また行く事にする。
 釧路といえば海産物、今宵は寿司スペシャルである。でも安くておいしいお寿司屋さんなんてどこにあるのだろう。寿司屋ほど当たり外れがあるものもない。本屋さんでガイドブックを立ち読みしてもピンと来ない。こういう時に頼りになるのは、そう、地元の事ならなんでも知っているタクシーの運転手さんだ。
 さっそく乗り込み「あのー、安くておいしいお寿司屋さんに行きたいんですけど…」と言うと、運転手さんもよく行くという居酒屋さんを教えてくれる。もちろんお寿司もあるという。聞いてみるもんだ。

 その居酒屋さんは「案山子」、栄町公園の近くである。
 カウンターに座ると目の前のケースの中にはおいしそうな魚や貝がいっぱい。まずはビールと特上寿司を注文。これが安い、なんと特上で1800円なのである。もちろんおいしいことこのうえない。いくつかお刺身もたのむ。メナシというの初めてだったが白身でおいしい。イカルイベも初めての経験、内臓ごと凍らせたのを輪切りにしていただく。内臓の部分がちょっぴりクセがあるが(アンキモに似ているかな)私が酒飲みのせいかすっかり気にいってしまった。どれもこれもおいしい上に2人でたらふく飲み喰いして1万円でお釣りが来るというのだから嬉しくなってしまう。ああ、しあわせな釧路の夜。
 帰る途中でパチンコ屋さんへ。各自1000円の予算はあっという間に消えてしまった。

 明日は釧路湿原、晴れますように。