わたしも街道をゆく/1993年/北海道へ
わたしも街道をゆく 1993年 北海道へ


1993年7月4日 函館から日高へ 本日の走行距離430Km

名産品はトドとホッケ

 眼を覚ましたのは5時半頃、毎朝早起きで我ながら感心する。昨日ちょっぴり雲行きが怪しかったから天気が心配だ。カーテンを開けて窓の外を見ると…晴れ! やったぁ。青い空が眩しいほどで、いつまでも寝ているなんてもったいない、と思いながら、も一度ベッドにもぐり込む。
 のんびり準備して、ホテルを出たのはもう7時。

 R278恵山国道を走る。青い空の下ではどこも昆布干しの作業中だ。

こんぶ1 こんぶ2
海の向こうには水平線に漂う雲の上から下北半島が顔をのぞかせている。ああ、シアワセ…でもちょっと寒い。
 フェリーから見えた恵山、茶色いはげぼうずのお山が今度は麓から見上げられる、と思っていたのだが見えない。突然、霧が涌いてきたのである。うっすらと広がった霧、その隙間からは青空ものぞき日も射している。ちょっと不思議な風景だった。
 霧が晴れるとこんどは同じような看板ばかりが眼に入ってくる。「とどほっけ」がどうしたこうしたと書いてある…とど? ほっけ? いったいなんなのだろう。そうかきっとこのあたりでは、トドとホッケが名産なのだろう、うん、そうなのだ。だがそれは大きな間違いだったことすぐにわかる。「椴法華」という村の名前だったのだ。

こんぶこんぶこんぶ

 家々の向こうに海の見える道、海沿いの昆布干し場には昆布の代りに布団が干され、大漁旗が何枚も吊り下げられている。大漁旗もたまには洗濯するのだろうか。ところが家の前に大漁旗を干した家は次々にあらわれる。洗濯日が決まっているのかな。だが提灯を一緒に下げた軒先を見てやっとわかった。お祭りだ。大漁旗を飾るとは、なんて華やかなお祭りなのだろう。

大漁旗

 内浦湾の向こうに遠く見えている山々はどこだろう、あれは羊蹄山かな。
 天気のいい時期に来たのに、北海道イコール天気が悪い、という図式しか頭の中にない私、どうしてこんなにいいお天気なのだろうかと不思議になってきた。海沿いの放牧地で草を食む馬たち、まるで絵の中の風景みたい。

 鋭い山頂を持つ駒ケ岳を見ながら走り、森町からはR5に入る。八雲町あたりのコンビニでちょっと休憩。お腹が空いたので、昨日買ったトラピスチヌクッキーを食べる(←トラピストクッキー?)。こうして停まっていると日差しはまさに、冬用のジャケットを着ているなんてばかみたい。だが走り出すと寒いのである。 内浦湾沿いを北上、長万部を通過するとR37。長万部、と聞くと由利徹のギャグを思い出してしまう私はいったいなんなのだろう。

 さすがに北海道の国道はペースが早い。時速80km以上は出すまいと猛スピードの後続車にはさっさと道を譲り自分のペースで走っていた私なのだが、なぜかその時は後続車のペースでアクセルを開け続けていた。スピードランプが赤く点灯したその時(時速90kmで点灯する)、対向車線の車の列からコロコロ…と空き缶が転がって来たのだった。ひ、ひえぇ〜。空き缶はバイクのまさに眼の前を転がっていったので事なきを得たのだが…。
 きっとこれは神様のお告げ、ちょっとスピード出しすぎだよとの警告に違いない、と信じ(すっかりその気になっている)、絶対に時速80km厳守を心に誓う。ちなみにたいてい制限速度は時速50〜60kmくらいである。

 洞爺湖は行った事があるので寄らず、室蘭へ。ニチイのマークのスーパー桐屋での昼食はシーフードスパゲティ、海の幸ということで多少は北海道らしいだろうか。ついでに宿を予約する。
 私は非常に方向音痴である。道を間違えないためしはない。R37からR36への交差点、左折の標識の「札幌」という文字を見て、私札幌なんてまだ行かないんだよ、と右折する。ここが間違いの元だった。走り易い自動車専用道路を走り、室蘭の駅前を通過。渋い駅舎だなぁと感心する。そしてしばらく行くと…あれ? 国道じゃなくなった。水族館? ここで初めて道を間違えていたことに気がついたのだった。さっきの交差点まで往復で20km、間抜けである。

北海道は霧の中

 気を取り直して走る。苫小牧から鵡川へ、R235はサラブレッドの道。この道は前回も走っているのだが、その時は夜、暗闇の中。緑の中で遊ぶ馬たちをどうしても見たくてもう一度やって来たのだった。が…。
 あ、馬だ馬だぁ、と喜んだのも一瞬の事、あっという間に霧が視界を占領する。もう前方もほとんど見えない。カーブもすぐ手前まで行かないとわからない。スピードダウンしないと死ぬかもしれない、と思う。なのに一体地元のドライバーたちは何を考えているのだろう。ヘッドライトを付けていないから、霧の中から突然車が現れる。バックミラーにヘッドライトが見えたと思うと、びゅんと追い抜いていく。時速100kmは出ているに違いない。こんな霧の中を走っているのもならまわりの車もこわい、その上寒いのである。悲しくなってきた。
 予定ではもう少し南まで足を延ばしてから宿泊する新冠に行こうと思っていたのだが、もう走る気がしない。この上道を間違えないように注意しながら看板を目印に、新冠YHへ到着。ああ、疲れた…。

 予約の時に「会員でぇす」とは言ったものの実は今年は更新していない。これからあと何泊YHに泊まるかわからないが、とりあえず更新しておく。
 まずはお風呂に入ってから食事である。宿泊客は同室の奈良の女の子と、京都のご夫婦、計4人。テーブルには土鍋が2つセットされている。メニューはなんとラム肉のしゃぶしゃぶ。4人でおしゃべりしながら箸を動かす。
 ジンギスカンでしか食べた事のなかったラム肉、最初のうちは、うんなかなか、癖もないなぁと思っていたのだが、たくさん食べるにつれて臭みが強くなってきた。ちゃんとアクもすくっていたのだが食べ終わってからご夫婦の土鍋の中を見てびっくり、もう一度しゃぶしゃぶが出来るくらいきれいだ。それに比べてこちらのは、どろどろ。これじゃあまずくなるはずである。
 8時頃から奈良のHさんと一緒に談話室へ。私は今までに40泊近くはYHに泊まった事があるのだが、ミーティング(歓談みたいのも)ってのに出たことは確か2回くらいしかないのだ。だから談話室なんてほとんどどこでも入った事がない。だから私にとっては珍しいこと、ちょっと緊張。
 コーヒーを飲みながらご夫婦はビデオで「優駿」を見、私は連泊のHさんにこのあたりの事など聞いていると、そのうちペアレント氏がいらして、いろいろなお話を伺う。ずいぶんとお馬(競馬もね)が好きなようで、馬の話には熱が入る。また、かなりぼろかったこのYHをほとんどご自分の手で改築したという。なかなかすてきなログハウス風、この談話室の電灯の笠なんかバケツで、それがまたけっこうマッチしているのだ。その後10時半頃まで談話室でおしゃべりをし、部屋に戻ってからもHさんと大騒ぎ、ああ笑いすぎて疲れた。