わたしも街道をゆく/1992年/近畿へ
わたしも街道をゆく 1992年 近畿へ


1992年7月23日 京都市内から伊根へ 本日の走行距離249Km

ひんやり貴船神社

 同室の人たちのおしゃべりで目が覚めた。夕べも遅くまでしゃべってたし(つまりうるさかったというか)今朝は6時前からしゃべってるし、元気だなあ。
 声が成田三樹夫様に似ているペアレントさん(!)に見送られ、あっという間に京の都ともお別れである。

貴船神社  朝一番の貴船神社。細い貴船川に沿ったひんやりとすずしい道を行く。赤い灯篭に挟まれた石段を登ると参拝客の誰もいない境内はまだお掃除中だ。あらおじゃまかしらと早々に引き揚げてしまった。

 昨日と同じ道をちょっと走って(昨日のことは寝てたから覚えてない…)鞍馬寺へ。後で気が付いたんだけど駐停車禁止の看板の前にバイクを停めて、いざ鞍馬のお山へ。

鞍馬天狗はどこだ

 山門のすぐ脇には幼稚園。入口に童形六体地蔵尊というお地蔵さんがいらっしゃる。お母さんやお父さんに手をひかれて通園してきた園児たちが、お地蔵さんの前で手を合わせている。ほほえましいね。

おじそうさま 鞍馬山

 自分の足で登るべきなんだと思う。そうして初めて見えてくるものもあると思う。でもごめんなさい鞍馬の尊天さま、私には根性も体力も時間もないのだ。ケーブルカーに乗ってしまう。がたごとと山肌を登っていき、着いたのは多宝塔。ここから本殿までは自分の足で歩くしかないのである。ほんの少しの距離なのに、きついなあ。

 やっと到着、本殿金堂。まわりには合歓の花がいっぱいだ。奥の院もあるがそれはずっと山の上。金星から天降ったという魔王尊が祀ってあるそうな、まあ機会があったら行ってみたい気もする。宗教としては鞍馬弘教といって昭和になってからの立教開宗だという。もともとは天台宗、たしかにちょっと密教っぽい感じはある。
 下りは徒歩。清少納言が近くて遠いもの、といった九十九折り参道を下りてゆく。下りといっても疲れるなあ。のんびり、高くそびえた杉の木々を見上げながら歩く。倒幕の策を練っている鞍馬天狗や、修業中の牛若丸には残念ながら会えなかった。

謎の神社たち

 昨日と同じ道を逆行して京北町、R162から由良川に沿って県道を走りR27へ。今日もいいお天気で、お山も田んぼもきらきらときれい。綾部まではひたすら走ることを楽しむ。

 綾部でお昼をしっかり食べて、鬼がいるという大江山のふもとへと向かう。
 もともと伊勢神宮はここにあったんだという、元外宮豊受神社、ちょっと面白そうだ。大きな鳥居の下にVTZを置いてお参りに行ってみよう。石段を登ると参道が始まる。が、なんでこの参道、林道なの? ツチノコみたいに太い蛇はいるし、羽の黒いトンボみたいのはいる。嫌な予感を抱きつつ着いた神社には、人の気配がなかった。今偶然誰もいないのではなく、朽ち果てているといってはいいすぎかもしれないが、ここには人の気持ちがない。境内の回りには本殿(?)を囲むようにして、何々神社、という小さな祠が35個もあるのだ。なんだかすごく怖くなってきて慌ててもどる。

 この調子では、元内宮という皇大神社は一体…でも道路沿いに大きな看板が出てる。ほっとして走っていくと青空の下はたはたとはためく幟。天皇神道って書いてある。こ、これってもしかして新興宗教なのか。それでも恐る恐る階段を登っていくと、上にも幟がある。人の姿は、掃除をしている人だけ。ここも怖いよー、いそいで階段を下りてきた。宗教にいいも悪いもないんだけど(うそ、ある)、ちょっと怖かったなあ。

 気を取り直して何日ぶりかのに向かって走る。

大好きな伊根へ

 宮津から丹後半島へ。さっきからどうも眠かったんだけど、丹後半島に入ったとたんにピークを迎える。雲行きも怪しくなってきちゃったし、頭の中もボンヤリ。休憩したほうがよさそう。弥栄町の役場の前にバイクを停め、川を眺めてるふりをしながらちょっとだけ寝る。…ああなんとか元気になったみたいだ。それにしてもこんなところで眠れるなんてやんなっちゃう。

 半島を突っ切り、丹後町で海に出た。やっぱりいいねえ海は。天気の良くない丹後松島も、墨絵のように美しい。

伊根

 そして今私がいるのは、丹後半島の先端、伊根。そう、あこがれの伊根の舟屋に泊まっているのだ。ここ与謝荘はとてもきれいな民宿である。窓の向こうには舟屋の景色が広がり、眼下はもちろん海。お魚三昧の夕食に舌鼓を打ちながら夜は更けてゆく。ああもうシアワセ