わたしも街道をゆく/1992年/近畿へ
わたしも街道をゆく 1992年 近畿へ


1992年7月22日 柳本から京都市内へ 本日の走行距離151Km

謎のお宿よさようなら

 疲れていたはずなのに夕べは目が冴えちゃって全然眠れなかった。なにかがいたのかもしれない、ぞぞー。オヤジさんと、下宿生のオニイチャンに見送られて出発。またいつか来てみたいような、気もちょっとしている。

なぞのお宿

 奈良市へ戻る。今日一番の目的は、写真家入江泰吉さんが造られた(と言っていいのかな)奈良市写真美術館。わくわくしながら向かう。民家の合間にあるからわかりにくくて、やっと着いた!と思ったら閉まってるの? 今日、月曜じゃないよねえ、どうして? 呆然と立ちすくんでいると、掃除をしていたオニイチャンが、今日は写真の入れ替えで休みだよ、だって。次のはいいよー、なんて言われたってもう来れないよきっと。くやしい

 国立博物館は今日こそやってるよね。ゆっくり見ようっと。
 たくさんの仏像や発掘された瓦やいろいろな物たち、歴史はどこの土地にだってあるけれど、ここはやっぱり歴史の地元って気がしてしまう。一番圧倒されたのは、仁王像。どこのだったか忘れてしまったが、身の丈3mくらいの仁王像が、ガラスの向こうではなくて目の前に立っている。彫った刃物の跡までひとつひとつわかる。展示物を触っちゃいけないのはわかってますといいながら一瞬、触ってしまったのだ、スミマセン。でも仏師たちの熱い情熱が、手のひらに残った

万葉のお花たち

 奈良公園をもう少し奥まで進むと、万葉植物園がある。万葉集に詠まれた草花が育てられ、もちろんその歌が添えられている。おみなえしききょうわすれぐさねじばな。小さくても可憐な花たち。きっとその頃は、誰もが花を愛でる心を持っていたんだろうなあ。今、足元の小さな花に目を向ける人がどの位いるんだろうか。

おみなえしべにばな
ききょう わすれぐさ
 とてもきれいな、ピンク色の蓮が咲いている。なんと2千年前の遺跡から発掘された種を育てたんだという。なあんだかすごいよね、その生命力の強さに感動してしまう。

はす はす

 入口の横にあるお茶屋さんで、ちょっと早いけどお昼にしよう。万葉粥をいただく。趣はあるけど、お腹にたまらない。ああもうなんで私ってこうなの!と嘆きつつ、奈良の都を後にする。

もったいないけど京都市内を通過

 R24を北上、京の都へ。
 県境を越えると、道は木津川に沿って走る。まわりにつられて私もハイペース。ああ奈良と京都ってこんなに近いのか、地図を見ればもちろんそれはわかるんだけど、関東人ゆえかどうもピンと来なかった。そうかそうかと思いながらR1に合流。とたんに大渋滞! 京都市内に入るまで延々10kmは続いていたんじゃなかろうか。路肩を走っても走っても切れない車の列とこの暑さ(お日さまも暑いうえに車から放出される熱がすごいんだもん、いいなあ冷房きいてて)にぐったりしてきた。休憩しよう。ニコマートで最中アイスを食べる。ついでに宿も予約。

 車の列にまた突入。高速道路の入口を過ぎてしばらくするとやっと普通の流れになってきた。あ、東寺の塔だ。ちょうど東寺前の信号で止まる。なんでもう東寺の所にいるんだろうか。さっき奈良にいたのに今京都にいるのがまだ自分の中では理解できていないらしい、ばかだなあ。堀川通りを上がっていく。西本願寺、四条通り三条通りを渡り、二条城を過ぎ、北大路通りへ左折。大徳寺にも金閣寺にも竜安寺にも仁和寺にも寄らない。旅の目的地であって然るべき京都が、ただの通過点だなんでなんだか変な気がする。

周山街道

北山杉  仁和寺を過ぎ、R162周山街道へ。北山杉の道だ。
 ちょっとくねった道だけど、すっと伸びた道の両側の杉たちがいい匂い。涼しい風も吹いてきて、シアワセである。

 京北町の市街地に入る少し手前で、消防自動車が追い越していった。やあねえ火事なんてと思っていたら、あ目の前が火事だ。うわあ本当に燃えてる、こわいなあ。そして目の前に横たわる太いホース。嫌だなこんなの乗り越えるのなんて、後にバイクもいるしコケたりしたら恥ずかしい。緊張しつつ前輪そして後輪、あっななめに乗っちゃった、ぐらりと傾く。その時私はキャアー、なんて口走ってしまったのだ。
 後にいたバイクが、追い越していった。え、オンナノヒト。さっきのキャー、聞かれてしまったに違いない。ああ自分が腹立たしい

居眠り運転にご注意ください

なつのそら 常照皇寺
 京北町から大布施までの県道も、杉街道で気持ちいい。『街道を行く』に出てきた常照皇寺。入口までの参道の石段を登る。緑鮮やかで空気がおいしい。見上げる空は真っ青だ。周りの風景だけで思いっきり感動してお寺には入らなかった。(ホントは誰もいなかったからちょっと怖かったの)

 花脊峠を越えて京都の町中に出る道はくねくねと折れ曲がる。寝不足が効いてきた。眠い。鞍馬寺の前なんていつ通ったんだろう? はっと気が付くと反対車線を走ってたりする。危ないことこの上ない。まあそれでもなんとか無事に町まで下りてきた。 

 宿に着き(今宵はユースだ)、外に食事に出る。町のラーメン屋で、中華飯。450円なんて安いなあ。
 大学の通信教育のスクーリングに各地から来ている人たちと同室である。仕事や家庭を持ちながら勉強を続けていくのは大変ですよね。頑張ってください。