わたしも街道をゆく/1992年/近畿へ
わたしも街道をゆく 1992年 近畿へ


1992年7月15日 紀伊田辺から吉野へ 本日の走行距離200Km

真犯人は私です。

 紀伊田辺Sホテルさんごめんなさい。昨夜洗濯物を干すのに、ロープをカーテンを留めるフックに掛けてひっぱって取ってしまったうえにごはんつぶで貼ったのは私です。ばれませんようにと、ちょっとびくびくしながら出発。(時効だと言って!) すてきなホテル

今日も熊野古道めぐり

 今日も、熊野古道。富田川に沿ったR311を滝尻王子に向かっう。熊野古道の看板に沿って右折して橋を渡り、R371を行く。滝尻王子はどこかなあ、道が細くなってゆくし、滝尻という在所は曲がってすぐのはず、なのに次の在所まで来ちゃったみたいだ。昼なお暗い、木に覆われた道。もしかして間違えたのかなあ、と思いながらそれでも恐る恐る走っていると、突然目の前にが。なんの前触れもなく、小さいながらもどうどうと落ちる滝が突然目の前に現れるのが、こんなに怖いものなんて思わなかった。一瞬息が止まった

 滝さんこの道は絶対違うよね、もういいや滝尻王子なんて、熊野古道なんてどうでもいいと開き直ってR311を先へ進む。でもどうしても気になるんだR311からR371への曲がり角にあった小さい広場と屋根。どうもあれだったんじゃないかという気がする。どんどん遠ざかってはいるけど、戻ってみようか。

 …あ、こっちから行くと、大きな看板が出てるんだ、滝尻王子って。そしてもう2回も前を通ったそこが、滝尻王子だった、ああ疲れた。小さなお社と、裏手には次の王子へと向かう道が林の中に延びる、このあたりじゃまだ国道の騒音も聞こえてきて、それらしい雰囲気はないけど。

 R371を進むと、次は牛馬王子。その名前のバス停にVTZを停めて階段を登る。すぐ上にあるんじゃないの?いくら行ってもなにもない。草ぼうぼうの階段、薄暗い杉木立、枯葉で埋もれた足元で虫かなにかががさっと動いただけで飛び上がるぐらいビクッとしてるようじゃあ、熊野古道は歩けない。今来た道をバス停に戻る。
 それにしてもこんな細い道、たとえば後白河法皇の一行はどんな旅をしていたんだろう。ったくもう我侭でこっちはいい迷惑だよな、と思いながら御供をした家来たちも一人ぐらいはいたかもしれない。

日本って平等な国だなあ

カッパ  細く曲がりくねった道沿いに時おり民家が現れる。洗濯物を干すオバサン、犬に餌をやるオバサン、私なんかには想像も出来ないここでの生活ってどんななんだろう。便利で物があふれてる都会の文化なんて、自然と共に生きているここでの暮らしの中では色あせて見える。なのに選挙のポスターと、110円になった缶ジュースの値段だけは、どこにでも入ってくるんだ。道の真ん中に蓋もしてない溝があるトンネルのあるような、こんなとこにも。

 むむ硫黄臭いぞと思っていたら、やはり温泉。湯ノ峰温泉は坂道の両側に宿が並び、落ち着いた風情。浴衣でも来て散歩したいなあ。

十津川郷士のお膝元へ

 またまた熊野本宮の前を通って、R168を日本で一番広い村、十津川へ。川と、ダムに沿って走る。

 川で景色が開けているせいか、想像していたよりも空が広い。もっと山が迫り、昼間4時間ぐらいしか太陽が顔を出さないような(ちょっと大げさ)所を想像してたんだけど。

お寺の名残  さてお昼ご飯は十津川温泉のドライブインで親子丼、熱々だったけどあんましおいしくなかったのだ。そのせいじゃもちろん無いけどお腹痛くなってきた、今日の宿も予約したいしちょっと休憩。コンビニ(よろづ屋というのかもしれない)でフィルム買ってトイレを借りて、宿も取った。ひとまずホッとしてふと気がつくと、なんだろうこの山門。明治の初めには53もあったお寺、廃仏毀釈で全て壊してしまい、一寺も再建されていないんだって。この山門は、十津川の村に残った唯一のお寺の建物だそうな。神武天皇の東征から始まる皇室との関係を自負しているといったって、やることが極端だ。このエネルギーが、たとえば十津川郷士を支えていたんだろうなあ。

 そのあたりのお勉強の為に歴史民族資料館へ。木と共に生きていた人々の暮らしや、もちろん歴史もお勉強。

 十津川といえばもうひとつの名物は、谷瀬の吊橋、これまた高さは日本一。平日なのになぜかたくさんいる観光客に混じって、渡ってみようか。

安全対策は万全なのかね (万全だと思います、きっと)

吊り橋

 初めはふんふんふーんと気楽に歩いてたんだけど、ふっと下が気になった。あ、けっこう揺れてる。いくら太いワイヤで吊ってあったって、足元はじゃないか木。木同士は針金でとめてあるけど、錆びてませんかこの針金。それに歩くたびにしなってみたり、このミシッていうがこわい、足がちょっとすくんできたぞ。

ずさん工事? とにかくとっとと渡っちゃいたいのに、こら前のバカ若者集団、ふざけながらぐずぐず歩くなよお。やっとたどり着いた向こう側、ジュース飲んだらまた戻る。ああこわかった。落ちる観光客はいないんだろうか。それよりもこの橋って村の皆さんの生活の道なのではないんだろうか。私たちはもしかして迷惑を掛けているのではないのか。渡り賃取るくらいの事したっていいと思うけどなあ。

今宵は吉野のお山

 さてと今日は吉野まで行かなくちゃいけないのだ。十津川を後にして大塔村、西吉野村と山深い村を通り抜け、夕闇迫る吉野山へ。きつい急坂の途中の国民宿舎に到着。雨が降るかもしれないから玄関の軒下にバイクを置いていいよとやさしいお言葉に、今日の疲れも吹き飛ぶのだった。