わたしも街道をゆく/1989年/中国地方へ
わたしも街道をゆく 1989年 中国地方へ


1989年8月11日 広島から秋吉台へ 本日の走行距離201Km

広島の夏

 目を覚ましたら元気を取り戻していた。でも今日はのんびり走りたいな。

 広島観光へ出発する。
 原爆ドームに着いた。広島市民球場の向かい側にVTZを駐車。

 鉄骨が剥出しになり、煉瓦は崩れ、その落ちた煉瓦や壁が瓦礫の山になっている。

 同じ季節の同じような時間、降るようにミンミン鳴いてる蝉の声、その時もやっぱり、してたんだろうな。戦時中とは言っても、みんないろんな夢を一杯持って生きてたんだろうに、一瞬で全部無くなっちゃったなんて、あんまりひどすぎる。
 そんなことを思いながら原爆ドームの周りを歩いてたら、涙が出てきた。こうしてここにいることが出来る自分が、どんなに幸せなのか、痛いほどに感じる。
 私が生まれて育ったこの国で、かつて戦争があって、たくさんの人たちが死んでいかなきゃならなかったって事は、忘れちゃいけない事なんだよね。

広島カープの夏

 シンミリした後で手の平を返したように元気になる私。だって、ついに広島市民球場に来たんだもの。そう、私はカープファン。VTZを押して信号を渡り、正面入口にどっかり、停めた。

 警備員のオジサンが近づいてきた。
 「入り口に停めたら困るヨ」
 「写真撮ったらどかしまーす!」
 と言い訳したついでに、
 「シャッター押してもらえませんか」ってお願いしたけど仕事中だから駄目だって。通行人たちも忙しそうに歩いてる。子供連れのお母さんなら、と思って頼んだけど駄目だあ。ケチ。(こらこら)
 こうなったら必殺手段、ソロツーリング必需品、三脚だ。誰が見てたって構うもんか、市民球場正面入口前で、ピース。
 球場の横には、優勝記念碑やら衣笠選手の記念碑とかがあり、写真を撮りまくる。

 あ、グラウンドへの入口が開いてて、オニイサンが二人グラウンド整備の車を手入れしてる。中の写真撮りたいなあ。でもひとりはフツーだけどもうひとりの人は、いかにも広島在住タイプ、はっきり言ってちょっと恐い
 でも思い切って頼んでみた。ラッキー、写真撮らせてくれただけじゃなくて、カープのウチワが欲しいんですよねえ、って言ったら、わざわざ球団事務所まで行って、3本もくれた(3本欲しいって言ったんだけど)えへへ。

 今日はウエスタンの試合があるようだ。ダイエーの選手が練習中だ。ピッチャーが投球練習しているのも見た。カープの人が目の前を通った。二軍のコーチかしら。(たぶん三村さんだったような気がする)
 人を見かけで判断しちゃいけないね、恐いオニイサン、優しくて嬉しかった。

ふたたび広島の夏

 太田川にかかる相生橋から、平和記念公園に入る。毎年8月6日にはたくさんの人で埋め尽くされる原爆慰霊碑の前、今日は観光客がたくさん。私もその一人。

 過ちは繰り返しませんから、と書かれた碑の前で手を合わせる。原爆ドームでの思いを心の中で繰り返す、平和な世の中に暮らすことが出来て幸せなんだと。
 高校生くらいの女の子3人組が、大はしゃぎをしている。こまったもんだ。でも私が高校生のときにここに来たら、やっぱりそうだったのかしれないなあ。

 資料館を見学。
 辛いものだけどちゃんと見なくちゃいけない。ひとつひとつ、しっかりと見た。被爆した人たちの体験をテープで聞けるようになっている。ヘッドフォンからのお話に耳をすます。やだなあ涙が出てきた。

線路ぞい日本の夏

 ずいぶんとのんびりしてしまったようだ。さ、ツーリングの続きだ。

 例によって渋滞してるR2を走り日本三景のひとつ、安芸の宮島を目指す。赤い鳥居のあるフェリー乗り場まで来た。どうしようかなめんどくさいなあなんか。…よし、この鳥居を以て見たことにする。まあいいよね、またいつか来るさ。

 錦帯橋。ふーんこれがねえ。こんな感想じゃ錦帯橋に失礼かな。向こう岸に渡るのに料金がかかるなんてびっくり。たもとの食堂で冷やしうどんを食べて錦帯橋見物は、おしまい。

 岩国から徳山に向ってR2を走る。このあたりまでくると閑かだ。明るい農村、小さな駅、単線の線路、柵の所には、当然カンナが咲いてる。こういう景色、大好きだ。

 徳山、防府を通過し山口市内を走ってるとどこからともなく白バイが現われ、後ろにぴったりくっついた。いやだなあ、些細なことでも貴方とだけは今お話したくないのよ、私。まるで教習所みたいな安全走行。ふっとミラーを見る。おやいなくなったかな、でもよく見るとミラーの死角に隠れてる。でも影がしっかり映ってるよ。やだやだ。早くどっか行って。

 秋芳町へR435に右折した所で、白バイとやっとお別れ。ああ良かった。
 楽しいワインディングが続く。どんどん高度が上がってきたみたい。

 登りつめた。視界が開けた。秋吉台だ。
 高原が目の前に広がっている。なんて空気がおいしいんだろう。シールドを開けて深呼吸しながら走る。ひんやりした風、草原の匂いだ。また目がうるうるしてきちゃった。

 有料道路を往復。ほとんど他に車がいないのが嬉しいばかり。鍾乳洞に入るよりも、外にいたい。誰もいない駐車場にVTZを停める。見上げると、空と雲がすぐそこにある。届きそうな気がして、手を伸ばす。周りの全てを独り占めしてるこんな時が、一人で走る至上の喜び。
 夕焼けの気配がしてきた。ずっといたいけど、暗くなる前に宿に着きたいから、後ろ髪を引かれながらも走りだす。

 広島のユ―スで会った大阪の男の子がいたので一諸に夕食を食べる。