わたしも街道をゆく/1988年/九州へ
わたしも街道をゆく 1988年 九州へ

1988年10月12日 大分から高千穂へ 本日の走行距離265Km

 なんだか今にも降ってきそうな、いやーな空模様。佐賀関町の関崎へ向かう。今年の5月、四国の佐田岬から見た私の初めての九州がここだった。工場地帯を抜け、細くて舗装もガタガタの道を進む。
 誰もいない駐車場。ジュースを飲もうにも錆びてるみたいな自動販売機しかない。バイクを置いて岬へ歩く。最後に人が通ったのはいつなんだろう、そんな気さえしてくる。だって道の真ん中に蜘蛛の巣が張ってる。手や頭に引っ掛かるんだからいやになる。
 そしてやっと着いた寂しい灯台。曇り空の下になんとか対岸の四国が見えた。向こう側からこっちを見たときには青空の下、あんなにはっきりここが見えたのにね。空を見上げると、アサヒスーパードライの飛行船が浮かんでた、こんなとこにいても誰も見てくんないよ。

 なんだかすっかり暗い気持ちになってしまったけど、気を取り直して出発。R217、臼杵市から県道を、臼杵石仏群へ。
 小高い丘を歩きながら、遥か昔に彫られた石仏たちを見る。ただの石の塊になってしまったものもあれば、歳月を感じさせないくらいに着色が残ってるものもある。それが観光ガイドに必ず出てくる有名な大日如来。思ったよりも小さい。頭部だけ、が彫られた岩の面から落ちたのか。
 見物しているところへ「怪しいものではありませんから」という挨拶と共に現れた、市役所の方。ラッキーな事にいろいろな説明をしてくれた。他の観光客さんたちとご拝聴する。
 満月寺門前には仁王さま。昔流行り病が出たときに、仁王さまの鼻を削って飲むと効くという迷信があったために鼻が無くなってしまったそうだ。市役所の方の受け売りである。かわいそうだけど、頼りにされたんだからいいのかな。

 お土産屋さんで朝ご飯。団子汁の定食をむしゃむしゃ食べた、満腹!
 ここから津久見、佐伯市を越え南下する道、これがひどい。山道くねくね国道のくせにガードレールもない。向うからトラックが来るたんびに、うわあぎゃああ死んじゃうー、と大騒ぎ。ぐったり疲れてやっと海の近くまで降りてきた。ちょうどお昼、ガソリン入れて休憩しようっと。
 そして蒲江町の九州石油で、給油したあとファンタグレープ飲んでたら、一人のオバサマがスーパーカブの後ろに炊飯器乗せてやってきた。なんだろう、と思って見ていたら、スタンドのオジサンの奥さまだ。今からお昼ご飯か、なんだかほほえましいねえ。
 …え?中で休憩しなさいって…。だってご飯のお邪魔でしょう。はあ、昼飯食ってけって言われましても、オバサマの分がなくなっちゃうでしょ。それに団子汁からまだ1時間半しか経ってない私のお腹は、ご飯いらないと言っている。
 ……これがまた美味しかったんです、かますの開き、厚揚げお味噌汁、スーパーカブで運ばれてきた熱々のご飯。いつもならきたない食べ方しか出来ない焼き魚なのに、尻尾と頭以外ぜーんぶ食べちゃった。だっておいしいんだもん。そして心も満腹、あったかーい気持ちになりました、ゴチソウサマデシタ!一人で走っているとこういうこと(昼飯代が浮いたことではない)って嬉しいんだよね。

 また山道に戻り、宮崎県に入った。とたんにガードレールがある。うーん行政の違いかしら。
 道を間違えて走ってしまった県道の方が国道よりもいい道だ。そこからR10へ、延岡市からR218を走る。五ケ瀬川に沿って高千穂へと続く道、川を見ながら気持ちがいい。

 神々の国、高千穂。宿に荷物を置いて神様たちに会いに行く。
 きらきら斜めになってきたお日さまの中、天の岩戸神社へ。お土産屋さんの前にVTZを停めて、参拝。木造りのお社は木の香りがする。ご神体は、渓谷をはさんで向こう側の天の岩戸。天照大神が。隠れたところだという。ここからだとお社にさえぎられて見えない。言えば見せてくれると書いてあるので、図々しくお願いする。最初、宮司さん(神主さんかな)に「一人ですか」ってちょっぴりいやな顔されたけど、見せてくださった。
 まず、お清めだ。榊の枝でお祓い。ぴゃっと水を掛けられる。格子戸を抜け、お社の裏側(表というべきなのかなあ)へ。向こう側がご神体の天の岩戸。手続きを踏まないと拝めないところがいいなあ。ここと戸隠神社にしかないという古代銀杏の実、神主さんが拾ってくださった。普通のより細長い形だ。ありがとうございます、大事にしますね。

 天の岩戸神社の奥へと行く。細い川沿いの道は、苔むして古代の香り。人など誰もいない。もし向うから神様が歩いてきてすれ違っても普通に挨拶しちゃうかもしれない、そんな感じの所だ。
 道の先には天照大神が天の岩戸にこもって真っ暗になったときに、八百万の神様たちが集まって相談をしたという天の安河原、そして仰慕ケ窟。洞窟の中は暗くて石が積んであってけっこう怖い。奥の(といってもほんの数メートル)お社まで行くのも勇気がいる。おっかないだけにご利益ありそう。

 のどかな景色の中を宿へ戻る。お風呂に入ってから夕ご飯だ。……ねえ、ここって旅館のユースだけどでも私はユースとして泊まってるんだよねえ。申し訳ないような豪華な食事の前で私は嬉しいけど食べ切れるかなあ。でもおいしくて、動けなくなるぐらいに食べてしまった。ああおいしかった。
 さてそろそろ高千穂神社で夜神楽が始まる時間だ。ぱんぱんのお腹で出掛ける。
 どんどんと太鼓の音で始まる。太鼓の音って体の奥の方に流れている、なにかに響く。なぜだか血が騒ぐ。
 天照大神が隠れた天の岩戸を捜す手力雄の舞、彼女を誘い出そうと歌い踊る鈿女の舞、岩戸の戸を動かす戸取の舞。そしていざなぎいざなみの二人の神様の踊り、これがとってもエッチなの。他のではシャッター押しまくってた私の手が止まったもの、さすがに。しばらくの間、上演禁止だったらしい。でもどれも面白かった。33番全てを演じるという夜神楽33番、見てみたいなあ。
 ビールを買って宿へ帰る。明日もお天気らしい。


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