わたしも街道をゆく/1988年/九州へ
わたしも街道をゆく 1988年 九州へ

1988年10月11日 阿蘇から大分へ 本日の走行距離178Km

 夢だったのか現実なのか、私はその感触をありありと覚えているんだけど、夜中に、この世の者ではないものに起こされた…。今思うとぞっとするけど、その瞬間は不思議と怖くなかった……誰かが私の背中を押して、布団の端っこに寄せようとしたの、ずるずる、って。他のベッドで寝てる人たちの寝息がよく聞こえた。みんな気持ち良さそうに寝てるのに、なんで私だけが夜中に起こされなくちゃいけないの。お願いだから寝かせてよ。怖いよりも私は頭にきていた。

 夢だったのかなあ、でも布団の上をずれてる感触が確実にあった。なんにしても目を開けなくってよかった。きっと見てはいけないものを見てしまっただろうから。ゾゾー。(後日譚ですが、この日出発前、ユースの前でみんなで撮った記念写真に…あああこれ以上はいえないい)

 朝が来た。朝食前に外を散歩。気分がすっきりしてきた。多摩ナンバーの男の子がどこからか帰ってきた。草千里で日の出を見てたんだという、いいなあ。私も早く行きたい!
 怖かったユースに別れを告げて、出発。阿蘇有料道路坊中線を行く。「この道は牛馬優先です」なんて看板が立ってる。わくわくしちゃうよお。

 ぐんぐん登ってゆく。ここ内輪山と外輪山の間に広がる平野が一望できる。すっごいなあ。
 あ、牛だ牛。道に牛がいる。のんびりと草なんか食べちゃってる。と思うと今度は馬まであらわれた。ポコポコと車なんてまったく気にしないでお散歩中だ。ちょうど通りかかった修学旅行のバスからはキャーキャー歓声があがってる。
 それにしてもさすがは阿蘇の馬。観光バスの前を横切って、眼下に広がる景色をじ〜っと見ている。うーん詩人だなあ。
 ヘルメットの中でニコニコしながら走る。だって阿蘇にいるんだよ!ほら米塚が見えてきた。平地の中にポコッとお碗をかぶせたみたい。嬉しくってしょうがない。
 火口の方に向かうと、右手に草千里。駐車場にVTZを置いて、草千里に立つ。写真でしか見たことのない景色の中に自分が今こうしているんだということになんだか胸がきゅんとするくらい感動する。涙でちゃうほど。
 足元の馬フンをよけながら草の上に腰を掛ける。今の感動をみんなに知らせたくて、絵はがきを何枚も書く。ずっと座ってたい。

 赤茶けた景色の中、阿蘇町営道路を登っていくと、そこが阿蘇中岳火口。修学旅行生に交じって、もくもくと噴煙の上がる火口をのぞく。まわりには点々と避難壕が。もし本当に噴火した時あの程度の物で助かるのかな、ちょっとそんな気もする。でも地球って生きてるんだ、そんな実感がひしひし。
 阿蘇有料道路赤水線、走っていると道の脇で女の子たちが手を振ってる。なんだろ、ピースしたほうがいいのかな、と思ってよく見ると露店を出してなんか売っている。なあんだ、この商売上手! いろいろ考えてるよなあ。
 米塚のすぐ近くを走る。近くで見るとでっかい。

 阿蘇の山を背にして、国道へ出る。R57から212へ。外輪山の一番高い所にある、大観峰からの眺めを楽んだあとは、お昼ご飯。通称ミルクロードの途中にある牧場の食堂で、あったかーい搾りたての牛乳と牛飯。お肉はちょっと固かったけど、ま、大満足。
 ミルクロードはやまなみハイウエイにぶつかる。今日もちょっとだけ、やまなみを走れてうれしいなあ。一の宮で例の猫さんがいた道をまた通る。何の痕跡も残っていない。きっとちゃんとしてあげた人がいたんだろう、何もできなかったことが本当に厭になる。
 R57を東へ。これで阿蘇ともお別れだ。

 荒城の月の舞台になったという、竹田市の岡城跡へ。国道からはずれ、細い道を走っていく。これはきっと忘れ去られたような渋いところに違いない。期待しながら、到着したのはでかい駐車場。バイクは50円なり。あらら観光地だったのね。でもこれで驚いちゃあいけない、VTZを置いて岡城跡へ行ってびっくり。たしかにNHKでやってるからブームかもしれないけどなんでここで武田信玄菊人形展をする必要があるわけ?ここは九州じゃんか!それも大河ドラマのテーマ曲つき。感動も半減っす。

 国道に戻らず明るい農村している県道で、緒方町へ行く。ここには原尻の滝といって、ちょうどナイアガラの滝の何分の一だかの大きさの滝がある。かわいいね、あんまり観光客もいないのに一所懸命観光地にしようとしてる所がなんだかほほえましい。ちょっと地の利が悪いかな。
 このあたりはまったくの農村。景色が私のようないわゆる観光客に媚びていない。むしろ関係ないねって顔してるのがいいなあ。そんな道を通ってR57に戻る。
 大分へ、走りやすくたってつまんない国道を走る。今日の泊まりはビジネスホテル。たまった洗濯、しなくっちゃ。


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