わたしも街道をゆく/1988年/九州へ
わたしも街道をゆく 1988年 九州へ

1988年10月10日 国見から阿蘇へ 本日の走行距離219Km

 夜はさっさと寝てしまったのに、なぜか朝になってから、同室の女の子とおしゃべり。博多からバイクで来ているんだって。博多で是非会おうねと約束をして、私は一足先に出発。

 国東半島をめぐるR213は、青い海青い空緑の山々、黄色の稲穂。あああもうどこもかしこも九州だあ〜、って気がしてきたぞお。
 国東町から半島の真ん中へ、くねくね道を両子寺に向う。

 苔むした石畳や石碑にやさしい木漏れ日が射している。いいなあ。小さな仁王さまが、身長1m位しかないくせに、それでもえへんと威張って「仁王立ち」してるのがとっても可愛い。観光ガイドで有名な立派な仁王さまもいるけど、こっちの仁王さまの方がわたしは好き。昔の空気をいっぱい感じたところで、さて富貴寺へ。

 磨崖仏など見つつ、明るい農村の中を走り抜け、着いた富貴寺は門前の石段の両側にコスモスが咲いててきれい。だけど、中に入ると何だかずっこけちゃう(死語かも)。航空会社のポスターなんか貼ってある(それも等身大の)。九州最古の木造建築と言われても、ただの観光地な風情に、なんだかがっくり。

 さてR213へ戻ろう。太田村・安岐町を抜ける県道、その名もコスモスロード。たしかに道の両側にはコスモスが咲いてて、秋だなあって気がする。
 国道が、R213からR10になったら、片側2車線になった。広い道を新鮮に感じながら別府へ。別府湾の眺めもなかなかすてきです。思わず道路沿いの駐車スペースにバイクを止めて、三脚立てて写真を撮った。後ろでは車がビュンビュン、ちと恥ずかしい。

 別府と言えば、温泉。…といっても入った訳じゃない。市内に点在する、「地獄」と呼ばれているいろいろな温泉めぐりである。8ケ所で使える入場券を買って、いざ出発。
 まずは、血ノ池地獄。水質のせいなのか本当にお湯が赤いや。あんまり気持ちのいいもんじゃない。鬼さんがいたので(着ぐるみの)、一諸に写真を撮ってもらった。次なる竜巻地獄へ向かおうとしてたら、駐車場で、タクシーの運転手のオジサン達と話が弾む。次の駐車場でもやっぱり運転手さんと話をする。なぜかタクシー関係にもてるなあ今日は。
 竜巻地獄は、間欠泉。ちょうど終わったばかりで次まで少し時間があったけど、いちばん前で見たいから、陣取って待っていることにする。ここにも鬼さんがいた。後ろからポカッとやられたのでなにかと思えば、鬼さんだった。バイト?暑いのに大変だねえ。
 20分待って、やっと竜巻地獄が始まる。おお、けっこう元気に吹き上がるんだ。あっという間に終わったけど。ま、こんなもんだな。
 地獄から地獄へとチョコチョコと移動するのがめんどくさくなってきた。次は、海地獄。お湯が青い、とまあそれだけのこと。茹で卵がおいしそう。食べればよかったと後で後悔。海地獄の駐車場から、別府の温泉街が見渡せた。あちこちから湯気が上がって、湯の街だなあ。

 このへんですっかり飽きた。もう地獄めぐりはいいや。そろそろ、九州ツーリング最大のメインイベント!やまなみハイウェイ!!別府の町を後に、九州の真ん中へ向かう。ああなんだか景色が九州らしくなってきたぞ。わくわくしてきた〜。

 由布院温泉や金鱗湖を見下ろすワインディング、スイスイと走れたら気持ちいいだろうなあ。でも実態はずっとずっと車の列、見晴らしがいいから先までみえちゃう。路肩は狭いし、のんびり渋滞してよっと。湯布院町を過ぎると渋滞も解消、もうちょっとで、やまなみハイウエイだ。
 水分峠で給油。九州で一番走りたかった道が目の前に延びている。
 飯田高原から長者原、瀬の本へ、九重連山のふもとをぐんぐん走ってゆく。対向車なんて全然いない。ずいぶん傾いてきた金色のお日様、道路沿いのすすきたちに、私とVTZの影が映って、一諸に走ってる。なんて言ったらいいのかわからないくらいの満足感。涙が出ちゃうよ〜。

 あんなの初めて見た、山が真っ赤に染まってる。ただもう幸せなひととき。
 だけど無情に時間は経ってしまい、日がどんどん沈んでゆく。でもね、やまなみが今日最後に私にくれたプレゼントは、山の端を染める濃い茜色の夕焼け。風は冷たくなってきたけど、もう少しだけ見ていたい。

 ずっと西の方はまだ少し明るいけど、すっかり夜になっちゃった。やまなみハイウェイに別れを告げ、一の宮町へ。
 急がなくちゃ、と走っていると少し先のセンターラインの上に何かいる。猫だ。車にはねられらたのか、バタバタしてるがわかった。でもごめんなさい、私は怖くて何も出来なかった。
 罪悪感でいっぱいになりながらも(数年たった今の自分ならなんとかしてる…はず)、走り続ける。R57は山のふもとだから、闇が濃い。少し迷いつつ目的のユ―スへの道を曲がる。有料道路だから道はいいけど、街灯もまばら。いやだなあ早く着きたい、と思ってる私を鞭打つように、ヘッドライトが墓地を照らす。そういえば別府でおしゃべりをしたタクシーの運転手さんが、阿蘇のユースに泊まるって言ったら、あそこは墓の隣だって言ってたっけ。ううう。

 泣きたくなった頃、やっと到着。VTZを止めてふと空を見上げると、満天の星。急に気持ちが軽くなる。

 食事をする所までは外を少し歩かなくちゃいけない。怖いけど、星空がきれいだから許しちゃおう。
 感動したり自分が厭になったりまた感動したり、今日はいろんな事がありすぎた。


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