わたしも街道をゆく/1988年/四国へ
わたしも街道をゆく 1988年 四国へ

1988年5月5日 大洲から松山へ 本日の走行距離220Km

 子供の日、天気もほら、鯉のぼりが泳ぐのにふさわしい、真っ青な空。みんな元気に出発してゆく。
 2日間の雨の中一諸に走ってくれたFくんともここでお別れだ。元気でねっ。

 八幡浜を通過して、佐田岬半島に入る。風が強いけど、ものすごく気持ちがいい。半島の幅が狭いから時々、右も左も海になる。右が瀬戸内海、左が宇和海。車も少ないし、天気いいしもう最高。
 国道が終わる所が三崎の港。昭和30年頃からそのまんまみたいな古びた感じ。ここからの道がまたひどい。一車線も無いような道が、くねくねと続く。

 行き止まりになると、ここが佐田岬の駐車場(?)みたいなもの。ただの道路なんだけど駐車場がないからみんなここに停めるしかない訳で、VTZもバイクが停まってる奥のほうに入って行く。あれ、隙間がないじゃん、どうしようと考えていたら、一人の男の子が自分のバイクを少し寄せて隙間を作ってくれた、ありがとう。
 彼、広島のYくんと一諸に、やっぱ広島ファン? とかくだらないこと聞きながら歩く(だってわたしは広島ファン)。話には聞いていたけど岬までけっこう遠い。木々がうっそうとしてるなか、やっと到着しました、佐田岬。まぶしい海の向こうに、九州が見える。ほら手が届きそう。北の果て北海道も見たし、南は九州も見た、制覇したゾ、というわけの分からない満足感に、しばしひたる。(…半年もしないうちに向こう側に行けるなんて思いも寄らなかったよなあ。)
 バイクの所に戻ってYくんと一諸に出発する。さっきよりもだいぶ混んできたみたい。なにしろいい加減な駐車場だから、出ていく車も入ってくる車もお互い譲り合おうともしないから身動きできない、バイクだって通れないよ。なんだこれと思いつつも車の後ろにくっついてたら、反対側から渋滞の中走って来たバイクが2台、あ、淡路と中村のユースで一諸だった女の子だ。話も出来なかったけどお互い顔でご挨拶。
 やっとの思いで岬の渋滞は抜けたけど、細い道、ところどころ車2台が行き交えないんだからいやになる。R197に出てほっと一息つく。途中のドライブインの前でYくんとはバイバイ。私はそこでアイスを食べてちょっと休憩。
 半島を出るとR378は山の中、細い道がひたすら続く。でも天気がいいから気持ちいいや。ぼーっとのんびり走っては、ときどき道の脇に流れる小川のせせらぎに眼を止めてみる。

 …突然視界が開けた。目の前に広がる瀬戸内海。思わずエンジンを止める。一瞬、静寂が広がる。その静寂の向こうから、遠くの波の音や、鳥の声が聞こえてきた。「感動しました」って書いてしまえばすむような気持ちではなく、ほんとに感動した瞬間。今のこの時だけは、瀬戸内海も緑の木々も、この道も、全部わたしのもの。こんな想いができる私は幸せだ、って思った、本当に。生まれてきてよかった、とまで素直に思えた。
 遠くに見える花はなんだろう、つつじかな。あそこは公園かなにかなのかな。
 遠くから車の音が聞こえてきた。でも、まだまだ瀬戸内海から眼が離せない。車が追い越してゆく。ああいう人たちから見るとなんだと思うのかなあ、女がひとりバイクにまたがってボーっと海見てるなんて。気取ってる、なんて思うかな、ばかじゃないのって思うかな、ま、いいけど、なんと思われても。

 山道をどんどん下りてゆく。もうすぐ海岸線。お腹空いたからお昼ご飯にしましょう。ぽつんぽつんとお店がある町、その中の一軒の食堂に入った。
 「野菜炒め定食下さい!」
 他のテーブルの人たちが飲んでるビールが羨ましい。けどがまんがまん。
 出てきた野菜炒め定食を見てびっくり。だって野菜炒めに玉子が入ってるなんて、こんなの初めて……けど、おいしい。しっかり食べてごちそうさまあ。

 瀬戸内海を左手に見ながら走るR378、暑いくらいのお日さま、むちゃくちゃ楽しい。でもなぜか渋滞してきたぞ。
 …あ、なるほど、これじゃしょうがない。先まで行ってわかった。ところどころ道幅がすごく細くて車2台がやっとミラーぎりぎりで抜けられるような所なんだから片側づつ走ればいいのに、どっちもどんどん行っちゃうから、結局お互いすれ違う時、窓から顔出してドアミラー気にしながら走んなきゃいけないんだよね。すり抜けられるほど路肩なんて無いから、一諸に渋滞してるVTZと私。水原宏さんだったっけ、キンチョーの宣伝の看板、丸くて鉄板みたいので出来てるヤツ、田舎に行くと、何の用途で建ってるのか分からないような小屋の壁に絶対貼ってある、アレ、あれがあったから写真撮っちゃおうかなんて思ったり、ぼけーっと渋滞を楽しんだ。
 何箇所かでは道路拡張工事をしてる。今度来たらあの広くなった道を走るんだねきっと。それはそれで淋しいかもしれないなあ。

 線路沿いの海岸線を走る。田舎の風情がいい感じ。ちょっと休憩しようかな。海に面したドライブインで缶コーヒーでも飲もう。む、そこにでっかいバイクに乗ったオジサンが登場。こっちに来るかなあ。2日間の2人連れツーリングの後でもあり、どっちかというとひとりでいたいなあ、と一瞬思ってた私だったが……知り合って正解でした、うん。
 「東京から来たのか」
 と、そのCB1100のオジサンが言う。東京からひとりで来てます、というと感心されてしまった。私も
「大きなバイクですねえ」とお返し。
「走ってみるか」
 え? 乗っていいんスか。でも倒したらどうしよう…。それに無免許ってことになっちゃうでしょ、わたしは中型免許しか持ってない、ヤバイですよお。でもオジサンは、このあたりの安全運転指導員みたいのなんだって。今日もその講習の帰りだとか。だからお巡りさんに顔が利く、という。
 ならば、と、おそるおそる乗った私、とりあえず足は着く。うわ、ハンドルが重たい。さてエンジン始動、やっぱ凄いよ、1100cc。車みたい、エンジンの音が。
 そっとアクセル開けて走りだす。ひゃあ、動いた。わあわあわあ怖いよお。怖いからすぐに止まっちゃった。でもオジサンのところまで戻るにはUターンしないといけないんだけどさ、そこがちょうどカーブの所、見通し悪いし250ccだってUターン下手なのに出来っこない、どおしよう〜。…情けないけど、オジサンに替わってもらって事無きを得た。ほっ。

 このあたりを案内しようと言ってくれる。うーんどうしようかなあ、知らない人についていってもいいのかしら、誘拐されちゃうかも、でもいい人そうだし親切には甘えようっと(あっさり)。

 2台で走る。このオジサマ、早い。本気じゃないんだろうけど、早い。もう必死でついて行く私、すぐに見失ってしまうんだもの。可哀相なVTZ、8000から下手すると10000一万回転とかで走らされている。
 やっと着いたところは、谷上山公園だったろうか。見晴らしがいところ。松山市や、瀬戸内の島々が眼下に一望。…あ、飛行機。松山空港から飛び発ったんだな、どこへ行くんだろう。遠くの山並みを眺めながら、色々とお話をした。
 さあ次はどこへ?砥部焼観光センターだ。高いしちょっと手は出ないけど、白地に藍色の模様がさわやかでいい感じ。そのうち揃えたいな、と思う。さて、ここの駐車場にVTZを停め、私はCB1100の後ろに座る。そう、オジサンと私はタンデムで、三坂峠を攻めに行くのであった。
 あのお、後ろに私がいるの忘れてない?すりぬけバンバンするしなんといっても私にとっては初めての経験だったのだけど……ガリガリッと言う音、え、なに?はっと気が付いた、ステップ摺ってたの? もしかして。
 眼が点になったところで、三坂峠に到着。ああコワカッタ、とほっとしてると、さっきすれ違ったらしいオジサンの弟子、という男の子が登場。限定解除目指してるそうで、二人であーだこーだと講習を始めた。これがまたすごいの、オジサマが。だって、1100ccのバイクで、スタンディングで8の字を描く。どうしてそんなことできるの?私がトライアルスクールで乗ってた50ccのバイクよりも軽そうに見えるのは何故?そばを通った人たちもじーっと見てる。尊敬。
 ここでまた運転させてくれる。やっぱ怖い。一瞬立ちゴケしそうになって心臓が止まっちゃうほど焦った。足がつりそうになるほどふんばった私。とてもじゃないけどこんなビッグバイクは私には乗れないよ。限定解除なんて、絶対出来ない。
 オジサマと私、そして弟子のCBRくんと一諸に、再び砥部焼観光センターまで、ステップすりながら戻る。そろそろ私は道後温泉のユ―スに行かないといけない時間だ。オジサマは松山の夜の部も案内してくれるというが、ムム、どうしよう。でもお願いします。
 松山の町でひとまず別れ、私は道後温泉へ。さっそく迷って道後公園の前で地図を広げてきょろきょろしてると、さっき近くを走ってた見知らぬ男の子が、わざわざUターンして来て、道を教えてくれた。ありがとう!
 『坊っちゃん』で有名な道後温泉の前で、案内してくれた子にシャッターを押してもらう。考えてみたら、一枚くらい一諸に撮れば良かったなあ。

 きれいで立派なユース、食事もなかなかだし、なんといってもお風呂がきれいでユースとは思えない。
 みんなは道後温泉まで行くみたいだけど、せっかくのきれいなお風呂を私は独占することにした、ああ気持ちいい。

 親戚のオジサンであるということで、オジサマが迎えにきてくれた。クラウンだったか大きい車に乗り込み、いざ、夜の松山へ。

 きれいな夜景を見て、松山で一番大きいというラブホテルの前を通って(もちろん入ちゃいないのだけども、そーゆーひとだっているんだから気をつけなさい、と言われた)、市内の『A』という飲み屋さんに着いた。きれいな女将さんと腕利きそうな板さんがいる。
 ああ、アサヒスーパードライが天国みたいに沁みわたる。そしてまたお料理もおいしいんだ。舌のうえでとろけるみたいなお刺身が最高。
 すっかりオジサマにご馳走になってしまいありがとうございました。そろそろ戻らないと、親戚の人と出掛けると言ってきたから大丈夫だけど門限は過ぎてるんだから。
 ……ありゃ、ドアが閉まってる。なんで?どうしよう締め出しくっちゃったかなあ、遅くなるかもしれませんって言ったのに。
 仕方なく、電話を入れて開けてもらった。もちろん酔ってなんかいない振り。
 明日の朝もオジサマとデートの約束して、お休みなさい。


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