わたしも街道をゆく/1988年/四国へ
わたしも街道をゆく 1988年 四国へ

1988年5月3日 室戸から中村へ 本日の走行距離232Km

 真っ暗な部屋の中、目覚まし時計が鳴った。あ、そうか、日の出見に行くんだっけ。お寺の廊下って、暗くて気味が悪い。そーっと男の子たちの部屋まで忍んでいって(夜這みたい)襖をそっとあける。ほとほとと(←司馬遼太郎ですな(^^;)布団の足元をたたく。おはよ。

 Iくん、岩手の男の子、そして私と3人で、そっとバイクを出して室戸岬に下りる。ジュースを飲みながら待ってたら、太平洋の彼方に朝日が昇った。少し雲があってパキッとした朝日じゃなかったけど、それでもきれい。写真を撮ったり、お日さまを眺めながらとりとめのない話をしたり。展望台にも上ってみた。
 ユースに戻ると朝食まではまだ時間がある。ひととき、ちょっとだけおやすみなさい。

 朝食後、3人で出発。R55に出た所で、Iくんとはお別れ。まさか5ヵ月後に長崎でお世話になるとは思わなかったです。
 わたしは岩手のオフロードくんとしばらく走る。安芸の野良時計に行くそうな。(この時すごーく困ったのは、彼は「安芸」を「あんげい」と読むですよ。でも「あんげい、じゃなくて、あき、だよ」と教えていいものかどうか。ワザと間違えた読み方することもあるしねえ…)
 野良時計に曲る所で「ここだよ」って教えてあげてバイバイ。彼ってばその後Iくんが写真を送っても返事もよこさなかったんだってさ。
 さてと私は一路高知市内へ。龍馬さん!もうすぐ会えるね。

 R55はけっこう広くて交通量も多い道なのに地図を見ながらキョロキョロ走って、やってきました、はりまや橋だあっ! 国道沿いに、赤い欄干だけ。よさこい節のはりまや橋。土佐の高知に来たんだなあ、と感慨に耽る。街中でちょっと恥ずかしいけどやっぱり記念撮影は欠かせない。
 そして、龍馬さんが登城したことがあるかどうかは知らないけど、高知城へ。天守閣からだいぶ雲行きが怪しくなってきた市内をぐるっとみて、懐徳館を見学。大手門の前にでっかい土佐犬がいる。写真撮りたいなあ、と思ったけど、綱持たせてもらって写真撮るだけでお金取られるというシステム。こっそり写真なんて撮ってちゃ怒られるかもしれないのでやめておこう。

 そうそう、大事な事を忘れちゃいけない。新車のVTZ、オイル交換しなくちゃね。バイク屋の社長から借りたリスト(これを見せれば絶対親切にしてもらえるよ、とのこと)を見ながら、ホンダのサービスショップを捜す。でも場所がよくわからない。そうだお巡りさんに聞こう、という訳でなんと交番ではなくわざわざ警察署に行く。ずいぶん図々しいような気もするけど、親切に住宅地図を見せていただいた。
 バイク屋さんに行きがてら、「坂本龍馬生誕の地」に行ってみる。国道に面して石碑が立っていた。高知城は目の前、幕末だってそれなりに都会だったのだろう。山の中にあった中岡慎太郎生家跡とはかなりの環境の差、龍馬さんのが恵まれてた、かな。
 さて、ここにはすごいものがあった。すぐそばの電話ボックス、見上げれば屋根に龍馬さんの胸像。すっごく変なの、なんか笑える。
 ところで肝腎のバイク屋は見つからない。ついにポツポツと雨が落ちてきた。まあいいかオイル交換は次の機会だな、と思ってるうちに大雨。ああ今朝の日の出はなんだったの。
 閉まってる商店の軒先を借りてカッパを出す。こんな所でガサガサと着込んでるのが情けない。せっかくこれから桂浜に行くのに……。

 鏡川を渡って桂浜方面へ。御畳瀬見せましょ浦戸を開けて月の名所は桂浜。空しくよさこい節(著作権切れてるよな、たしか)を口ずさみながら走る。海に出た。わっ、渋滞だ。狭い路肩は走りにくい。後ろもバイクが続いてる。やだなあ、もういいや車と一諸に渋滞してよう。…雨にけぶる土佐湾を恨めしい目つきで見ながら車の後ろをのろのろついて行く。
 バイクってなんか本当に雨が降っちゃうと情けない乗り物だよね、雨に打たれて、馬鹿みたい。バイクって自虐的な乗り物だからって言ってた人がいたけど、その通りだよもう。もっと降ればあ?ちきしょー。
 この道を大きく右折して勾配のきついコーナーを越えれば、桂浜、のはず。もう渋滞してるの厭になった、かといってびゅんと反対車線を走ってく気もしない。と、オフロードバイクが反対車線を走って前に進んで行った、行けるのかなあ…。あ、戻ってきちゃったよ、その上すれ違いざま私に首を横に振っていったような…。やーめたやめたやめた。もういいもん桂浜なんてまたいつだって来れるもん。
 Uターンして桂浜に背を向けた。

 …なんでこんなに雨が降ってるのに私はバイクに乗って走っているんだろう。やだもう。有料の仁淀川河口大橋を渡るのに、お金を出すのもめんどくさい、一瞬で渡り終わるのにどうして350円も取るの。
 続いて横波黒潮ライン、両側に海を見て、天気が良ければどんなに素敵な所でしょう。でもこの雨じゃね。ふん。

 とりあえずお昼ご飯は食べたいなあと、マリンハウス酔龍という店に入る。小綺麗なので遠慮しながら入っていったけど(なにしろベチョベチョに濡れたカッパ持ってるんだから)土佐の人はやさしいなあ。ここの娘さんなのか従業員なのか、女の子(17才くらいかな)が濡れてこぎたない私のヘルメットをおしぼりで拭いてくれた、「私も原付だけどバイクに乗ってるんですよ」なんて言いながら。かつおのたたきも美味しい。雨でがっくり疲れてた気持ちも、なんだか元気が出てきたぞっ。
 横波黒潮ラインを走りながら、ときどき止まって海を見下ろす。雨が降ってるのに、海がきれいなのにびっくり。海の色だけ見ていると、雨降りだなんて思えない。

 けどやっぱり降ってるんだ。VTZにとっては今日は初めての雨天走行な訳で、ペンキの上とか、コーナーとか、慎重。だからすっかり疲れてきちゃって、海がきれいだなあ、なんて言いながら、ちんたら走る。
 後ろから来るバイクには抜いていいよって合図して、どんどん抜かれていくけど気にしない。抜きぎわに手を上げて挨拶してくれる人もいるので、どーもね、とお返しに手を振る。
 須崎市が近づいてきたら渋滞しはじめた。おや渋滞の最後尾にいるのはさっき私を抜いていった人だ。横に並んで話をしながら走る。野宿で走ってるんだって、今日なんてどうするの、この雨の中。いくらビニール傘持ってたってねえ。
 んで、一諸にユースに来れば?ということになった。ユースなんて嫌いみたいだけどさ(私だって好きな訳じゃないもん)雨だからしょうがないよね、一諸においで、と時々すりぬけしながら走り、途中で休憩。
 この雨やんなっちゃうよね、とカッパを脱いでお土産屋付属の喫茶店に入る。ひっどい、私の手、グローブの色が落ちて真っ黒だ。彼、Fくんもカッパが雨漏りで、服が濡れちゃってる。コーヒー飲んで暖まったら、中村市まで頑張りましょう。

 山の中、おもしろくない道が続く。私のVTZ、そろそろ給油かな、まだ大丈夫かなと思ってるうちに、回転が落ち、あ、止まっちゃった。ちょっと待ってよ、急いでリザーブにする。とほほガス欠なんて情けない。その後一番最初のスタンドに入ってお腹一杯にしてあげた。
 中村市に入ったけど、宿はどこ? 農道と用水路、小さな橋(長さ2メートル弱)が入り組んでる農村の中を走る。欄干なんてもちろん望めないような橋を渡ったらすぐ道が直角になってたりするもんだから、下手すると後ろのタイヤが内輪差で空中を走ってたりしてけっこう怖いものがある。
 これまた細いくねくね道を登って、やっと着いた、またまたお寺のユース。でもあと一仕事。「あのお、なんか泊まる所がないらしいんですけど、男の人ひとり泊まれませんか?」電話で言っても断られるかもしれないから直接受付で頼んでみた。ラッキーだねFくん、OKだって。夕ご飯まであるなんて良かったじゃないの。
 可愛い猫ちゃんと遊びながらご飯を食べ、あんまり気持ち良くないお風呂に入る(汚いというより、男の子たちの後っていうのがねえ)。変な構造になってるユースで、トイレに行くのに他の部屋を通過しなくっちゃいけないのが、なんか面倒臭い。
 ここでは、なんと淡路ユースで同室だったという女の人(私は全然覚えてない(^^;)と、何人かでツーリングなのにひとりだけユースに泊まってる子(前の年にひとりでツーリングして、つまんないからもう絶対ひとりでなんて行かないと思ったんだってさ。そういうもんなのかな)が、同室。
 明日も雨かなあ。


前の日に戻る 次の日に進む

「わたしも街道をゆく」top pageに戻る