わたしも街道をゆく/1988年/四国へ
わたしも街道をゆく 1988年 四国へ

1988年5月2日 淡路島から室戸へ 本日の走行距離321Km

 昨日とうって変わって、いいお天気でワクワクしちゃいます。ユースをとっとと後にして、鳴門岬へ行く。
 おっと8時半だ、会社に電話して、くれぐれもよろしくと念を押す、こういう時ぐらいは仕事のことなんて忘れたい!のに私ってば律儀。
 鳴門岬では頭上に大鳴門橋が、どかーんとある。写真を見せたらみんなが「瀬戸大橋だ」って言ったけど、うん、サイズは全然違うものの負けてないかも、なかなかのもの。
 さあ四国へ。大鳴門橋を渡る。走ってたら「二輪車転倒注意」の標識があった。たしかに横風が強くてちょっと怖い。
 橋を降りたら、四国のはじまりだ。昨日フェリーで会った子たちにまた会った。

 四国といえば、お遍路さん。まずは霊場第一番札所の、霊山寺へ。白装束のお遍路さんがたくさんいるのだとばっかり思ってたけど、いかにもお遍路さんなのは、ひとりのオジサマだけった。あとは観光客っぽい人たちばかりでちょっと期待はずれ。そのうち1回ぐらいは、お遍路さんやってみたいなあ、なんて思いながら、霊山寺を後にした。
 四国太郎と呼ばれる吉野川。その土手を走って国道に向かう。途中で川べりまで降りてみた。もちろんダート(という大げさなものではなくて舗装されてないだけ)なんだけど、頑張るVTZ。オジサンオバサン達がしじみ捕りに熱中してる、観光客の私なんかに眼もくれず。しじみって川で捕れるんだなんて初めて知った、ツーリングって勉強になるんだなあ。しじみの味噌汁飲みたいなあ。

 R55を南下、しばらくは市街地が続く。今日のお昼は国道沿いのスーパーの前のベンチにて。メニューはカレーパンとクリームパン、デザートにアイスクリームも食べる。アイスを食べながらぼーっとしてると、道路をバイクが走ってく。アイス食べながらピースするのはちょっぴり恥ずかしいけどすんごい楽しい。
 南阿波サンラインは、無料化したせいなのか入口のアーチが古びてしまっていて期待薄かな、と思ったけどとんでもない。お金払って走ってもいいと思った。海がきれいなの…。

 さて、サンラインの出口近くで、私は生まれて初めて見る妙なものを、ぼーっと見つめてしまう。この先毎日、いろんなところで見ることになる、「こいのぼりのめざし」である。こいのぼりが、横に張ったひもにぶらさがっている、変なの。世の中にはいろんな風習があるんだなあ。(最近は、いろんなところでよく見るけどね…。カルチャーショックだったのよ)

 徳島と高知の県境前後から、もうずっと海岸線。幸せだなあ、と心の底から素直に思えちゃうんだな、こんな道走っていると。

 岬、といってもゆるいカーブになっているだけ、下手すると気が付かないような所が、室戸岬だ。中岡慎太郎さん、こんにちは。
 さすがにツーリングしている皆さんは、こういう突端、岬には集まるようで、いっぱいいた。ふと地元女子中学生の会話を聞いてたら、ああ本当にここは土佐なんだ、としみじみ感動。だって会話の中で、普通に、「おまん」とか、「〜きに」とか本当に言ってるんだよ!なんかかっこいいなあ。
 室戸岬では、写真撮ってもらったり、相模原の団体おにいさんたちと一諸に写ったりして遊ぶ。でもそろそろ行かないと、今日は高知で泊まる予定なんだよ、と慎太さんの銅像にバイバイ。

 念のために高知のユースに早めに電話してみた。すると……え、いっぱいですか? ユースのくせに信じられない(←なんでユースのくせに、なんだろう(^^;)。他の所もダメ、ビジネスホテルももちろんいっぱい、茫然(←時はまさにゴールデンウイークであるということを理解していないのね(^^;)。電話ボックスのそばにいたおじさんが、家に泊まれとすすめてくれる。いや、ご好意は有難いんですけど…。
 ど、どうしよう。もう夏のような日差しを浴びて、R55のわきで考え込む私。…仕方ない、戻ろう。今、バイバイした慎太郎さんの銅像近く、室戸のユースが空いていた。よおし、そうと決まればゆっくり観光しよっと。

 中岡慎太郎生家は、国道から離れ、川沿いの道をくねくねと進む。山あいの村。生家跡には誰もいない。慎太さんのいた頃は、今走って来た道もなく、想像も出来ないような山の中だったんだろうな。ここで、山に囲まれたこんな狭い空を見ながら世界を想っていたのかしら。そして山を越えて勉強をしに行ってたんでしょう、すごいパワー。
 と、そんなことを思いつつR55を走ってるVTZは、やあっ1000Kmをメーターに刻んだ。やっと大人になったねと褒めてあげる。

 さてNHKの朝のドラマにも登場した安芸の野良時計。写真で見るより小さい、ま、札幌の時計台みたいなもんかしら。中では普通に人が生活してるっていうのがおもしろいね、けど来る人来る人皆が家の前で写真撮って、嫌だろうなあ。
 また同じ道を走って室戸へ向かう。時計を見ると夕方。律義者の私、どうも心配で会社に電話。もちろんコレクトコール。

 さてと、そろそろ室戸に向かわないと日が暮れちゃう。一所懸命走ってる私に、信号待ちで並んだ男の子が声をかけた。
 「室戸?」
 急に話しかけられて私は
 「う、うん」
と曖昧な返事。すると、彼は、こう言ったのだ。
 「急がないと、夕日に間に合わへんよ。」
 これが『まにあわへんよI君』(と勝手に名付けた)との出会い。
 …本当はねえ、夕飯に間にあわへんよ、って聞こえたんだ、実は。後ろからみてもお腹が空いてるって分かるような走り方してるのかなあと思ったんだもの、思わず。後でよおく考えたらわかった、ああ、「夕日」ね。
 そう、たしかに素敵だった、夕日の中の室戸スカイライン。背中に夕日を浴びて走る私、思わず片岡義男の世界、みたいな。

 ユースに到着。入口の分かりにくいユ―スだなあ、建物に行くためには登山道みたいな道を登らなくちゃいけないんだけどそうもいかない、と思って、バイクを止めて荷物を降ろしてる所に、さっきの夕日の彼が現われた。
 聞けば同じユースに泊まるんだって。この登山道みたいのをバイクで上がって行くというのでわたしもバイクでついてゆく。ガタガタの道、急坂だし、後ろを押してもらったり、すっかりお世話になっちゃった、ありがとうございます。
 夕ご飯を食べて、むっちゃきったないお風呂に入って(濁ってるから温泉かと思ったくらい…マジ)同じ部屋の女の子と喋ったり、昨日に比べると、ユースをエンジョイってヤツ?ホステラー気分を満喫してみたりする。
 廊下で夕日のIくんと会った。翌朝、室戸岬に日の出を見に行くというので、私も行くことにした。目覚まし時計を持ってる私が起こし役。

 四国にいるんだよなあって思うと不思議な気がする。


前の日に戻る 次の日に進む

「わたしも街道をゆく」top pageに戻る