わたしも街道をゆく/1987年/東北へ
わたしも街道をゆく 1987年 東北へ

1987年8月15日 青森から十和田湖へ 本日の走行距離269Km

 5時半頃起きたら、先輩のお母さんがお弁当を作ってくれていた。夜働いてるのに早起きしてくれたのだろうか、とてもうれしい。どうもお世話になりました。

 さて、文学少女の私としては、太宰治の生家のある金木に行きたいのに、どうにも道がわからない。コンパスの指す北に向かっているものの、人家の間の路地を走ったり、田圃で行き止まりだったり。道を聞こうとスーパーに入れば(あんな早くからやってるなんて、まだ6時過ぎだったよ…コンビニか?)、まるで宇宙人でも見るような胡散臭い目で見られるし、お婆さんに聞けば何を言ってるのか理解できない(3回聞いてやっとわかった)。
 やっとの思いで金木町に着いたら、雨。ガソリンスタンドでカッパを着て斜陽館へ。せっかくたどり着いたのに中を見学する気力もない。雨脚が強くなってゆく。

 この東北ツーリングのメインイベント、竜飛崎から北海道を見るのもこの雨じゃ無理かもしれない。でもまあ、とりあえず北を目指してみよう。
 吉田松陰の碑がある。こんな所まで歩いて来たなんて、ますますすごい人。

 前を走ってたバイクが、交差点を直進した。なにを考えているのか私は、それを見て私はこっちなのだと左折してしまったのだ。直進しなきゃいけないんだってば。…道は林のなかに続いている。またやっちゃったよ、ばかだなあ。でも道を尋ねたら(金歯だらけの人のよさそうなオジサン)この道でも行けるというのでひと安心。そのうち国道に再会できた。
 雨の中、初めて見る日本海が左手に広がる。いかにも日本海らしい、暗くどんよりした海に気分まで落ち込んでくる。ああっ演歌が聞きたい。

 小泊村に入ると、竜泊ラインへは右折という標識があった。やった、もうすぐだっ、と大喜びで右折…と、そこにはダートが続いていた。
 ダート、急坂、タイトなコーナー、そして霧、視界が10メ―トルくらいしかない。ねえ本当にここ国道?(この竜泊ライン、国道339号には、階段もあるということをあとで知った…) もしこんな所でコケたら誰も助けに来ないに決まってる。霧の中を走っていると、この道がこのまま異次元につながっているんじゃないかと思えてきて、怖いぐらいの孤独と不安にかられる。誰か助けて。

 でも神様っているんだねえ、きっと。竜飛崎が近づいてきたら、雨がやみ、霧が晴れてきた。あまつさえ日も差し、見えたっ! 北海道。生まれて初めて見る北の大地。
 うっかり涙が出てしまう。絶対見えないと諦めていたのに。思わず『津軽海峡夏(冬じゃなく)景色』を歌いながら、走る。このまんま北海道まで走ってしまいたい。

 竜飛崎の駐車場にはバイクもけっこうたくさんいる。まだシャイだったので(^^;)話し掛けられてもびくびくしてしまう。(正しくは、こういうときは一緒に休憩したりなんかして、写真撮りあって、あとで送るのだ(^^;)
 取り合えず腹ごしらえ。持たせてもらったお弁当をレストハウスで食べる。筋子の海苔巻き、そしてねぶた模様のりんごジュース、おいしいっ!
 そして竜飛崎灯台へ。風が強いけど、ほら北海道がすぐそこ。来年は必ず行くから待っててね、北海道さん。北海道をバックに撮ってもらった写真には悔しいことに写ってなかったの。景色だけ撮ったのには写ってたけど。
 絵はがきを買って、竜飛崎とお別れ。ここまで北を向いていたコンパスの針が、今から南を指すことになるのがちょっと寂しい。

 むつ湾の向こうに下北半島が、海にはフェリーが見える。青函連絡船かな、次の夏にはもういないんだ。1回ぐらい乗りたかったなあ。
 青森市内を通過して、十和田湖へ向かう。まもなく高原にさしかかった。八甲田山のふもとだ。緑の山々が目に新鮮に映る。気持ちいい、けど曇った空がいやな予感。

 車が混んできた。そろそろ奥入瀬かな、と思う間もなく、大渋滞。道が細いうえに、観光バスが走ってる。すりぬけをする余地もない(というか自信がない)。隙を狙って反対車線を走ってるバイクもいるけど、CBRと私はじっと渋滞に巻き込まれているしか術がない。あーあ。
 そのうち、後ろのほうから反対車線を走ってきたバイクが私の横に偶然止まった。ふっと見たら、なんとさっき竜飛崎にいたオジサンだ、灯台のところで同じ男の子にシャッター押してもらってた、びっくりしちゃう。あー、と言って思わず指を差してしまう。向こうも私を分かってくれたようで、渋滞の中、ほとんど半クラッチの状態で、話しながら走ってた。
 浜松から来たという、GPZに乗るオジサンは昨夜は竜飛崎で泊まったという。もう帰るんだって言ってた。なんとなく教習所の教官といった感じの人だった。
 やっと十和田湖に出た。おじさんは左、私は右へ。私もこの時左に行けばよかった、そうすればあんなヒヤヒヤしながら走らなくてもすんだのに。だって右の道(つまり時計まわりの反対)ってガソリンスタンドが全然ないのだ。もうすぐ無くなっちゃう、どうしよう。こんな坂だらけの所、押したくない。タンクの中身ばかり気になって、展望台なんて見てる余裕はない。トイレ休憩したところでは、尾張小牧ナンバーの男の子たちに「リザーブってどのくらい入るの」なんて馬鹿なことを聞いたりしている。
 とうとうリザーブにした。十和田湖ってなんでこんなに広いの、とはらはらしているうちに、休屋に着いた。スタンドを見つけたときの嬉しかったことといったらない。砂漠のオアシス。

 そんなこんなでホテルに到着。先客にバイクが1台、同じCBRだ。私のCBRも並べたりして。
 とりあえず智恵子湯ってヤツに入る。疲れを取るはずだったのに、空腹だったのを忘れてた。竜飛崎からなんにも食べてない。湯当たりして気持ち悪いよお、うう。食堂に一番乗りして、豪華な夕食を前にしたものの、食べたくない。次に来た2人もどうやらバイクっぽい、ひとりは女の子だ。こっちを気にしてるみたいだったけど、悪いけどそれどころじゃない。なんとかちょっと食べて引き上げた。ああもったいない。
 絵はがきを書いてたら、フロントから電話がかかってきた。例のバイクの女の子が話をしたいんだって。そのあとすぐ彼女からかかってきて、喫茶室みたいなところでおしゃべりした。宮城のJちゃん、元気な子だ。今日は下北半島に行ったんだって。お土産売場で、棒の先にウルトラマンキッズが付いてるのを(淳子ちゃんはゲゲゲの鬼太郎)買って、明日から荷物に付けて走ることにした。
 なんだかものすごく疲れた。


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