その後の物語3 -その後のロビンソン物語-
「珊瑚島の少年」を読まない先に「蠅の王」を読んでしまいました。
この小説によって、無人島に漂着した少年達が必ず協力しあって生活していけるという物語を、すれっからしの読者に対して、
当然のように展開することは、もうできなくなりました。
(マンガ「漂流教室」では少年達の間に反目がおきます。媒図かずお氏は「蠅の王」を読んでいるか、うわさを聞いている
と思います。WWWには「漂流教室」のファンのサイトがありますが、彼等のうちだれかはこの苦い、教訓的な英国小説を
読むべきです。)
ゴールディングは「後継者たち」で、ネアンデルタール人とクロマニヨン人を描き、後者が前者に対してひどい仕打ちをし、
滅ぼそうとしている物語を書きました。白人がインディアンを迫害したように。ゴールディングはこれにより、「失われた世界
」のように、文明人が原始人におそわれる従来の小説の設定を誤ったものとして破壊しました。
トルニエ「フライデー 大平洋の冥界」は別の角度からのロビンソン批判です。この小説の中では、フライデーはキリスト
教徒に改宗するのではなく、ロビンソンよりずっと活き活きして、無人島で楽しく生きる態度を具現しており、ロビンソンの
ほうが自信なげに、内省的に見えます。ロビンソンのように島を開発して穀物を増産し、大きな屋敷を作って生活することへの
アンチテーゼというべき物語です。
彼等を救いだす船の白人たちが、もっとも悪いもののように書かれています。
高橋大輔著「ロビンソン・クルーソーを探して」新潮社刊(1999年)はロビンソンのモデルとなった船乗りアレクサンダー・
セルカークを研究する旅の記録です。
著者(高橋大輔氏)のしたこと。
この本の中に、セルカークを救出したキャプテン・ウッズ・ロジャースの記録などをもとに、著者がセルカークの無人島の
生活を再現した20ページの文章があります。実際のセルカークの生活は、「ロビンソン・クルーソー」にも似ているし、
「フライデー 大平洋の冥界」に描かれたものにも似ています。「フライデー...」の作者が、セルカークの文献を調べて、
より原形に近い小説を書いたことが推定されます。
セルカークはイギリス政府公認の海賊で、スペイン船を襲っていたこと。島には以前別の船がヤギを放し、それが殖えて、
セルカークの食料になったこと。かれはヤギを追って崖からおち、ヤギが体の下で犠牲になってくれたので、九死に一生を
得、それ以来、神の意志で生かされていると信じるようになったこと、これらは実話です。
「さんご島の少年達」や「スイスのロビンソン」などに海賊が出てきてますが、話を面白くするためのつくりごとではなく、
当時海賊は多く、でてくるのは当たり前と考えたほうがよさそうです。
ロビンソンがキリスト教の信仰により、孤独で不自由な生活を乗り切るのは、セルカークがヤギの一件を宗教的できごとと
信ずるようになったことに基づいているのでしょう。
熱帯にヤギがいるのは、航海のヨーロッパ人が持ち込んだのがふえたのです。セルカークが生き延びたのは、ヤギのおかげ
とすると、ヨーロッパ人が南大平洋の島に再々立ち寄るようになったことが、セルカークのように島におきざりにされる
人間が出てくる原因であり、同時にかれが無人島で生き延びられた原因でもあると言えます。
「ロビンソン・クルーソー」のバリエーションが多く書かれましたが、ぐるっとまわって、モデルとなったセルカークの実話に
帰ってきた気がします。ロビンソン物語を批判する者はセルカークに関する記録を調べるべきでしょう。セルカークは、
兎に角、生きるのに精一杯だったので、その生活は非難されることは少ないと思います。
ウィリアム・ゴールディング「蠅の王」は、無人島に流れ着いた少年達を襲う狂気の物語で、「珊瑚島の
少年」の悪意あるパロディあり、2度の大戦を引き起こしてしまった人類に対する寓意の書です。
1.アレクサンダー・セルカークの記録(英語の文献)を古書籍商に依頼して収集する。
2.セルカークのの生家をたずね、船乗りになるまでの人生を調査する。
3.チリの西方数百キロの大平洋上に浮かぶロビンソン・クルーソー島(いまやそう名付けられている)でセルカークの
痕跡を訪ね、実際に島で1ヶ月間生活する。
4.英国に帰還したセルカークのその後の人生を調査する。
5.セルカークの遺品の調査。