山川惣治と絵物語の世界page1651

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その後の物語1 -その後のアフリカ-

「ルワンダ中央銀行総裁日記」服部正也著(中公新書)に現代のアフリカの様子が書かれています。

ルワンダはコンゴ(ザイール)のお隣の国です。ベルギーから独立した、中央アフリカの小国です。著者は日本銀行に20年間 勤続し、パリ銀行にも勤めたことのある金融の専門家で、国際通貨基金からの要請を受けて、1965年当時アフリカの最貧国 であったルワンダの中央銀行総裁(日本でいえば日銀総裁)に就任します。そして6年間の間にルワンダの経済を立ち直らせ、 みごとな経済発展の基礎を築き、ルワンダ国民の尊敬と親愛の情に包まれて同国を去ります。

「ルワンダ中央銀行総裁日記」は服部氏自らがその活躍の始終をまとめたもので、これを読むと現在のアフリカは探検家よりも 国づくりの専門家を求めているのだという気がします。

本棚をいくらさがしても出て来ないので、図書館で借り出して、おそらく10年ぶりくらいで、再読しました。長く読んで いなかったので、わたしの理解力は活字の上で反射し、なかなか内容に食い込めませんでした。あちこちぼつぼつ読むうちに だんだん面白くなり、調子がついてからは一晩で読めました。いつ読んでもすばらしい。独立したアフリカの国々のほとんど が貧乏からぬけだせないのを考えると、日本人の初代中央銀行総裁の成功は燦然とかがやいています。

服部氏のした仕事を抜き書きしてみると、
1.中央銀行職員の訓練。外国人の専門家の雇い入れ
2.ルワンダの平価切り下げと経済発展計画の策定と実施。
3.ルワンダ商業銀行との協力関係の樹立
4.外国企業優遇の税制の改革
5.ルワンダ鉱山の支援と育成
6.ルワンダの商業の育成 輸出入事務の簡素化による活性化
7.食料備蓄のための倉庫会社の創設
8.バス会社の立て直し
などです。

読みながら、以前とかわらぬ感激をおぼえました。(内容の半分は経済の素人であるわたしには理解できないにも関わらず、 です。)外国でボランティア活動をする人の必読の書です。必ず鼓舞されることでしょう。

しかしわたしは、その後この国で、カンボジア、ユーゴスラビアで起こったのと同様の大量虐殺(ジェノサイド)がおこった ことを知っています(1994年)。その遠因はベルギーによる植民地支配の時代に、宗主国がルワンダの部族間に人種差別を もちこんだことにあるそうです(岩波新書「戦争論」多木浩二著)。70年代にルワンダはアフリカでもっとも将来性のある 国だったのに、一挙にいちばん不幸な国になってしまいました。図書館の蔵書の検索で、「ルワンダ」とうちこむと、でて くるのは、この悲劇に関する書物ばかりです。

以前には気がつかなかったツチ族の国境侵犯のことが、「総裁日記」のそこここに、暗い影のように書かれているのに今回は いやでも気付きました。

折角の服部氏の功績を無にしてしまうようなことがどうしておこったのでしょうか。週間朝日の巻頭のグラビアで、鮮やか な服に身を包み、経済発展の喜びを歌にこめて踊るルワンダの女たちを見たのは、ほんのこのあいだのことだったのに。

スーダンでも政府の中枢にいるイスラム教徒(アラビア人?)がイスラム教の戒律を法律に盛り込もうとして、スーダン南部 の土着の宗教やキリスト教を信じるアフリカ人が反乱を起こし、何年も内戦が続き、推定150万人のスーダン人が死亡した そうです。人種差別は南ア連邦だけではないのです。

現代のアフリカはいろいろな問題をかかえているようですが、それらはアフリカだけの問題ではなく、極めて今日的な、世界 全体の問題のようです。宗教、生活週間の異なる多民族がどうすれば仲良く生きていけるか、環境破壊をおこさず、 全人類が生きのびてゆくにはどうすればよいかは、世界全体の問題です。

我々が自動車一台を走らせると炭酸ガスの蓄積により、アフリカで砂漠がひろがり、何人かが死ぬのでしょう。

現在のアフリカに必要なひとは、だれでしょうか。探検家でも、経済の専門家でもない。リビングストンのような宗教家で しょうか。現実をありのままに報道するジャーナリストでしょうか。貧富のない社会の実現をめざす政治家でしょうか。 あるべきアフリカの姿を静かにうたって、人々の魂を鎮める芸術家でしょうか。


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