山川惣治と絵物語の世界page1617

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絵物語を求めて 恐竜異説

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ロバート・T・バッカー「恐竜異説」(瀬戸口烈司訳 平凡社 1989年)は「恐竜温血説」の代表 的著作です。

著者は古生物学者でもあり、画家でもあります。「恐竜異説」の中の著者自身によるイラストは、本文以上にメッセー ジを帯びています。

バッカーのイラストには陰影のついた挿し絵風のペン画と、マンガ風の図解との2種類がありますが、マンガ風の年表 の一部を上に引用しました。恐竜の表情から、バッカーがユーモアを解する人物であることがわかります。

マンガ風の絵以上に雄弁なのは、銅版画風の精妙なイラストで、その中では、アロサウルスはモダンバレーのダンサー のように高く足をあげて、ステゴサウルスの体当たりをかわしています。剣龍のほうも思いっきり背びれを傾けて、ぶ つかっていっているので、横倒しにならんばかりです。

バッカーのイラストでは、恐竜達はみな非常に敏しょうで、飛んだり跳ねたりしています。著者は恐竜が現世のは虫類 のように鈍重ではなく、代謝のさかんな活発な生き物であるということを、その想像画の中で実践して、再現しているの です。

恐竜はどのような動物であったか、1960年代までの古生物学者は現世の蛇やトカゲの類の延長上に恐竜を置き ましたが、恐竜温血説では、鳥類の近縁のものとして、恐竜を捕らえます。

ジョン・オストロームやバッカーの説が学問的に認められているのか、どうかはさておき、最近では、啓蒙書に おける恐竜の骨格図や、博物館での骨格模型、雑誌のイラスト、恐竜映画「ジュラシック・パーク」や見世物小屋の 模型、プラモデルにいたるまで、恐竜温血説に従って書き直されたり作り直されたりしないものはないように思い ます。これらのものを見る限り、恐竜温血説がすっかり主流になったかのようにみえます。

しかし、その恐竜温血説の根拠となるものはなんであるか。ロバート・T・バッカーは直接には何を研究した学者であ るのか。かれが直接出したデータはなにか。ほんとうに恐竜は温血動物であるのか。.....「恐竜異説」をじっくり読ん でみる必要があります。私が興味深くおもったのは、バッカーは、アメリカのいろいろな博物館や大学で、古生物学 のなかでも、少し専門分野の異なった研究者たちと、フランクに学問的discussionを行い、そこからしばしばヒントを 得ていることです。これがほんとうに、アカデミックな環境といえるものではないでしょうか。

「恐竜異説」の中の著者の論旨は明解で、それを読むと、知的快感を覚えます。-----たとえば博物館のトリケラトプス の前肢がトカゲのように左右に開いて這いつくばったような姿勢に再現されているのは、足跡の化石からして、間違い である等々。

現在の地球はほ乳類の時代と考えられています。しかし種の数からいうとほ乳類は、水辺や熱帯の森にいる両生類に 及ばないそうです。(昆虫の種はもっと多いでしょうから、種の数からいうと現在は昆虫の時代であるというべきかも しれません。)フィリップ・カリー著「史上最大の恐竜発掘」にカメばかり専門に研究している古生物学者が登場 しますが、かれは「恐竜の時代」とは言わず、「カメの時代」と言っています。恐竜よりもカメの化石のほうがずっと 種類が多いためだそうですが、「恐竜異説」を読むとこれが風変わりな説に思えなくなります。

恐竜の絶滅についても、通俗的(すくなくとも現代では)な隕石衝突説をバッカーは取っていません。かわりにバッ カーが提示する説はわたくしには十分説得的なものと思われました。

どうぞバッカーの著書を直接読んで御自分で御考えください。

その時代のトレンドに流されず、事実をもとに真実を追求する態度が大事である。...それが、著者のもっとも言い たいことでしょうから。

(恐竜という呼び名の命名者、イギリスの解剖学者リチャード・オーウェン卿は最近の書物『恐竜をもとめて』では 典型的な悪役を演じさせられていますが、「恐竜異説」の中では優秀な解剖学者として評価されています。)


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