15.山川惣治の絵の魅力12 後ろ姿の名人
上の絵は「白鯨」の第1回、冒頭のシーンです。誰もが海を見ていて、読者には背中をむけてい
ます。なんと奇妙なはじまり方でしょう。
山川惣治の絵の中には、人物の後ろ姿を描いたものの中に、できのいいものがあります。人物を前から描いた場合、
その表情の出来如何で、絵全体が失敗してしまうことがありますが、後ろ姿の場合、身体全体のポーズで、人物の
気持を表現すればいいので、ポーズを描く名人である山川惣治には、肩の力をぬいて、気楽にかけたのかもしれま
せん。
「少年倶楽部傑作選 口絵・挿し絵篇」をみると、戦前の挿し絵の傑作、椛島勝一の「敵中横断三百里」の挿し絵が
主人公たちをもっぱら後ろ姿で、それも頭巾を深くかぶったままで描いているのに気がつきました。これぞ、山川
惣治が後ろ姿をしばしば描いた理由ではないかと思います。「白鯨」は、絵物語がマンガに押されて、退潮が明らか
になったころの連載ですから、山川は、以前から目標としていた、椛島の傑作の神通力を借りようとしたのでは
ないでしょうか。