15.山川惣治の絵の魅力8 岩山・ 密林・空・波
山川惣治の絵物語では、よく岩山で物事が起こります。彼の描く岩山は天下一品です。「少年王者」の
ひとこまに、チンパンジーのチーターとポーターの親子が急をしらせに走る場面があります。その場面には奇妙な形に
重なった岩が描かれています。本筋と関係なく、風景の一部として描かれているのです。山川惣治は岩をかくのが得意
だったのです。
「少年王者」の密林の木はていねいに輪郭をとってあります。初期の作品ではあまり陰影をつけずに、輪郭で勝負して
います。江戸時代の浮世絵や、フランスのアール・ヌーボーに通じるものがあります。覇の茂った一本の木は
複雑な輪郭を持っていますが、それを大胆に省略して描くと、爽快な感じになります。
西洋の銅板画では空は平行線で埋め尽くされていることも多いのですが、銅板画同様、線だけで描かれた山川惣治の
絵では複雑な斜線の組み合わせで空を表しています。流れるような線を引いた空もあり、これはアメコミの影響の
ようです。
山川惣治の波も大変上手で、静かな水面や、海のうねりを巧みに書き分けています。