15.山川惣治の絵の魅力4
上の絵は「海のサブー」ですが右に書かれている白髪の酋長が、どこかそのへんの床屋のおじさんの
ような風貌をしています。実際南太平洋の島々にすんでいる人は日本人によく似た顔つきの人がいて、記録映画などで、
服装を除けば日本人というような現地の人をよく見ます。
それをそのまま絵物語に登場させるのが、山川リアリズムというものでしょう。
南洋の土人の酋長はこんな顔だろうというような固定観念によって描きがちなものですが、そうはせず、事実に
基づいて書くわけです。
昔「少年ケニヤ」の最後になって、なんとなくへんに思ったのは、最後にワタルが邂逅する母親が、十五歳の少年の
母親ならかくやと思われる中年女性として現れることです。普通子供が夢見るあこがれの母親というものは、もっと
美化されて若いわけです。しかし山川惣治は、年齢どおりの女性を描いたのでした。
「少年ケニヤ」以外の作品では主人公の母親はもっと若く書かれるようになりました。しかし私はそれは一歩後退だと
思っています。「少年ケニヤ」で作者がとった態度が正しいのです。
「少年漫画劇場・第一巻」の巻末の対談で、小松崎茂は、山川惣治の絵のことを、「リアリズムすぎるのに対して、
世間が先生を長く買ってくれなかったわけだよ。」と指摘しています。「だけど少年王者のときにそういうのが
なくなってさらっとした実にいい絵になった。」と。
---リアリズムの残滓を私は好みます。
山川惣治の絵では、律儀に現実をなぞったところがあります。
もっとも、「海のサブー」には、全く固定観念による土人そのものも登場するので、多少むらがあるのですが。