15.山川惣治の絵の魅力1
この章では山川惣治の絵の魅力について考えていきましょう。
まず、山川惣治が動物画の名手であるのはいうまでもありません。
山川惣治の描く動物は堂々としています。
山川作品中の動物は人物を描くのと同じくらいの精力を注いでえがかれており、まるで「三国志」や「水滸伝」で
新しい豪傑・英雄が登場してきたときのように丁寧に紹介されます。
左上の絵は「少年ケニヤ」第一巻、ワタルに首っ玉にしがみつかれて暴走するサイの行く手に、のんびりたたずんでいる
河馬です。作者はちょうど記念写真を取るように、真正面から描いています。河馬の背中くらいの高さに画家の視線が
あり、河馬の大きさはあまり強調されていません。もしもう少し視線が下がると河馬の巨大さが強調され、威圧感が出
るでしょうが。首がわずかにかしげられており、何も知らずにいる河馬の善良さがなんとなく感じられます。
(実際の河馬より背が高く描かれているようでもあります)
右上はワタルとゼガの前に堂々と姿をあらわす雄ライオンです。まるで偉人の肖像画のようです。
ライオンは、アニメ「ライオンキング」のキャラクターを見てもわかるように、鼻っ柱が広いのが特徴ですが、山川
惣治のライオンは、あまりその点は、強調されず、日本人の顔つきに似ています。山川惣治の描くゴリラも日本人の
顔ににており、野獣というより、人間らしさを感じさせます。ライオンの額の上のたてがみなどはどこか近所の職人
かたぎの大工さんのカミノケのような感じがします。
ライオンのたてがみの線は無造作に描かれているのに、一本一本が非常に魅力的です。草の線の省略の仕方も素晴ら
しいと思います。
「銀星」でトムの前に姿を現した野生馬の王の月光に照らされた気高さをごらんください。山川惣治の動物画は
しばしば後ろ姿が素晴らしい。見返り美人のようなものです。