13-8 ジャングル物語の系譜8 ロボー カランポーの王様(1894年)
図書館の児童室で「シートン動物記1」を書庫から出してもらうと、司書がひとかかえの
本を持ってきました。いろいろな出版社から様々な時期に何種類もの「シートン動物記」が出ているのです。結局
シートン全集第1巻(内山賢次訳・昭和27年評論社刊)を借りてきました。
これにはおそらくシートン自身によると思われる、古風なカットが毎ページついており、引用するには手頃でした。
しかし、あとがきで、内山賢次先生が「15年にわたって古い版のシートン作品を収集した」と苦心のほどを書いてあり、
さらに奥付けには、いかなる理由があっても出版社の許可なく、この本の一部でも流用してはならないと書いてあるのに
おそれをなして、著者の写真から鉛筆でへたなコピーをとるだけで我慢しました。
いまのところ「ロボー」と「ぎざ耳坊主」しか読んでいませんが、まったく古くなっていないというのが感想です。
野生動物にたいする著者の愛情が感じられ、野外観察者の正確な記述は、感傷を排していてすばらしい。
原語では、「シートン動物記」という名前の本はないそうです。シートンの著作をまとめて、内山賢次先生はこう名前
をつけて、日本で出版したのだそうです。
「ロビンソンもの」の小説が人種差別の点から、またエコロジーの点から、現代人が読むには、多少とも書き換えを必要
とするのにたいして、動物文学は、動物の生態についての記載の正確さが問題にされることはあっても、エコロジーの
点からの書き換えを必要とするものは少ないのかもしれません。
狐が野うさぎのあとをつけるのはどうするか、うさぎが狐をまくのはどうするか、が(正確に?)書かれています。
カウボーイが狼を罠にかけるにはどうするかが書かれています。山川惣治は必ず戦前の訳を読んでいます。動物が
主要な役を演じる絵物語を書くには必ず目を通すべき作品群ですから。
「カランポーの王様」は狼王ロボーが主人公です。動物が主役を演じるドラマです。山川惣治は、「銀星」で野生の馬
の王を主人公とし、「魔獣トルーガ」で人家を襲う豹を悪役とした絵物語を書きました。これらの絵物語は
「カランポーの王様」の影響下にあると思います。
山川惣治と同じ紙芝居出身のマンガ家・白土三平は、「シートン動物記」をマンガにしています。