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13-9 ジャングル物語の系譜9 神秘の島(1874年)

ジュール・ベルヌ「神秘の島」は「十五少年漂粒記」(2カ年の休暇)よりあとに書かれたものだと ばかり思っていました。

子供の頃読んだ「神秘島」の印象は、漂流した島の経度、緯度を計算するなどの科学的な内容が満載された作品という ことです。

M.グリーンの評論「ロビンソン・クルーソー・ストーリー」によると、ベルヌの作品は初期のものほど、科学的事項の 記述が多く、後期のものほど、科学に対して懐疑的な態度のもの、冒険に主眼を置いたものが多くなるそうです。 科学技術の記載の多い「神秘島」は初期の作品で、冒険小説の色彩が濃い「十五少年漂粒記」は後期の作品だそうです 。

「神秘の島」の主人公たちは、無人島で手に入るものを使って、ダイナマイトまで作ってしまうのですから、ちょっと やりすぎという気もします。

ロビンソン・クルーソーはたったひとりで無人島に漂着したのに、せっせとはたらいて、広大な農場や、ヤギの牧場や 、えんえんとした冊にかこまれた屋敷の主人になるので、読者はよくやったものだと感心します。しかし、「神秘の島」 への移植者たちが、何人もで協力したとはいえ、爆薬までつくってしまうのは、少々できすぎという気がしてしまい ます。

「神秘の島」は無人島での生活技術のもっともはなばなしい成功を描いたものと言えるかもしれません。これにたいして 無人島での社会生活の悲惨な失敗を描いたのがゴールディング「蠅の王」です。

前者は科学の人類にもたらす幸福について、あまりにも楽観的で、後者は人類が協調して平和な社会を築く可能性に ついてあまりにも非観的です。

前者はヨーロッパが世界大戦をまだ経験していない時代に、後者は二度も経験したあとでかかれました。

無人島でどれだけ成功できるか。成功の典型を見たければ、「神秘の島」を読むことです。若い人たちはその成功物語 に酔うことができるでしょう。ネモ船長のファンにも推薦できます。

山川惣治は密林で活躍する科学者、科学的思考をする人物はあまり描きませんでした。この点で、「神秘の島」は山川 作品からやや遠い位置にあります。


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