13-4 ジャングル物語の系譜5 ジャングル少年サランガ
アッティリオ・ガッティ作「ジャングル少年サランガ」
。三越左千夫訳。金の星社。
山川惣治は「少年倶楽部」でアフリカ人の子供の物語「サランガの冒険」朝日壮吉文(Gatti Attilio, Saranga the
pygmy) の挿し絵を書いていました。
図書館に「ジャングル少年サランガ」という本があり、金の星社刊行のこの本には、以前に「少年サランガのぼうけん」
という題であったが、版を変えるに伴って題名を変更したとかいてあります。どちらのサランガも大きな犬をつれて
いますし、黒豹が夜中に襲ってくる場面が共通するので、原作はたぶん同じ本と思います。
あとがきによると、アッティリオ・ガッティはイタリア人。1875年に生まれて、1948年になくなっています。
金の星社の幼年版・世界の名作のシリーズには、ガッティのほかに、ウェルズ、ベルヌ、ドイル、マーク・トウェイン
、ハガード、バローズ、キップリング、ジャック・ロンドン、ソーンダイクなど、主に通俗小説の有名な作家が名を
連ねています。ガッティも、一時有名だった作家かもしれません。
「ジャングル少年サランガ」を読んで、気付いたこと。
(1)ジャングルの動物の中で1頭の象だけは、主人公の祖父をむかし救ってくれたことがある。不思議なことだが、
この象だけは味方である、という設定になっています。「少年王者」で足のとげをぬいてやった象の王ファラオや、
「少年ケニヤ」のダーナ、ナンターなど野獣の友達ができるのは同様の設定です。
(2)ゴリラのボスが人間をおそってくる。これを殺すのは、ピグミーにとって名誉なことである、という筋になって
います。「少年王者」「少年ケニヤ」でもゴリラを怪物のように書いています。
(3)矢に毒をぬることにより、獲物は死ぬ。矢だけではなかなか殺せないということが、はっきり書かれている。
山川作品では毒を使うのは、陰険な手段であるというような書き方をしています。
(4)象の墓場、すなわち象牙の宝庫のようなところがある。文明社会では象牙や毛皮を珍重するので、象牙が集積
されている宝庫のような場所を夢想したのでしょう。実際にはそんなところはないのでしょう。象の墓場というもの
を思い付いたのはアッティリオ・ガッティが最初かもしれません。山川惣治は象牙を手にいれて幸せになったと
いうような話はきらいだったのか、書いていません。
(5)アフリカのアラビア人の中には悪者がいるという設定。(実際そうかどうかはわかりません)文明人が未開の
地域で知恵をはたらかせると、しばしば悪知恵になります。「少年ケニヤ」にナチの手下になるムーア人や、ずるい
インド商人が出てきます。
(6)象の鼻の中に蠅が卵を産みつけると、その幼虫にために、象は鼻がつまって死ぬ。サランガは切開手術を
して、象を救う。このエピソードはいかにも本当らしいところがありました。象は数日後に立ち上がります。
一種の「回復エピソード」です。このエピソードは「ジャングル少年サランガ」のクライマックスで、たいへん
さわやかな印象をあたえます。山川惣治の諸作品に再々みられる「回復エピソード」のルーツではないかと思います。
「ジャングル少年サランガ」のストーリーが山川惣治のジャングル物語に影響を与えていることは確実です。
上の表紙絵は武部本一郎の筆になるものです。