12-4-2.桑田次郎の遍歴3
絵物語時代の桑田次郎。高垣眸原作「竜神丸」(1955年)。
「月光仮面」や「まぼろし探偵」の作者が描いたとは思えない、暗く、あか抜けない絵。輪郭の線がびしっときまって
いないんですね。犬もへたくそです。うしろに立っている袴姿の旗本、これが、現代劇でダブルのスーツを着た人物
にあたるのでしょう。やたらと恰幅がいい。
桑田次郎の絵物語は、同時期に描かれた同じ作者のまんがと比較すると、まったくへたくそだと思っていたのですが、
読み返してみると、絵物語「竜巻童子」(おもしろブック1956年2月号)の絵は、前年の「竜神丸」よりは大分ましに
なっています。岡友彦のへたな亜流ですけれど、かなり肉迫しています。桑田次郎はこの時期、日に日に進歩していた
のでしょう。まんが「宇宙怪人」(おもしろブック1956年5-9月号)がずっと洗練された絵であるのは、少しのちの
作品であるからかもしれません。
「竜巻童子」の中に恰幅のよい悪家老がでてきます。立派な服装をしています。立派な身なりをした悪人は桑田次郎が
よく描くキャラクターです。
桑田次郎の絵を御師匠さんの絵と比べてみてください。下左は岡友彦センセイの描く侍。小さな絵ですが、着物姿が
きまっています。刀の線や、壁のなげしの斜線があるために、飛竜の垂直に立った姿勢が強調されるのでしょう。
下右は岡センセイのお友達の玉井徳太郎センセイの描く鞍馬天狗。こっちもすばらしい。無造作に持った槍と、地面
にささった刀の斜めの線が、すっくと立った天狗の姿勢を強調しているのでしょう。日本画の鍛練がちがうんでしょうか。
私の読んだ桑田次郎の絵物語で、いちばん見られるのは「ラドン」(おもしろブック1956年10月号付録)ですが、
これは「竜巻童子」よりさらに数カ月あとの作品ですので、いっそう上達したのでしょう。絵物語の時代が続けば、
絵物語作家になっていたかもしれません。
1956年にはおもしろブックに吉田竜夫が「プロレス五郎」で登場しました。こっちは大成功だった。たちまち毎号の
カラーページの常連になりました。桑田次郎は絵物語では吉田竜夫ほど成功しませんでした。しかし翌年の「ロケット
太郎」は、マンガと絵物語の中間のようなアメコミ風絵柄で、すばらしい作品でした。