12-3-1.吹き出しを持った絵物語1
阿部和助は山川惣治のお弟子さんですが、絵物語の人気が衰え、漫画の人気が高まる
ようになると、絵物語の絵の中にせりふのはいった吹き出しをいれた、漫画風の絵物語も書いています。
永松健夫の[黄金バット」には最初から吹き出しがありました。福島鉄次の「砂漠の魔王」も最初は吹き出しが
あります。従って絵物語にはその誕生の時から吹き出しのあるものと無いものの2種類があったことになります。
吹き出しのあるほうが漫画に近いわけです。吹き出しのある絵物語は(あくまで絵物語と銘うたれていますが)
中間的なものです。漫画時代に移行するとき、吹き出しを持ったものが絵物語の大部分になりました。これらは
絵物語と漫画の違いについて考えるのにいい材料と思いますので、この阿部画伯の作品も含めて何例か見ていき
ましょう。
上の絵はおもしろブック連載の「酋長タカシ」昭和31年の一場面です。この号のおもしろブックには少年王者
「大怪竜篇」がのっていますが、御大山川はけっして吹き出しを書くようなことはしていません。しかし、こ
の数か月後に少年王者は終了します。
吹き出しをいれると絵は汚くなります。しかし親しみやすくなります。
右の人物・豪傑ケラの吹き出しの内容は実際しゃべったことですが、左の人物の吹き出しは口に出したことでなく、
心の中で思っていることです。しかしこの人物の気持ちは、地の文にも書いてあるので不必要な気もします。
少なくとも説明的な役割しか、はたしていません。アメコミの人物のセリフに似ています。
漫画でも説明的なセリフはあります。たとえば主人公を大勢の悪漢がおそったが反対にさんざんやられてし
まったとします。そのとき悪漢たちがことさらに「こりゃ、かなわんよ」とか「うーん、かんぜんにやられ
たっ。」というようなセリフをやられながらいうことがあります。わざわざ口に出して言うのが漫画ら
しく、滑稽ですが、説明的です。過渡期の絵物語のセリフにはこの説明的な
ものが多いように思います。
リアルな筆致の絵と下世話な吹き出しの奇妙な混淆の世界です。